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狂い咲き乙女ロード ラストダンス

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 それから情報を交換し合った。襲撃を受ける前に森さんと思わしき人物から電話を受けたこと、家に帰ったら三人組に待ち伏せられたこと、その内の一人を殺っちゃったこと、二人には逃げられてしまったことを話した。話し終える頃には随分と渋い顔になってはいたが、大体のことは飲み込んでくれたようだった。
「状況は芳しいとは言えません。後手後手に回っていますし、待ち伏せられている以上こっちが不利なのは明らか…」
「でもだからってイモ引けないじゃん」
「それは当たり前です。あの腐れ外道どもにキツいお灸を据えてあげなきゃいけないのは分っています。乗り込む以上は準備がいる――という話ですよ」
「準備ねぇ…」
 彼女が持ってきた荷物に目をやった。スポーツバッグと竹刀入れが持ち込まれていた。護身具かなんかだろうか。スタンガンでもあれば心強いんだが。
「その荷物には何入ってんの?」
「持ってこれるだけの武器は持ってきました。目には目を、ですよ」
 そう言って竹刀入れを手にとって開けると、
「!!!」
 出てきたのは日本刀でした。マジで? 本物っすか?
「どっかの漫画じゃあるまいし、現在では帯刀が認められてはいないですからね、持ち出すときはいつもこうやってカモフラージュしているんです」
 ――――ヒュン
鞘を払っての一振り。美しく研ぎ澄まされた刀身に目を奪われた。日本刀と黒髪の美少女。これほど絵になる組合わせはないだろう。
「わたしはこれで冬美を斬ります。本山田さんには…うん、あれがいいでしょう」
 あれってなんやねんと疑問を呈する間もなく再び刀を収めると、バッグの中から新聞紙に包まれたものを取り出した。
「それ何? まさか…」
「そのまさかですよ」
 そう言うと悪戯っぽく微笑んだ。小悪魔スマイルは反則だろーがってそんなことを考えている場合じゃないよ! 剥かれた新聞紙から出てきたのは、
「コルトM1911A1ガバメント。アメリカではポピュラーな拳銃です。弾はちょっと打っちゃったんで十発ほどしかないですが、連中相手にはまぁ何とかなるでしょう」
「ちょっとちょっとちょっとちょっと!」
「お気に召しませんでしたか? あ、それならこっちの」
「そうじゃなくてさ、ポン刀でさえかなりビックリなのに、拳銃ってなにさ! さすがにこれはスルー出来ないよ! なんでこんなもん持って」
 んのさ――と叫びたいところだったが、僕の口は彼女の唇によって塞がれてしまった。そのまま押し倒され、舌を捻じ込まれると、もう自分が何に驚いていたのかわからなくなった。目をパチクリさせていると、すっと彼女が離れた。
「落ち着きましたか?」
「え、あ、あ、その…うん」
 その時僕らの距離は数センチ。真剣な眼差しが僕に向けられていた。目を逸らすことは出来なかった。
「死の商人ですよ」
「へ?」
「それが…立花家の事業なんです。わたしと冬美の衝突が避けられないのは単に部のことだけではないの…」
 あまりの深刻な様子に僕は何も言葉をかけることが出来なかった。
 死の商人だって?
 もう何がなんだかわからないよ…
「でももう終わりにしなきゃいけない! 今夜で全部ケリを着けなければ、きっと抗争は続いてしまう。無駄な血が流れるに決まってる…お願い本山田さん、わたしに力を貸して!」
 そう言って抱きついてきた彼女は、百合の女王でも、死の商人の娘でもなかった。
 ただ独り、普通の少女だった。
 こんなにも脆くて
 こんなにも儚くて、
 折れそうな心を抱えて、たった独りで戦ってきたんだ、この娘は。
 そろそろ僕も覚悟を決めなきゃってことか。
 いいさ、やってやるよ。
 全部まとめて面倒みてやる。
「やろう。立花さん。今夜で全て終わらせるんだ。百合だの家だの全部僕らでカタぁつけるんだ」


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それから僕たちは時間をかけて打ち合わせや準備を行った。当たり前の話だが拳銃の扱い方なんて知らなかったので、その辺のレクチャーも受けた。さらに嫌な話ではあるが、死体についても相談してみた。なんとかしてくれるとのことなので、とりあえずは安心できた。
「さて、これからどうしようか? まだ大分時間があるよね」
「そうですね。でも呑気に外をうろつくわけにはいきませんわね…」
「どこから連中が仕掛けてくるかわかんないしなぁ…」
「あと本山田さんは一応殺人犯ですし」
「いや、だってあれはしょうがなかったんだって!」
「まさか喉笛を喰いちぎるとはねぇ…ブルータルにもほどがありますよ」
「とにかくだ! 外には出れないわけだし」
「若い男女が二人っきり――と言ったらすることはたった一つでしょう」
「セクハラ禁止ッス!!!」
「あら。死姦もいけるクチの割にはカマトトぶっちゃって」
「なっ、断じて僕にそんな趣味はないぞ!」
 などといった頭の悪い会話があった。これから殺し合いに赴こうってのに、緊張感が無さ過ぎる自分たちの螺子の緩みっぷりに呆れた。立花さんが「わたしもシャワーを借りてよいですか?」と聞いてきたので風呂場へと案内し、僕は居間のソファーにひっくり返って天井を仰いだ。
 女の子は風呂が長いというのは本当だった。さらに「髪が乾くのを待ってください」と言われたので、仕方なく待ってたりなんだりしていたら、結構な時間になっていた。お互い準備の準備は済んだ。あとは行くだけ。戦うだけだ。
「行きますか?」
「行きましょう」
「「仲間を奪り返しに!」」

 学校への道中では幸い襲撃をうけることはなかった。
「襲撃班がやられたからでしょう。向こうも兵力を温存させたいはずですし」
「ということは…学校で向こうさん全員がお出迎えってことか」
「まぁそうなるでしょうね。ただ、百合の実行部隊の介入はなさそうですから、存外手こずらないかも知れないですよ」
「実行部隊?」
「百合派は学外にもシンパがたくさんいたのですよ。中でも暴力に長けた面子を集めた実行部隊が存在したんです。今回の場合、冬美の性格的に外部の協力は仰がないはず…です。つけ込むとしたらそこでしょう」
「万が一介入されたら…?」
「肚をくくるしかないですね」
「……さいですか」

 それから学校に着くまで一切の会話はなかった。お互いが戦闘モードになっていくのがわかる。これから僕らは殺し合いをしに行くのだ。打ち倒すか、打ち倒されるか。そういう領域での勝負。いや、勝負ですらないかもしれない。勝つしかない。打ち倒して勝つしか道はない。
 勝てば生。
 負ければ死。
 ――ただそれだけのこと。それだけのことであるからこそ、勝たねば。
 通い慣れたはずの道が、今夜に限って何だか違って見えた。

 いざ学校に着いてみると、辺りは不気味なほどに静まり返っていた。これから何が起きるかなんて我関せずとばかりに、あるのはただ闇と静寂ばかりだった。
「そろそろ午前零時です。行きましょう」