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井上 正治
井上 正治
novelistID. 45192
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仮想の壁上

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次に、取り付ける人たちが主体となった法人組織についても考えてみたいと思うのです。法人組織の中に通信機能の対象となった人たちがいるとすると、彼らには不完全ながら需要があると思われるのは前に想像した通りです。また、彼らが分担すれば、継続的な需要を生み出すための仕組みを構築することは可能ではないかと思うのです。ただ、私人にはなくてもよいが法人にはなくてはならないものがあると思うのです。それは事業を継続するための利潤です。法人の場合は、利潤があるか否かで需要が有効なものとなるか否かが決定されるのではないでしょうか。採算が取れるか否かと言い換えてよいのではないでしょうか。つまり診療費等で十分な費用が回収できるのかという問題だと思うのです。診療費は公定された基準によって支弁される仕組みとなっているのではないでしょうか。この違法性の強い行為に対して公定された基準が存在する可能性は皆無だと思います。出生は病気ではないので、費用は一時金という形で健康保険組合から支弁されると思うのですが、その場合でも一時金の根拠というものは必要ではないかと思うのです。そして、誰に対しても説明のしやすい根拠はやはり公定された基準を準用することではないでしょうか。電波部品を両耳の中に埋め込む技術に対しては公定された基準がないので、あとは医薬品に名を借りた電波部品の購入が公定された基準によって利潤を生みだすことができるのかどうかという問題だと思うのです。
確かに、一般的に公定された基準の中には、利潤に相当する部分が含まれていると思うのです。しかし、それは、通常の医療技術や医薬品に対する利潤であって、何に対しても通用する利潤ではないのではないかと思うのです。電波部品は通常の医薬品に名を借りて流通しているのではないかと想像しましたが、果たして電波部品の価格は、通常の医薬品の公定価格で利潤が生み出せる程度のものなのでしょうか。電波部品がそのように安価なものとは到底考えられないのではないでしょうか。なんといっても両耳の中に埋め込む電波部品は高機能、かつ、精密なものであり、世界に公然と輸出ができるような大量生産の可能なものではないと思うのです。しかも、複数の製造者が販売競争を繰り広げた結果として価格破壊が起こるような市場原理も働く余地は考えられず、部品製造と組み立て加工を分業化するような合理化も可能とは思えず、単価は高くならざるを得ないものだと思うのです。そう考えるとやはり、事業を継続するための利潤の獲得は相当に困難ではないかと思うのです。
また、先ほど高い危険性には高い報酬が伴うと思いましたが、高い危険性を負うものは高い報酬を要求するのが普通の人間の反応ではないかと思うのです。もし、電波部品が商品として流通するのであれば、欲の皮の突っ張った人間が行うような、血も涙もないむしりあいの対象になるような気がするのです。なんといっても違法な商品なのですから、弱みに付け込まれたら防ぎようがあるわけがないのです。このように想像すると、取り付ける人たちが主体となった法人組織にも有効な需要が生ずる余地がないと想像せざるを得ないのではないでしょうか。
 第7
では、なぜ有効需要がないものがこのように長期間安定的に供給されるのでしょうか。一つの視点として、対価が得られる可能性のないものが供給される仕組みについて想像してみたいと思うのです。まず、物を継続的に作るためには機械設備が必要になると思うのです。その機械設備を運用するためには機械設備を収納する建屋、機械設備を動かすための動力、製品を作るための原料、それらすべてを利用して完成品を組み立てる作業員等の、かなり大がかりな仕組みが必要になるのではないかと思うのです。そのためには、製品を作る以前から多額の資金が必要になるのではないでしょうか。その資金をどこから調達することができるのかという問題になるのではないかと思うのです。しかもその資金は一方通行ということになるのではないでしょうか。何しろ有効需要がないものを供給するのですから。そのような流通をする資金として考えられるのは税金ではないでしょうか。税金は法律に定められた基準に該当すれば個人の意思に関係なく強制的に徴収されるものであり、国民にとってはその使い道で被害を受けようとも絶対に納めなければならないものなのですから。税金が使われるのであれば、利潤を生みださなくても継続的に生産し供給することが可能ではないかと思うのです。
この国で出生したすべての人間の両耳の中に電波部品を埋め込むというのは、特定個人に対してではなく、国民すべてに対する役務の提供なのですから税金を投入することは理にかなっているのではないでしょうか。税金の投入先と言えば、通常公営の組織に限られるのではないかと思うのです。一番わかりやすいのは国営企業ということになるのではないでしょうか。もう少し範囲を広げて、国有企業というべきかもしれません。国家が最大の出資者になっている企業のことで国家の安全を守るためや、戦略的に産業を育成するために活動する企業がこれに該当するのではないでしょうか。社会主義国ならいざ知らず資本主義国で一般に知られているのは、鉄道、航空などの交通に関係する企業や電力、石油などの資源開発、供給に関係する企業が中心になるのではないでしょうか。しかし、電波部品を製造する国有企業など聞いたことがありません。この、聞いたことがないというのは非常に大切なことではないかと思うのです。というのは、税金の支出はすべて予算に計上する必要があるし、公開が原則だと思うからです。このため、成果品が発生する製造業に対して税金を投入するというのは非常に困難が伴うと考えてよいのではないかと思うのです。予算執行の過程で、有効需要のないものをなぜ製造するのか説明し、それを事績に残さなければならないと思うからです。とてもそのようなことが可能とは考えられないのではないでしょうか。地方自治体にも税金が投入されている公共企業体がありますが、出生した人間すべてを対象とするような役割は、一地方自治体には荷が重すぎるのではないでしょうか。
作品名:仮想の壁上 作家名:井上 正治