ジャッカル21
「……どうして、二人を使おうと思ったんですか?」
「二人とも日本語ができたからです。メカニックと日本語で話ができるのは、なんとしてもありがたかった。言葉の誤解が大事故につながりかねませんのでねえ。亡くなったおじさんか、一番上のお兄さんかが、日本贔屓だったそうで、子供のころから家の中で片言の日本語が通じていたそうです。当人たちは系統的に日本語教育を受けていましたがね。あっ、二人は兄弟同士でしたな。よく似た兄弟でした。仲がよくてね。二人とも日本には来たことがないのに、じつによく日本のことを知っていましたよ。日本料理も好きでしたね。三人でインディアナポリスの日本料理店に行ったことがありましたよ。二人とも器用に箸を使って、さもうまそうに天麩羅を食ってましたっけ」
重光は大きく深呼吸をした。
「二人のうちどちらかは左利きだったはずです」
佐々木は、あっさりと答えてくれた。
「兄のアレクサンドルが左利きでした」
重光は声の震えを悟られないように注意しながら、丁重に礼を言って電話を切った。すぐさまロシア課の明石定宗に、至急直接に相談したいことがある、とメールを送った。
次に警視総監と組織犯罪対策部宛てにメールを送った。その内容は、ジャッカルの、本名、生年月日、出身地、履歴などだった。
ジャッカルは、日本国内における連続殺人事件の容疑者として逮捕の対象になった。ロシアでも民警のレベルでジャッカルを逮捕の対象とせざるを得なくなる。日本はロシア民警がいい加減な報告を送ってきたら、抗議する権利を持ち、大使館員が捜査振りを監査でき、日本人の刑事が出張することもありうるようになった。ロシアはもはや知らぬ存ぜぬを押し通せない。国際ルールに従わざるを得ないように、日本側はやっと条件を整えたのだった。



