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井上 正治
井上 正治
novelistID. 45192
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仮想の壁上

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資金獲得業務の継続性を確保するためには、まずこの業務に携わる人たちを、そうでない人たちからいかにして選別するかということが大切なのではないでしょうか。この人たちを現状に満足させるためには、そうでない人たちに比べて金銭的により多くの利益を得ているということを実感させる必要があると思うのです。そのための選別ということにわけですが、この人たちが他の人たちに比べて仕事に対する能力があり、業績も優れている、しかも協調性及び指導力も身に着けていて組織にとって有用であることがだれの目で見ても明らかであるなら簡単なことでしょうが、そのような人たちばかりとは限らないのではないでしょうか。仕事の性質からして、要領のよい人たちが集まる可能性が高いのであれば、なおさらそうとはならないのではないでしょうか。その人たちを他の人たちから選別して金銭的利益を与える必要があるのです。その場合この人たちの能力と業績に着眼して選別するか、あるいはこの人たち以外の人たちの無能力と無業績に着眼して選別するかという二通りの方法があるのではないでしょうか。つまり、資金獲得業務に携わる人たちに能力、業績がなければ、彼らを競争に勝たせるためにはその下を作るという逆転の発想が必要になるのではないでしょうか。能力、業績の抜きんでた人を作らなければ、つまり、大半の従業員をどんぐりの背比べのような人間に作り上げれば恣意的な評価による選別が容易に実行できるのではないでしょうか。従って、短期間で職務が変わる定期異動を制度化することで一般職を育てるという社内教育方式は、要するに専門家を育てない、すなわち平凡な無能力者を育てるということで資金獲得業務に携わる人たちの選別になくてはならない方法なのではないでしょうか。
しかも、この制度は職場の人間を毎年一部ずつ入れ替えることによって、組織の安定にも寄与することになると思うのです。人間は他人に頼る時に非常に弱い立場に立つものですが、新しい職場に異動すればそこでの職務内容がわからず、大過なく過ごそうと思えば、ある程度の期間はその職場の先輩と上司にほぼ無条件に従うしかないのではないでしょうか。このようにしてその職場の制度や慣習が代々引き継がれることによって、変革を阻害し旧弊に従うという思考方法が従業員の血肉となってくるのではないでしょうか。この私企業ではこの職場内訓練によって同僚が同僚を管理し教育するという、最小の費用で最大の効果が期待できる方法による労務管理で私企業に必要な忠誠心、独特な社風といったものが形成されているのではないでしょうか
同じ地位の従業員同士には権限に裏付けられた指揮命令権はないわけですが、先輩・後輩というだけで命令と服従の関係に立つようにするには、どのようにすればよいのでしょうか。しかもこの場合、職場の先輩のほうが後輩よりも年配とは限らないので、よほどしっかりした規範がなければ定期異動に伴う秩序はすぐに崩壊してしまうのではないでしょうか。そのため、ここでも仕組みが必要になると思うのです。すなわち、後輩の思考方法として、異動してきたばかりで職務内容がわからないので若輩ではあっても先輩の指示には従うが、実は後輩である自分の方が私企業への貢献度が大きく、賃金も高いので先輩が異動するまでは辛抱しようという習慣を作り上げておくことだと思うのです。つまり、平凡で活力のない人格を作り上げるのが目的ではないかと思われるような頻繁な異動で不満が起きないように、勤続年数に応じた評価もしっかり行っていることを実感させることが大事だと思うのです。組織を安定させるための年功序列制度がこの私企業には絶対に必要ということになるのではないでしょうか。さらに、異動してきた職場に不満があったとしても私企業の経営方針に従って忠勤に励み、普通の成績で評価されれば、私企業が獲得した利益の一部を賞与として年に2回ほど配分されるときも、平均的な金額を得ることができるので私企業との一体感も自然に形成されるようになっているのではないでしょうか。
次に、年功序列制度の中で平穏に生活してきた人間が、今の生活を失うかもしれないような危険を顧みずに現在よりも良い収入を得ることや、才能をより発揮することを目的として人生の舞台転換をすることができるものでしょうか。たぶん、この人たちは今まで築き上げてきた社会的地位をなげうって、新しい人生の舞台で一からやり直すことは、年功を積むまでに味わってきたような下積みの苦労を再び繰り返すことになるのではないかと考えるのではないでしょうか。しかも、年功序列制度は、勤続年数が少ないころは能力や業績のわりに低い給与水準で処遇されるのですが、勤続年数が多くなり年齢が上がるに従って実際の能力や業績よりも給与水準が高くなるという傾向があるのではないでしょうか。ある年数を経て気力、体力、能力も下り坂に差しかかる恐れも考えられるようになってから、新たな人生の舞台に挑戦しようとするものでしょうか。大半の人たちは現在の安定を投げ捨てるかもしれないような冒険はしないのではないでしょうか。従って、年功序列制度の中では現在の生活を維持する目的で転職を避けようとするので、終身雇用という形になるのではないでしょうか。
無能力者を育成するという社内教育制度の結果、ほとんどの私企業で人々がこのように考えるとしたならば、正規雇用として経験者採用を普通に行う私企業がなくなり、制度として新卒採用した人たちを長期継続雇用することへの要望が強くなるのではないでしょうか。そして、長期継続雇用のためには、正規職員の人員整理を避けるため恒常的に必要最小限の人数で職務遂行することが必要になり、景気変動の影響で業務量が増大した場合は超過勤務の増加や非正規雇用労働者の有期雇用で対応せざるを得ないという労働環境になるのではないでしょうか。このように、経済変動など突発的な要因に基づいて、解雇を前提として経験者採用を行うため、身分保障も不完全となり、正規職員並みの社会保障も不可能となるのではないでしょうか。しかし、いくら終身雇用とはいっても年功序列制度が抱えている世代間の不公平や長時間労働による疾病の多発を解消するためには、強制退職制度である定年制が必要になるのではないでしょうか。
作品名:仮想の壁上 作家名:井上 正治