小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

恋の結末

INDEX|62ページ/66ページ|

次のページ前のページ
 

 中はとても広く明かりも順分だった。
 なんとなく暖かみさえ感じる。
 よく見ると、木製の小さなちゃぶ台が真ん中に置かれている。
「そちら側に座りなさい」
 そう言って向かい側を指さす。
 色々と思うところがあったが、ひとまず言うことを聞くことにした。
「私は三笠という。君は安芸を探しに来たのだろう?」
「はい、安芸を返してください」
「それは出来ない。安芸の居場所はここだ」
「ど、どういうことですか?」
「話せば長くなるそれでも聞くか?」
「もちろんです」
「そうか。まず、我々は少し前に君が手を合わせた神社の鎮守だ」
「鎮守……ですか?」
「うむ、つまり神だ。普段なら願い事など無視するのだが、君には恩があったからね」
「無視するんですかっ!?」
「当然だ。一々願いを聞いていたらきりがないではないか。それに我々仲間はたくさんいるが、貴様ら人間はもっとたくさんいるじゃないか」
「そういうもんなんですかねえ」
「ああ、君が中学の頃に神様のルームメイトや二足歩行の猫を見かけたか?」
「いえ」
「そういうことだ」
 なんだか釈然としないなあ。
「そして、我々に恩のある君に対しては……」
「あの、恩とは?」
「忘れたのか? まあ、あの時君は小さかったし、安芸も違う姿だったからな」
 脳裏を昔の光景がよぎる。
「もしかしてあの時の」
「そうだ。あの時、君が助けた狐が安芸だ」
 そ、そんな事が。
「安芸は君の願いを聞くとすぐさま叶えてあげに行ってくると言って飛び出していった」
「じゃ、じゃあなんで、途中で帰ってしまったのですか?」
「いや、もう君の願いは叶っているよ。すぐにそのことは分かる。だが、それには自分の存在が邪魔だと言って安芸は帰ってきた」
「それは?」
「君は安芸を連れて帰らなければ次の日の朝に意中の女性から思いを告げられることだろう」
「なぜそんなことを」
「我々は神だ。存在を広く知られるわけにはいかない」
「じゃあ、僕が安芸を連れ帰ったらどうするんですか」
「君に安芸と結ばれる覚悟があるのならそれも一つだ。その時には安芸から一時的に神格を奪うばいことになる。しかし……」
「しかし?」
 ほとんど反射的に聞き返していた。
「君と安芸では歳をとるスピードが違う。これでは安芸が辛い」
「そんな」
「君はどうしたい?」
 どうしたいなんて言われたってどうしようもないじゃないか。
 重苦しい沈黙に空間が支配される。
 と、誰かが飛び込んできた。
「あかん。たくは葵をえらぶべきや」
「こらっ、安芸。入ってきてはいけな……」
「ちょっと黙っとき。たく、ウチは大丈夫や。気にせんでええ」
「でも……」
「でもやない。ウチからの最後のアドバイスや」
「わ、分かった」
 僕はそう言うと長老に向かう。
 そうは言ったもののどうしても安芸の方を見てしまう。
「……」
 安芸は押し黙ったまま何の動作も起こそうとしない。
 しかし、一歩一歩こっちに近づき始めた。
 そして、体と体がふれあうほどに近づいた。
 そして安芸はいつかの遊園地の時のように頭を僕の胸に預けてきた。
「でも、ウチは後悔したくない」
 決意に満ちた声。だしかし体はその声とは裏腹に震えている。
「そう。ウチはタクのことを好きになってしもた」
 そして安芸はつと顔を見上げた。その目には涙を一杯ためている。
 だが、僕の答えは決まっている。
「ごめん。僕には葵という心に決めたあの子がいるんだ」
「そっか……」
 と、涙をこぼしながら笑顔を(ダッシュ)安芸は浮かべた。
 長老の方に向かう。
「僕を戻してください」
「本当にいいんだな?」
「はい」
 僕の決心は決まった。
「よし。それでは目を瞑って」
 網膜に焼き付けるよう安芸を見ると、僕は目を瞑った。
「零になったら目を開きなさい。10、9、8、7……」
 走馬灯のように安芸との思い出が脳裏をかける。
「3、2、1……」
「たく、ウチめっちゃたくのこと好きやったで」
「えっ?」
「0」
 地面が崩れ落ちる様な感覚と共に意識を失った。
作品名:恋の結末 作家名:なお