SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編>
幾人かの青年達は子供達から見えないように他の場所に移動していった。
順番に帰し始めているかもかもしれない。
大きな翼の音がいくつもいくつもしたから。
(僕もなにか役に立て無いだろうか…)
ヴィラローカの顔は青白く、眠りにはいったのか入っていないのかわらから無いが目を瞑り苦しそうではある。
肉をそぐ役目の青年は、他の青年に火を起こさせてナイフをあぶっていた。
消毒ができないからか。
これはこれで一般的なやりかただろう。
でも、匂いが…するんだよね…
ジュ
”・・・っ”
どうやら薬に詳しくてもこういったものは苦手らしいカティが思わず顔をそむける。
でも肉の焼ける匂いは鼻を突く。
肉料理は暫く食べられないだろうな・・・
なんて考える僕は、相当なのんき者だろう。
というか。
なにかできそうなのだが。
僕は青年の手の動きを見ながら考える。
そういえば、傷口を消毒できたとしても血清が無いといってなかったか。
無いなら作れといいたいが、その材料も無いし一朝一夕で作れるとも思えない。
何か出来そうなことが・・・・
「あ」
あったかもしれない。
”?”
顔を背けることにより丁度僕の方を向いていたカティが見上げてきた。
「神官魔法っていうのがあったよ」
***
帰りは青年達がハンモック状の物を作ってそれにヴィラローカを載せ、交代交代で運んだ。
僕たちも運んでもらった。
僕達、とりえ分けカティは軽くて運ぶ方も楽だったみたいだけど、翼があるために翼を含めなければ三人中一番小柄なはずのヴィラローかを運ぶのが一番大変だったようだ。
家の前まで送ってもらって、室内へは僕が運ぶ。
こういうとき有翼人の家特有の扉の大きさは便利だ。
ヴィラローカの部屋は奇妙な感じだった。
寝床が二つある。
天井近くから下がっているハンモック。
この地方の有翼人の室内での寝床は一般的にこれらしい。
しかし床の上に簡易ベッド。
その大きさは翼があれば収まりきらないであろうが、翼を消せばちょうどに見える。
コレで眠るためにヴィラローカは夜間翼を消しているのだろう。
ハンモックのほうには最近使われた形跡があまり見られず…無造作に服がかけられていたりしたけれど、ベッドには今朝も寝ていたのであろう形跡がある。
「今どけます」
眠っているヴィラローカに翼を消せと言うのも無理な話で、カティサークがハンモック上の荷物をどけてくれてやっと寝かせることが出来た。
片翼が力なく床についた。
「本当に…ありがとうございました」
一段落したところで、泣きそうな顔のカティサークがいた。
リビングにぺったり座りこんで本当に疲れたらしい。
精神的にも肉体的にも。
「大したことはして無いよ。それに失敗したかもしれないことだしね。運がよかったんだ」
神官魔法は僕のもっとも苦手とするところ。
それでも勉強しないわけにはいかないから勉強だけしていた。
実践でつかったことなど皆無だったのだ。
どのような魔法だったかと言うと、肉体、特に血液中などに入り込んだ毒などを取り除くという、そのままの魔法だ。
これは水系の魔法だということで大海の神官しか使えない。
まぁ、天空の神官には又違ったものがあるのだけれど。
それを、一か八かでつかってみた。
失敗すればどうなったかわからない。
どうやら成功したらしいが、ヴィラは眠ったままだ。
本当に成功したのならば、カティが飲ませた睡眠薬も消えているはずなのだけれど。
外はすっかり暗くなっていた。
規則正しい寝息をたてるヴィラローカも確認したところで、
ぐぅ〜…
お腹が減った…
カティサークを見れば、こちらも病人ではないかと思わんばかりの顔色。
…そうだ!
「キッチン借りていい?」
「え…?」
ボンヤリしていたカティサークは僕の言葉にボンヤリとうなづく。
僕がキッチンへ行きゴソゴソを動くのを感じて、やっとあわててキッチンへやってきた。
「あ、申し訳ないです!僕がやりますから…!」
言いながらもふらついていたりして。
「まぁお世話になっている礼だと思って、座ってて?」
「… でも……!」
僕から包丁とフライパンを取り上げようとするけれど、平常時だって僕からそれらを奪うことなんて出来ないだろう。
当然体力も減っている現状不可能なことだった。
「僕の料理の腕でもみてみてよ?」
なんとなく僕に押し切られてしぶしぶリビングへ戻っていった。
ヴィラローカの分は一応作ったけれど、結局起きてこなかった。
翌朝起きると、カティは早々と出かける準備をしていた。
「どこか行くの?」
昨日の今日で疲れているだろうし、ヴィラローカの状態も心配だろうに。
「はい、薬草をつんできます」
なるほど。
「着いていこうか?」
「いえ、申し訳ないのですが、よろしければ姉の様子を見ていていただけないでしょうか。そして起きたらそこの粉をお湯に解いて飲ませて欲しいのです」
テーブルの上にある湯飲みに粉が入っている。
茶色の粉だ。
「其れくらいお安い御用だよ。気をつけて行っておいで」
「よろしくお願いいたします」
それだけ言うと、あわただしく出ていった。
僕自身、今日はヴィラローカの様子が心配だからこの家にいるつもりだった。
出かけたところで心配で何も手につかないだろう。
まだ肉体労働なら仕事も出来るけれど、現状観察行為中心だから益々身が入らないことこの上ない。
まだ眠るであろうヴィラローカの様子を見るためにその部屋に足を踏み入れた。
苦しそうな様子も無く、規則正しく胸を上下させて眠っていた。
一応服は楽なものに着替えさせてある。
翼をハンモックから外に投げ出すようにして苦しそうにも見えるのだけど、寝顔は安らかだ。
一昨日酒を飲んだ時、翼を綺麗に保つことが好きなのだと言っていたけれど、毒蛇とも格闘したというし結構毛羽立っていたりほころびが見えたりした。
目が覚めたら手入れに余念ががなくなるのだろうな、と思うとその姿が浮かんでおかしくもある。
また、昨日確り見れなかった部分まで部屋の中を見回せば、ベッド以外にも有翼人の部屋には無いと思われるものも幾つか見てとれた。
無造作にかけてあることで分かったけれど、通常の翼の無い人間の着る服。
殆どの部分が金属で作られている武器。
普通の人間の形態をとることができるから、こういったものがあるのだろう。
服も武器も、その姿で人間の村や町などに出入りすることがある証拠では無いだろうか。
通常は、有翼人は木や石を加工したもの、または刃の部分だけ金属で作った武器しか使用しない。
ちょっと気になって武具のうちの一つ、槍を手に持ってみた。
先日もヴィラローカが持っていた物だ。
「!」
思った以上の重量が腕に掛かる。
重いかもしれない。
僕自身にとってはそれほどではないけれど、普通の感覚としては多分。
僕なら片手で扱える範囲の重さだけれど、そう、カティサークならば両手でも持つのがやっとでは無いだろうか。
ヴィラローカはこれを扱えるのだろうか?
使えなかったら持ってもいないか。
どんな使い方をするのか、後で聞いてみよう。
部屋の中を一通り見てまわった後、今度は包帯の巻いてある足の様子をみる。
作品名:SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編> 作家名:吉 朋