小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
井上 正治
井上 正治
novelistID. 45192
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

仮想の壁上

INDEX|3ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

市場で自由に流通する一般医薬品は、例え不足したとしても消費者は代替の医薬品が利用できるので社会的混乱が起きる恐れはないでしょう。また、余ったとしても医薬品販売業者の損失で処理されれば、社会的には何の問題も起こらないと思うのです。しかし、処方箋医薬品の過不足は医療施設の経営及び患者の安全に重大な影響を及ぼすと思うのです。処方箋医薬品は大量生産によって費用を軽減できる性質のものではないので、薬品製造業者も必要量の把握は絶対に必要ではないかと思うのです。医薬品製造業者が処方箋医薬品の在庫管理を行うのであれば、医療施設に保管されている電波部品の在庫管理も当然行うことができると考えられるのではないでしょうか。電波部品は、医薬品製造業者の管理の下、他の医薬品とともに配送業者によって医療施設に提供されているのではないかと考えるのが最も自然であると思われるのではないでしょうか。
 第5
電波部品を埋め込むのがなぜ両耳の中なのでしょうか。一番大きな理由は、そこが一番脳に近く人体の指揮命令系統に影響を及ぼしやすい、つまり人間の思考を支配しやすいからではないかと思うのです。人間の脳からは活動電圧が発生することが知られていて、頭部の21か所に端子を装着しその活動電圧を計測すれば、脳の活動状況が脳電図として観察できると説明されています。その原理を応用し、外部から脳の活動電圧を人工的に制御することができれば、脳の活動自体を支配できるのではないでしょうか。人間の思考も身体的行動も脳の活動のたまものですので、脳の活動を支配することができれば人間そのものの支配が可能になるのではないでしょうか。たとえば、脳の活動を妨害して人間の全人格性を毀損するとします。その場合は人間の能力の大半が妨害により毀損されるわけで、その人は社会からほとんど無能力者の烙印を押されることになるのではないでしょうか。自己責任に基づく自由競争社会にあっては、これは致命的な傷を負わせることになるのではないでしょうか。脳の活動に対する妨害がなければ社会的に相当な働きをして貢献できる人が無能力者として本来なら得られたであろう社会的地位や名誉を失うことになると思うのです。これは本人にとっても社会にとっても大きな損失であるとともに、心の中に消すことのできない傷跡を残すことになるのではないでしょうか。
また、脳の活動を妨害するだけでなく脳の活動を誘導することも可能なのではないでしょうか。人間には、育った環境、受けた教育、生まれつきの性格等によって刷り込まれた先入観というものがあると思うのです。それは、その都度意識して考えるのではなく、条件反射のように体で覚えているものではないでしょうか。いくら人間の脳の活動電圧を制御できたとしても、脳の思考に基づかない反射的な活動を制御することは不可能と思いますが、極端に言えば、上か下か、右か左かというような思考段階であればどちらかに誘導することは可能なのではないかと思うのです。脳の活動を妨害すれば、普通の人間であれば決断が鈍り迷うこともあるのではないでしょうか。そういう状況を作り出しさえすれば、人間の脳の活動を操縦することができるのではないかと思うのです。
次に、その人の思考を盗み見ることも可能なのではないでしょうか。俗な表現を使うなら盗聴ということになると思うのですが、「公開を望まない人の会話をひそかに聴取または録音すること」という盗聴の定義に当てはまらないかもしれません。盗み見るのは会話ではなくて思考なのですから。また、無線通信は誰でも傍受が可能であるという大前提があるので、これも盗聴には当たらないと思うのです。しかし誰でも自分の思考が密かに盗み見られていると知って穏やかでいることはできないと思うのです。基本法にも思想良心の自由として、人の内心には誰も立ち入ることはできないこととされ、人の内心は厚く保護されているのではないでしょうか。思想良心の自由は、民主主義社会を支える精神的自由や表現の自由の基礎となるもので、それがしっかりと保護されて初めて健全な社会が実現されるのではないでしょうか。人には多かれ少なかれ他人には知られたくない秘密というものがあると思うのです。これも俗な表現を使うなら私生活というのでしょうか、それが密かにではあっても知られることになるのですから、知った人の人格にもよるのでしょうが、大きな災難に巻き込まれる可能性があると思うのです。よくある例ですが、ここだけの話と断って一般に知られていない秘密を洩らした時に、その内容が公にされた時の災難を想像すればよいと思うのです。思想良心の秘密が保たれないというのは基本法の基盤を覆すという意味で極めて違法であるといえるのではないでしょうか。人間が抱く思想良心は、当然ですが発表の機会が保障されていると思うのです。しかし、これも当然ですが発表しない自由も保証されているのではないでしょうか。発表するかしないかの判断は本来その人の大切な権利ではないでしょうか。やはり、個人情報の保護は民主主義社会の根幹であり、内心は他人が盗み見ては絶対にいけないものだと思うのです。
もう一つ忘れてならないのは、意思を伝達するための手段になるのではないかということです。脳の活動電圧を操作することができれば、あたかも無線電話を掛けるように、電波部品が取り付けられた人と脳の活動電圧を操作する人の間で話ができるのではないでしょうか。しかも言葉を発する必要がないので、声も出さずに密かにです。このためには、前に説明した操縦機能や盗聴機能にはない環境が必要になるのではないでしょうか。操縦機能や盗聴機能は、電波部品を埋め込まれた人が埋め込まれていることを自覚していない場合に行うことができる機能であると思うのです。激しい表現を使うなら、敵視している人に対して行使する機能と言えるのではないでしょうか。しかし、この意思を伝達すること、つまり通信機能はそうではないということができると思うのです。敵視している人に対してこの命取りにもなりかねない秘密を打ち明けるような接触を、誰がするでしょうか。もうお分かりと思いますが、これにはいくつかの前提が必要となります。まず、電波部品を取り付けられている人が取り付けられていることを自覚していることです。次に、電波部品を取り付けられている人が電波部品に対して被害意識を持っていないことです。最後に、電波部品を取り付けられている人が取り付けた人を敵視していないことです。つまり、世界観を同じくする人たちの手段と言えるのではないでしょうか。こういう機能を活用するために電波部品を埋め込むのは両耳の中でなければならないのではないかと想像するのです。
作品名:仮想の壁上 作家名:井上 正治