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ジャッカル21

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文書翻訳を十件こなした。外交文書がほぼ百パーセント英語になった現在、ロシアとフランスは頑固に自国語の文書を送っている。課外の部署や役職を指定してきた文書は、翻訳後原文をつけてランで転送する。十件中七件が課外宛のものだった。ボランティア活動である.どの文書も緊急の内容を含んでおらず、トリヴィアルに近い事柄が延々と羅列されていた。
問題なのは、今入ってきた文書だった。五分前に、自分の専用のデスクでうたた寝をしていた唐沢の携帯が振動した。?トイレ?のパソコンが受信するとヴァイブが働くようになっていた。
どこが問題かというと、まずCCを隠していない点だった。ロシア課以外に、同文のメールが、国際情報官室の一、二、四課と国際組織犯罪室の一課にも送られていた。翻訳後の送り先を指定してここにだけ送れば済むことだ。送信先が課であって課長ですらない。つまり特定宛名がない。タイトル、アブストラクトがない。ガードがかかっていない。署名が十二桁の数字だけだ。異常だった。唐沢はこのタイプの文書があることは噂には聞いていたが、じかに見るのは初めてだった。粛々と翻訳して上にまわせと言われてもいた。しかし、こちらも機械ではないから、不審感と興味を抑えることはできない。最大の問題点はその奇妙な内容だった。唐沢は、誤字脱字の多い通信文を読みながら、しだいに眉のあいだのしわを深めていった。
(……報酬はいつものようにチューリッヒ銀行本店の以下の番号に振り込んで、いや、札幌医科大学付属病院のイワモトタケハル医師に直接送っていただきたい。
追伸。その男は次のように語ったそうだ。『首相が変わっても、再び私が始末する。さらに代が変わっても同じだ。私が死んでも、私の兄弟たち、息子たちが私の仕事を受け継いでいくだろう。首相なり、首相の代替となる機関なりが終息するまで、私たちの行動は続く』)
そして、メールは、意味不明の絶叫調で終わっていた。
(警戒せよ。ジャッカルが来るぞ!)
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦