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狂い咲き乙女ロード ラストダンス

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 だが逃げ出すわけにもいかない。なんせ僕の家だ。もし物色された形跡でもあったら即立花さんに電話しようと決めてから、いつもと違ってちっともくつろげなさそうな我が家に足を踏み入れた。
 玄関は特に荒らされた形跡はなかった。侵入者と対峙する危険もあるから靴は脱がずに居間へと足を踏み入れ「くあっっっ!!!」
 一歩足を踏み入れた瞬間、目の前にあったのはフルスイングされた鉄パイプだった。とっさに抱えていた鞄で受けることが出来たものの、勢いを殺すことが出来ず後方へと転倒する。跳ね起きようとした瞬間、別の方角からパイプが振り下ろされた。
「あああああああ!!!!」
 痛い痛い痛い痛い痛い。身体が、骨が軋む。鞄で防ごうにもさらに追撃がやってきた。背中やら腹やらをメッタ打ちにされながら必死に転げまわる――が、一発が頭に入っ
――――――――――た?
            視界が一気にぐらつく。身体が変に熱い。それから何発かが打ち込まれたのはわかったが、身動きがとれなかった。
 殺される? 死ぬ? ここで?
 終わる? 僕が? なんで?
 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
死にたくない――
終わりたくない――
 視界は霞んで、
身体はぐにゃぐにゃで、
一瞬にしてボロ雑巾ではあったけど、僕はまだ――折れてはいなかった。
髪の毛を掴まれて無理やり起き上がらされた。相手は三人だった。全員ヘルメットを被り、サングラスに手ぬぐいで顔を隠し、揃って白衣を着ていた。僕の髪を掴んでいる奴が手ぬぐいを緩め、他の二人に笑いかけた。僕を指差しながら何か話しているらしい。聴覚がイカレたのか、何を言っているのかはわからなかった。
 ただ、奴らは嘲笑っていた。嘲笑っていやがった。こっちは痛ぇんだよちくしょう。ちくしょう。ふざけんなよ。殺すぞ。マジで殺すぞ。殺してやる。ぶっ殺してやる。お前ら。ナメてんじゃねぇ。僕を誰だと思ってやがる。
 身体は動かない。だが、たった一つ動く武器が僕にはあった。血だらけになってるけど、たった一箇所だけ、頼りになるのは――口、クチ、クチ、クククククチッチチチチッチチチチ「あああああああああ」
 迷うことなどなかった。僕は目の前の奴の喉笛に咬みついた。連中が何だか声をあげているけど、関係ないね。歯と顎に全力を込める。歯が肉に食い込んだら、さらに、もっと、もっと、もっとだ。完全に喰らいついた。血の味しかしない。グチャグチャのヌルヌル。正直不味い――が、もう勢いで押し切るしかないよね。ここまできたらさ。
 ――――そう、後は食い千切るだけ。
 肉を破れぇぇぇぇぇ!!!!!
 ガリだかグチュだか嫌な音がして、僕は目の前の少女、そうだ言い忘れてけど少女だったよ、の喉を食い破った。皮と肉を吐き出して、身体に鞭を打つどころか釘バットを打つくらいに――ってさっき鉄パイプ打たれてるけどね。なんとか立ち上がった。他の二人も手ぬぐいやサングラスを外していて、はっきりとその顔が見えた。僕と同い年くらいの少女が二人。真っ青になっていやがった。僕からしてみれば人様の家に無断で上がりこんでおいて撲殺しようとするその根性の方に青ざめたくなるけどね。まぁいいや。閑話休題。
「ちょーっとお仕置ききつかったかなぁ」
 そう大仰な調子で言ってから、目の前で喉を押さえてのたうち回ってる少女に一発蹴りをいれた。押さえていた喉から再び血が吹き出す。
「危うく殺されるとこだったよ」
 口の中が気持ち悪い。血と肉の味が混ざって吐き気がする。もう一回血と唾を吐いておいた。すっかりたじろいでいる二人組みを見ると、やっこさんたちすっかりブルってらっしゃる。引かれちゃったかしらー?
「なんだ? 君らは。いきなしさ。邪魔者は襲ってブッ殺しちゃうってーのが君らのやり方か? 残念だったねー。襲う相手間違えたのかなぁ……」
「な、仲間はま…まだまだいるんだ! 次は絶対殺して」
「上等だよ。心置きなく咬殺してやる」
 ハッタリですけどねー。こっちも相当やばかったんですけど。しかしどうもこうかはばつぐんだ――であったらしく、叩き割られていた窓からそそくさと逃げ出していった。やれやれだぜ。
「さーて残るは君をどうするか――だね」
 息をひゅうひゅうするばっかりで目が虚ろになりかけている少女に話を振ってみた。
「ひょ…ひょうひ……ん」
「ああ? 病院だ? 調子いーこと言ってんなよな、ボケ。リビングが滅茶苦茶だし、こんなに血で汚すし…ったく、片付けんの僕なんだからな。てめーがどういう立場だかわかってんの? ここで僕がバラそうが犯そうが文句は言えねーのよ、チミは」
 自分で言ってみていいなぁと思った。というか僕って完全に悪役向きだよなぁ。でも一応この小説の主人公は僕なんですよ。そこんとこヨロシク。
「役得って知ってるかな?」
 少女に馬乗りになって白衣を捲ってみる。いやらしい意味ではまだない。ふむ…うちのガッコの制服か。ってことは間違いなく百合派の仕業ってことだよなぁ。こりゃ立花さんに電話だな。だがその前に――っと。ちょっとばかしお楽しみしてもいいよネ? などとあれこれ考えていると、既に少女の瞳に光はなかった。
「あーりゃりゃ」
 ヌルヌルする指で頬っぺたを掻く。
 正当防衛になんのかなー、こりゃ。
 過剰防衛かしら? まいったねー。
 パクられたら殺人犯確定だわな。ま、いいや。立花さんになんとかしてもらおーっと。僕はあれこれ考えるのを潔く止めて一っ風呂浴びてくることにしたのであった。


シャワーを浴びて着替えを済ませ居間に戻ると、ちょうど携帯が鳴っていた。
「もしもし」
『あ、本山田さんですか。立花です。ご無事ですか?』
「あー、まぁなんとか。鉄パイプ持った怪しい三人組に強襲されはしたけどね」
『……申し訳ありません。わたくしがもっと奴らに注意を払っていたらこんなことには…』
「いや、起こっちゃったことは仕方ないよ。立花さんの方は大丈夫なの?」
『裕子の家に向かう道中でちょっと襲撃されましたが、十人くらいだったので平気でした』
 十人…だと…? もうなんかすげぇとしか言い様ないなぁ。
『それとどうも裕子が攫われたようです。「今晩午前零時学校」と書かれた紙と百合の花束が部屋に転がってましたから、十中十奴らの仕業でしょうね』
「とりあえずさ、合流しない? 今後どうするかとか相談したいし」
『そうですね。今御自宅ですよね? すぐそちらに向かいます』
 そう言うが早いか、電話は切れた。
 今晩零時――か。荒れるな、今夜は。なんだかよくわからんけど。僕は死体が転がっているキッチンで、コーヒーでも淹れながら彼女を待つことにした。

 三十分もしないで彼女は到着した。居間に通したところの第一声が、
「随分風通しがよいお部屋で」
「そりゃどうも」
 互いに苦笑いするしかなかった。