恋の結末
「なぜだ? いつもより早いとか気持ち悪い」
そう言ってショートヘアーの少女、伊吹は眉間にしわを寄せた。そうすると元々つり目なのも合わさってかなり嫌そうな顔に見える。
うん、怖いね。まだそこそこしか会話しない内から好感度最低からスタートするってどうよ。
いや、まてよ。この娘はきっと攻略対象じゃあないんだ。だから好感度なんて気にしない。
……取れないブドウは酸っぱいんだよ。
「ああ、偶然早くに起きたからな」
堅い空気につられて、自然と返事も硬いものになってしまう。
そうしてさらにいい雰囲気とは言えない状態になる。
沈黙。
普段、静寂って味わえないよね。
当面の問題を遠ざけ、静寂を味わうという高尚な行いに挑戦してみる。
現実逃避? いや、違うよ。問題の先延ばしだよ。
と、乾いた音を立ててドアが開いた。
「あらあら、どうしたのですか?」
ほんわかとした雰囲気を纏いながら、フリフリの改造制服に身を包んだ深窓の令嬢が教室に入ってきた。
教室に一筋に光が差し込んだ……気がした。
「もう帰ってもいいですわよ、セバスチャン」
深窓の令嬢(ダッシュ)小鳩さんは後ろを向いて何事かをささやいた。
よく見ると後ろに、黒い服を着た執事風の男が立っていた。
「かしこまりました、お嬢様」
そう言うと執事風の男は消えるように……消えた。
執事だからセバスチャンか。なんていうか普通だな。
いや、ちょっと待て。いつから執事が全員セバスチャンだと思っていた? というか、セバスチャンてどこの国の言葉だよ。
でも、かの名探偵、ホームズの息子の名前もセバスチャンだった気がする。
「私の着替えを覗くためこいつが早く来た。最低、死刑にするべき」
伊吹は小鳩の方をを見ながら、こっちを指さして言った。
元々伊吹はいかにもスポーツ少女然とした顔付きで結構見た目は悪くない。隠れファンもいるという話を聞いたことがある。
けど、死刑は言い過ぎでしょ。
「そうだったんですの〜」
理解したのかしていないのかよく分からない声を上げて小鳩さんはほほえんだ。
冷めていた教室の空気がほんわかなものに塗り変わっていく。
「そんなに僕がちょっと早く来るのがそんなにめずらしいか?」
その空気につられて僕の口も軽くなる。
「うるさい、お前と話をしていない」
しかし、すぐさま伊吹にこっちを睨み見られて僕の口はくっついてしまう。
ごめんなさい。反省してます。
「仲の宜しい事ですわね〜」
「仲良くなんてないっ」
そう言うと伊吹は教室を飛び出していった。
「あらあら、待ってくださ〜い」
小鳩さんもそれを追いかけて教室をふわ〜と漂い、出て行った。
性格の刺々しささえ無かったら伊吹も結構可愛いのになあ。そういえばクラスでも少し浮いている気がする。まあ、小鳩さんがいるから大丈夫だろう。
そんなことよりも小鳩さんとお話できたなんて。これには三文以上の得があるかもしれない。
ふむ、早起きも悪くないかもしれない。