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ジャッカル21

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このとき、見上げているミハイルの視野の、思いがけないところに、なにやらうごめくものがあった。ホテルの表通りに面する側には、アーチが連なっているが、東側の壁には、何の装飾もなく、鉄製の外階段がついているだけだ。それは、古くなったソファーや、汚くなって巻いたままになっているじゅうたんや、大きな破れたランプシェイドなどのガラクタで、ふさがれてしまっていた。防災上問題のある事態だった。今その上を、女がひとり、恐る恐る伝って降りてくる。二階と一階の間の踊り場で一息ついてこちらを見た。ミハイルと眼が合った。女はぺろりと舌を出して笑った。ミハイルが首と腕を横に振っているのを無視して、その女は地上に降りた。最後は古ベッドから地面に跳び下りた。
歩み寄ってきて、ハイ、と言って笑った。ミハイルはまじまじと女を見た。二十七歳である自分と同じ歳ぐらいに見える。黒髪を頭の上で固めて、べっ甲の櫛で留めていた。明らかに日本人だ。色は白く、日本人にしては背が高かった。丸顔で、黒縁の眼鏡をかけている。眼が大きく切れ長に開いて、ミハエルを仰ぎ見ていた。白の半そでシャツを着て、膝下まである灰色のプリーツスカートをはいていた。靴は薄茶色のローヒールだ。
「ちょっと市内見物にいくだけよ。いいでしょう?」
女はやや訛りがあるが、上手なクイーンズイングリッシュでねだってきた。
「なぜ玄関から出ないんだ」
ミハイルはことさらに声を荒げた。こちらも英語である。
「随行団員の行動は、厳しく規制されてるのよ。全員外出禁止よ。こんなこと、今までの国ではなかったわ。お宅の国と日本とは国のシステムが大違いで、一応敵味方の間柄なんだから、わずかな情報でも漏らしたくないんでしょうけど。まったく、息が詰まりそうだわ。ねえ、見逃してくれない?」
「そんな話を聞いたら、護衛兵として、ますます責任を感じざるをえないな」
「じゃ、後ろからついて来て。ちょいと一回りして帰ってくるだけだから」
もう交代の時間だった。ミハイルはどうしようかと思案した。さっきから、女の顔を飽きもせずに見続けていた。
美しい女だった。西欧人のように表情が豊かで、額と眉のあたりに知性が輝いている。歌を歌うのを聴いてみたくなるような、かわいらしい声をしている。そのやや厚ぼったい唇から、どんなさえずりが聴こえてくるのだろうか……
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦