恋の結末
風呂上がりだろうか、安芸はバスタオル一枚だけ巻いてリビングに寝っ転がっていた。
「む、見んといてや」
反応は予想外のもので赤面してソファの陰に隠れた。
「別に今まで気にしてなかっただろ」
「そ、そんなこと無いわ。人をそんな……痴女みたいに」
と、安芸はそこでいったん切ると顔だけぴょこっと出してこっちを向いた。
「見たいんか?」
「ええっ、いいのか?」
「あほ! 見せるかいな」
「またかよー」
「ムードってもんがあるやろ」
「えっ?」
「何もないっ」
「そうか……ところで、今日は葵が天体観測しに来るからな」
「それで片付けとったんか」
葵が来るんだ少しは綺麗にしておかないと。
え? もう何度も家に入ってきてるだって?
泊まるとなると話は別だ。色々と隠すものがあるだろう。
「なにめずらしい、掃除してるん?」
こいつはもはや完全に家に馴染んでいた。
今もこうやってソファに寝そべってアイスなんぞを食っていやがる。
「おい、それは僕が買って来たアイスじゃないか」
僕は一息つくため、冷蔵庫から飲み物を取り出す。
半ば諦めながら僕はそう言った。
安芸は煩わしそうに手を振って「ええやないか、細かいことは気にしんとき」といっている。
「で、何で今になって掃除なんかしとるんや?」
「僕が掃除していたらおかしいか?」
飲み物をグラスに注いで一気に飲み下す。
「別にー、ウチが来てからの一週間、掃除なんてしてるとこ見たこと無かったからな」
「うっ」
飲み物が喉に詰まった。
「で、いつまでここにいる気なんだよ」
「たくの親が帰ってくるまでや」
そう言ってクチャと握りつぶしたアイスの包装紙をゴミ箱めがけて放り投げる。
しかし、そんな軽いものが弧を描いて飛ぶはずもなくポトリと落ちる。
安芸は「チッ」と舌打ちを打つ。
「立つ鳥後を濁さずを実践する気はないのか」
昔の人の言葉を借りよう。
「ちっちち、旅の恥はかきすてやで」
どうも、昔の言葉も役に立たないらしい。