ジャッカル21
どの国でも、まったく犯罪の証拠を残さなかったジャッカルが、日本で初めて容疑者と断定され、本人が特定された。もはや逃れる道はない。しかし、と重光は考えた。ジャッカルは、新潟港沖合いで自分に向けての警戒態勢が敷かれていることを知った以上、計画の実行が極めて困難で、犯罪を伴う強行突破が必要で、自分の正体が知られる危険性があると分かっていたはずだ。なぜジャッカルは、今回に限って、犯罪の証拠を残したり、自らの正体をさらしたりしても、意に介さないのだろう? きっと覚悟の上なのだろう。肉を切らせて骨を切るつもりなのだ。彼の正体をさらに鮮明にすることによって、その激烈な動機が明らかになるはずだった。
明石が、そわそわした様子で、部屋に入ってきた。書類とD?Dをわしづかみにしていた。補助椅子を重光の机の脇に置くと、音を立てて坐った。
「俺も、話したいことがいっぱいあってさあ。しかし、まずお前から言えよ」
「ジャッカルは、兄貴のほう、アレクサンドルだった。今わかった」
「ほう、兄貴が死んだ弟になりすましていたということか。アフガニスタン政府の誤認かもしれんけれどな。いずれにしても捜索する側としては特定する際の困難性が増す。特に電子データの検索では、エラーが出て終わりになる可能性が増えるよな。なにせヤコブは死んでるんだから」
「さらにジャッカルの周辺を洗っていこう。それが現在の緊急事態を回避するための糸口を与えてくれるだろう」
「緊急事態の回避は警察の仕事だろう? ジャッカルの正体を明らかにするのは、外交レベルでの交渉に絶対的に有利な立場で臨めるようにしたいからだろ?」
「そうとは限らん。ジャッカルの今回の不可解だが一貫した行動のモチヴェイションを知ることは、次にやつがどう出るかを予測する助けになるんだ。とにかく断片でもいいから情報をかき集めよう」



