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狂い咲き乙女ロード ラストダンス

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 立花さんの言葉に頷いた。正門をよじ登って敷地内に侵入する。ちなみに僕は裏門から忍び込んだ方がいいんじゃないかと提案したのだが、「コソコソするのは性に合いません」と却下されてしまった。だが、いざ侵入した僕らを待ち受けていたのは異様な光景だった。
「「!!!」」
 校舎へと続く僅かな距離に転がっていたのは、百合派の下っ端と思わしき少女たちだった。
「こ、これは一体…」
 立花さんも動揺しているようだった。
「仲間割れでもしたんだろうか…」
「ありえません! 奴らに限ってそんなことはないはず」
 そう立花さんが絶句した時、もう一体、壊れたマネキンを放り捨てるかのように、校舎内から少女が転がり出た。
 僕がホルスターから拳銃を抜くより早く、立花さんは鞘を払っていた。
「本山田さん、後ろを頼みます」
 立花さんがそう言うのと同時に、もう一体の少女が吹っ飛ばされてきた。
「姿を現しなさい!」
 彼女の凛然とした声が闇の中に響く。
 だが、暗がりから現れたのは僕らのよく知っている顔だった。
「千秋!」「佐藤くん!」
「なーんだ。二人とも来てたんだ。でも水臭いじゃない。ボクに内緒で戦いに行っちゃうなんてさー」
「そう言えば千秋のこと…」
「すっかり忘れてましたね…」
「んもー。二人ともひどいゾ!」
 そう言って頬を膨らます千秋は、ヤバい、かなり可愛い。しかしその恰好はまたまた異様だった。ゴスともパンクともつかない黒尽くめ。黒いノースリーブに同じく黒のショートパンツ。おまけに安全靴ときてる。どこぞの殺し屋染みた恰好だが、不思議と似合っていた。
「ご無事なようでなによりです。貴方は襲撃は受けなかったのですか?」
「ううん、帰り道に変な人たちに襲われはしたけど、五人くらいだったから余裕だったよ」
 ……余裕だったって何さ。僕なんか三人相手がやっとだったってのに…それも実際倒せたのは一人だし。
「とりあえず一階の奴らは大体片付けといたよ」
「冬美たちは?」
「二階とか、上の階じゃないかな。一階は雑魚ばっかだったよ」
「そうですか…」
 立花さんは何かが引っかかっているようだったが、ひとまず合流できた僕らは今後の動きについて話し合うことにした。
「一階はボクに任せてよ。残ってる奴らがいたら片付けとくし、探せる限りは探してみるからさ。二人は上をお願い」
 千秋の一言によって二手に分かれることが決まった。だが一人にしてしまって大丈夫なのか? 校舎の中は月明かり以外に明かりと呼べるものはない。敵がどこにどう潜んでいるかなんて皆目検討がつかないのだ。そのことを尋ねてみると、
「大丈夫だよ! ボクは武君へのラブで満たされてるから、こんな暗がりへっちゃらなのだ! それにこの戦いが終わったら…」
「終わったら?」
「ううん、なんでもない。じゃ、行ってくるね!」
 そう言って闇の中へと駆け出してしまった。
「罪な男ね…」
「へ?」
「なんでもありません。さ、上へ参りましょう」
 促された先には二階へと続く階段あった。この先にきっと修羅があるのだろう。だが、もう進むしかない。一歩一歩踏みしめるように僕らは二階へと向かった。
 階段を上がってみると、人の気配というものは全くないようだった。一般棟においては特別教室が集まっている階なのだが、全ては闇に包まれている。
「誰もいない…のかな?」
 そう呟いてみたのだが、立花さんからは何も言葉が返って来ない。どうしたのかと彼女のほうを見遣ると、彼女は文化棟へと続く渡り廊下を見据えていた。大きな窓から差し込む月明かりで奇妙にそこだけは明るかった。
「立花さん?」
「……本山田さん、先に行っていてください。そして早く裕子を」
「どうしたっていうんだ。まさか!」
「そうですよ。出てらっしゃい! そこにいるのはわかっているのよ。
 ――――――――冬美」
 クスクスという嘲笑い声が響いた。闇の中から現れたのは――
「お久しぶりです。立花先輩。あ、本山田先輩も」
 かつて腰にかかるほどあった長い黒髪をばっさりと切り落とした坂本冬美だった。腰には刀を下げている。死合う気だということだろう。
「本山田さん。さぁ早く!」
「で、でも」
「貴方が行かなければ意味がないんです! 貴方でなければ裕子は救えない。だから、お行きなさい!」
 そう叫ぶと刀を抜いて僕に向かって突きつけた。
「早く!」
「わ、わかった! ここは任せたよ」
 振り返ることはもうしなかった。託されたのだから。後は期待に答えるしかない。
 僕が森さんを絶対に救い出す!


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

「仲間を先に行かせるなんて、随分とらしくないことをするんですね」
 かつての由利恵を皮肉るかのように冬美が呟いた。
「あの頃のわたしとは違うのよ、冬美。わたしはもう一人じゃないわ」
 ――一人じゃない
 その由利恵の言葉に冬美は苛立った。
「死合う前に幾つか聞いておきたいことがあります」
「あら。奇遇ね。わたしもよ」
「立花先輩。貴女は何故私たちを裏切ったのですか? 貴女は求められ、望まれていたはず。それなのにどうして?」
 冬美の問いかけの意味は痛いほどに解る。だが、既に由利恵はその地点に立ってはいなかった。その先を得るために、今ここにいる――それは由利恵の中でただ一つ確かな答えだった。
「言った筈よ。他人に授けるものなど持たない――とね。わたしは他人ためには生きられない。悲しいほどに己れのために生きるもの」
 由利恵の言葉に対し、冬美の中の何かが弾けた。
「では今までの貴女は何だったというのですか! 百合の女王としての貴女は? 交わした契りは一体…」
 冬美の叫びが闇の中に響き渡る。
 しかし、そんな冬美を前にしても、由利恵は眉一つ動かさなかった。だがその僅かな時の刻みの中で、少しだけ由利恵は微笑ったのだった。
「全て嘘だったと貴女は言うのですか? もしそうなのであれば――斬ります」
 そして冬美も刀を抜いた。
「ふっ。百合に真も嘘もない。百合はこの世でただ一人――」
「それが貴女だと言うのですか?」
「試してみればいいじゃない。そのつもりでこの騒ぎを起こしたのでしょう? 百合派の娘たちもそのための捨て駒であろうし、裕子を攫ったのも、何もかもこのわたしと対峙する――ただそれだけのためにお前は賭けたのでしょう?」
「そこまで解っているのなら話は早いです。勝てば生、負ければ死。ただそれだけのこと。私は、自分のこの命を賭けられる!」
「剣に真があるのなら、それは一つ――勝つこと。おいで、冬美」
 勝負は一瞬。
 ただの一瞬で決まる。
 お互いが一太刀――ただ一撃に全てを込めてくること、
 それがわかっている以上、一瞬以上の勝負などありえない。
 二人は構えた。
 差し込む月明かりだけが二人を照らす。
 互いの顔半分は闇に融けたままだが、照らされたもう半分は、二人とも確かに微笑っていた。
 冬美が駆け出す。
自らの全てを賭けて。一本の刀に全てを託して。
 由利恵は動かない。
ただ待っていた。全てが決まるその時を。
「てりゃあああああああああ」
 冬美の咆哮が響く。