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井上 正治
井上 正治
novelistID. 45192
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仮想の壁上

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電波部品を両耳の中に埋め込むという行為は、社会が分裂しているということを前提としてなされているのではないでしょうか。この電波部品の機能を考えてみると、どうしてもそのような結論に達せざるを得ないのではないでしょうか。一部の人たちは通信機能の対象になっているのに、他の人たちは盗聴機能や操縦機能の対象になっていると思うのです。これではまるで、公然と通信機能を使っているのは仲間に対してであり、密かに盗聴機能や操縦機能を使っているのは仲間ではないということではないでしょうか。同じ言葉を使って生活する人たちに対してこのような差別を持ち込むというのは、きわめて特殊なことだと思うのです。天に向かって唾するに等しい制度と言えるのではないでしょうか。私にはとても、両耳の中に埋め込まれた電波部品によって操縦や盗聴を行われている人たちとそうでない人たちに共通の利害関係が成立するとは思えないのです。国民の利益というのは、国内の富をどのように分配するかの問題だと思うからです。一方に手厚く分配すれば、他方に薄くなるのは当然のことではないでしょうか。ここでもやはり、高い危険性は高い報酬をもたらすという原則が適用されるのだと思うのです。同じ言葉をしゃべる人たちの利害の対立というのは非常な危険性をはらんでいると思うのです。すぐに国論を二分してしまうと思うからです。どの国でも国民統合の象徴として元首というものを定め、国民の一体感が最も大切なものとして広く認識されていると思うのですが、それをあえて否定するように根本の部分にこのような差別が持ち込まれている社会が、それを前提にどのように組み立てられているのか非常な懸念を覚えるものです。果たして、外に向かって国益を主張するときに、共通の国益というものが認識できるのでしょうか。
 第6
この電波部品がどのようにして作られているのか、不思議でならないのです。というのは、これは利潤を生みだす商品ではないと思われるからです。需要があるから供給がある、あるいは、供給があるから需要が生じるというのが一般的な商品の流れではないでしょうか。自由経済社会では、商品の流通に対して対価が支払われると思うのです。対価の中に商品を生産する経費以上の利潤が含まれていれば、その経済活動は継続性を獲得することになるではないでしょうか。電波部品の供給を考える場合、その前提となる需要と利潤について想像してみたいと思うのです。
大半の人間の両耳の中に電波部品が埋め込まれていると想像しましたが、また、大半の人間は、両耳の中に電波部品が埋め込まれていることを認識していないと、非常に強く想像できると思うのです。ということは、大半の人間が自分の意思で両耳の中に電波部品を埋め込むことを望んだからではないことを意味していると思うのです。従って、大半の人間に対しては、需要を発見することができないと考えてよいのではないでしょうか。では通信機能の対象となっている人々についてはどうでしょうか。彼らは、両耳の中に電波部品が埋め込まれていることを自覚しており、しかも、埋め込まれた電波部品が自分に対して被害を及ぼしているのではないと認識していると思うのです。そうだとすれば、この電波部品をこれから生まれてくる自分の家族にも是非埋め込むべきだ、いや、埋め込んでほしいと願うでしょうか。多分、自分の家族だけに埋め込んで欲しいという意思はないのではないかと思うのです。本能的に、この電波部品によっていつ操縦機能や盗聴機能の対象者のように被害者になるかもしれないという計算が、この人たちでもできるのではないかと思うからです。それは、この人たちは電波部品が埋め込まれていることによって、国内の富が自分たちに対して手厚く分配されていて、電波部品が埋め込まれていることを自覚していない人たちはそうではないと認識しているのではないかと思うからです。違法なこの行為に対して反対しないのはこのためではないかと想像するのです。すべての人間に埋め込むのであれば自分たちの利益のためにも埋め込むことを望むけれども自分の身内だけならば避けたいと思うのがこの人たちの本心ではないかと思うのです。こういう前提に立つならば、一部の人たちには不完全ながら一応需要があると推定できるのではないでしょうか。
次に、取り付けている人たちはどうなのでしょう。彼らは通信機能の対象となっている人たち以上の高い危険性を負うことによって高い報酬を得ているのではないかと思われるのです。引くも地獄、進むも地獄という舞台設定がある場合百人が百人前進を選択するのではないでしょうか。従って、大いに需要があると考えるべきではないでしょうか。全体として判断した場合、一部の人たちには電波部品に対する需要があるといえるのではないでしょうか。
ただ、このような需要が、有効需要と言えるでしょうか。この人たちは、自分のお金を支出してまでこの電波部品を購入しようとするでしょうか。答えは否だと思うのです。通信機能の対象となっている人たちがこの電波部品を購入していったい何ができるでしょうか。この人たち個々人は自分の守備範囲の人に対しては電波部品を埋め込むことはできても、守備範囲以外の人に取り付ける可能性はないのではないでしょうか。ということは何の役にも立たないということなので、わざわざ自分の金で購入する動機が皆無であるということではないでしょうか。従って有効需要があるということはできないと思うのです。彼らには確かに電波部品を他人の両耳に埋め込む機会と手段を持っています。しかし、自分で購入した私物を公の場で埋め込み、その資金を回収し、使った分だけ補充し、それを保管するというようなことをすべて自分の責任で行うのでしょうか。それはありえないと非常に強く想像できるのではないでしょうか。
作品名:仮想の壁上 作家名:井上 正治