青いリンゴ
「落としたよ」
校門を少し出たところで彼が私にそう言って差し出したのは、真っ青な林檎でした。写真を加工でもしなければこうはならないだろうと、現実にいちゃもんをつけたくなるくらいの群青を称えて、丁度いい場所を見つけたかのように彼の手に収まっていました。その様子がとてもしっくりきていましたので、「それは貴方にさしあげます」と全く記憶にない誰かの落し物をあげることになります。私はすぐに逃げるように走りさって、見事に彼の手に青い林檎を押し付けることに成功したのでした。
それから彼は学校で度々私を探しては林檎を返そうとしましたが、律儀さに驚きながらもその都度私は断り続けました。私に渡そうと差し出す手に乗る林檎の画を、いつまでも見ていたいと思ったのです。別段彼の手が大きかったわけでも、色が普通と異なっていたわけでもないのですが、どうにも自分が持っているところは想像できませんでした。もちろん他の誰も、です。