恋の結末
「終わったー」
数学の授業は嫌いだ。先生の話し方が独特すぎてなに言ってんだかよく分からん。
「よう。今日は珍しく学校に来るの早かったらしいな」
そんな数学の授業に精気を吸い取られ机に突っ伏す僕の後ろから能天気な声が聞こえてきた。
「うっさい。お前まで……黙っとけ」
入学式の時にこいつ――由良に最初話しかけた僕が恨めしい。
由良の方を向くために頭を上げて後ろに回す。
ぐいっ
ほほに感じるはシャーペンの頭。
「ひっかかったな」
ばきっ
「ああっ、俺のシャーペンが!」
「知るか」
少しばかり睨んでやる。
すると、由良は両手を上げて降参のポーズをとった。右手には不自然に曲がったシャーペン。
「おお怖い怖い」と由良がつぶやく。
「その様子だと他に誰かに言われたということか?」
何だかしゃくだから、少しからかってやるか。
「ああそうなんだ。僕の彼女にさ」
彼女がいるかの様な事をほのめかしてやった。
そうしたらこいつは奇声を上げると失礼なことを言い出した。
「嘘だろっ」
「お前なんかがか?」
いちいちめんどくさい奴だな……。
しかし、真に受けたらしく、「やっぱりこいつは葵さんと……」とか呟いている。
葵が何だって言うんだよ。
「う……、うむ……」と、唸っていた由良だったが、
「し、しかし僕にはこれがあるっ」
なんかずく対抗心を燃やしはじめた。
そして、勢いよくハンカチを開いた。
それは紫色の生地に骸骨の刺繍がなされたなんとも悪趣味な物だった。
「何か変な宗教にでもハマったか?」
つい僕は奴の精神状況を疑ってしまった。
宗教って怖いからなあ。
そんな僕の懸念などどこ吹く風で由良は続ける。
「大丈夫だ。これは落とし物だ」
「僕の友人に変質者がいたなんて!?」
ふこいつとは一線を開けるべきなのかもしれないな。
「いやいや怪しいものではない」
「僕は昨日、花見に行こうと思ったのだ」
ふむふむ。
「しかし僕は気付いた。この時期は人がいっぱいで花をみるどころではないだろうと」
由良はそこで自信ありげに一息開け、
「そこで墓見に行ったのだ」
!?
ああ、僕は一瞬イスから落ちるところだったね。
僕のことなど構うことなく話は続く。
「僕の予想どうり霊園には誰もいず、一人静かにお墓を見ることができた」
お墓って見るものなのか? というか、お墓を見てどうするんだ?
だめだ。つっこみが追いつかない。
「まあそこで拾ったのがこのハンカチだ。これはどう見ても女物だろ?」
「だからなんなんだ?」
「これはもう巡りあいのチャンスだろ?」
「ああ、そうなるといいな」
色々と言いたいことはあったが、僕はただそれだけを言った。
そんな僕の適当な返事に満足げに頷いた由良は夢見心地な表情を浮かべた。
結局何が言いたかったのだろうか。
「はーい、皆さん早く座って下さい。授業、始めますよー」
その先生の一言で会話は終了し、自分も前に体を戻す。
たまに思うんだ。
あいつの祖先だけ黒くて直方体の物体に触り損ねたんじゃないかって。