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ジャッカル21

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「女とか言わんでくれ。名前は調べてある。九条弘子という方だ。昨年六十九歳で子宮ガンによって死亡した。その他の母親だったかどうかは分からない。
 本題に戻ろうじゃないか。なにが本題かよくわからなくなってきたけどな。
その日本人観光客は、チェルノブイリ原発事故、ソ連崩壊、内乱、特にロシア・ウクライナの内戦時にも一貫して訪問を続けている。66年以降は一人旅で、近年は孫が付き添っている。その名目は墓参りだ。宮川船夫という人物を知っているかな? 初代から五代までの駐ソ大使の通訳を勤めた人物だった。一九五〇年に死亡してモスクワ郊外のドンスコイ寺院の共同墓地に葬られていたが、友人や縁者たちが新たに墓を建てた。何かの誤解でシベリアに抑留されていたらしい。誤解が解けてモスクワに戻ってすぐに亡くなった。その日本人観光客は、宮川船夫の会の代表として墓参に行く。なにせ、彼は戦前、宮川の部下だったからね。その後は、自分のお気に入りのコースと称してウクライナとサンクトペテルスブルグをまわって帰る」
「ペテルスブルグか。学校じゃあ、レニングラードと習ったよな。しかし、戦前に、部下として働いていたというと、もういい歳だろ」と重光。
「今年で九十八歳になる。車椅子生活を余儀なくされている老人だ。旅行には孫が二人付き添う。エアロフロートは、高齢を理由に来年からは搭乗を断るつもりらしい。私は、墓参りは口実であると思うな。というのは、原発事故や内乱の時でさえも、ウクライナに行っているからだ。放射能や銃弾が飛び交っているところへわざわざ出向くのは、お気に入りコースだからなぞという生やさしい理由からではない。その老人はペテルスブルグとウクライナにわれわれが想像し得ない強いこだわりを持っているようだ」
「その老人は、現役中は、宮川船夫と同じように通訳をしてたんですか?」と田岡。
「終戦まではそうだ。戦後は違う」
「その職業は?」と田岡はたたみかける。
「ここからがやばそうな話になるんだよ。彼は宮内庁に入るんだ。五摂家のひとつにあたる名門の御曹司だったからね。四十二歳の時からずっと侍従長だった。名前は松村浩一郎。重光は知ってるよな」
「ガキの頃、テレビや新聞で見て、名前や顔は知ってるけどね。俺たちが入省したときには、もう引退してたんじゃないか?」
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦