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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編>

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魔法をかけた時点で腫れは引いていたし色も通常にもどっていた。
包帯の上からではそのときから変化は感じられない。
あと、大きな怪我は左足ふくらはぎだったけれどそれ以外にも大小幾箇所も怪我があったためにそれらも治療してある。
脹脛はまだいいとして、腰元の怪我などは服をずらして包帯を取らなければ状態がわからない。さすがにそこまでするには僕も本職ではないし、目を覚まさない女性に対して失礼だよな。
って、僕男じゃないんだけどね。
……
………
あ!?
カティサークにに言ってない!


治療の痕さえなければ普通に眠っているのと何も変わらない。
それを確認できただけでいいのだけれど、僕はなぜかこの部屋から出ることにためらいを感じた。
自分でもどうしてなのか分からない。
一度足が出口へ向いたはずなのに、いつの間にかまたヴィラローカを見ている。
同年代の他の有翼人の女性よりも大分筋肉質な体格をしている。
もともと獣族と人間のハーフというものは、獣族本来の精霊を使役するの応力は大分劣るけれど腕力など肉体的能力は獣族や人間を上回る。
各言う僕もそれに当てはまる。
僕の場合は4分の1しか獣族の血は入っていないが、身体的能力は獣族や神官よりも勝る。
それが…僕が聖気持守護者をつれていない理由の一つでもある。
実のところ僕にも契約を結んだ守護者がいる。
しかし彼女には彼女の生活があるし…ともにはいられない理由もある。
神官としては通常はこまめに邪気を抜かなければすぐに体調が悪くなるけれど、元々邪気に強い血族であることも相まって一度邪気を抜いて聖気を貰えば大分長いこと体調を保てる。
腕力も人並み以上にある。
人魚の姿になって泳いでも大分速い自信もある。
話ははずれたが、こう体格を見ていると女性的な体格をしていることを抜かせばカティサークのほうが華奢だと分かる。
二人の関係を見ているに、姉と弟というよりも保護者と被保護者に見えることが多々あるのは、この単純な力関係も原因のように感じる。
……いや。
もしかしたら名前も関係あるのだろうか。
別に『そう』と決まったわけではないがもしヴィラローカの名前の由来が僕が考えているとおりなら、彼女は自らの名前を体現しているに過ぎない。
『ヴィラローカ』という名前の意味。
それ自体は単純なのだが…
「ヴィラローカ…」
起こさないように、そっと口にしてみる。
記憶の中の笑顔が見えた。
目の前のヴィラローカの、ではない。
もう一人の、僕の知るヴィラローカのもの。
目の前のヴィラローカの肌の濃さへ日焼けのものらしい。
もう一人のヴィラローカはどうやっても焼けて色がつくようなことは無くて、真っ白い肌だった。
体格もあちらは華奢だ。
もしかしたらカティサークより華奢かもしれない…
結局事件のあった翌日はヴィラローカは目を覚まさなかった。
僕もカティサークも心配になって幾度か部屋を覗いたけれど変化は無いままだった。




夜遅く。
なんとなく寝付けずにベッドでごろごろしていたところ部屋の外で物音が聞こえた。
元々隣の部屋から物音はしていたから、カティサークが出てきたのだろう。
翼人の夜は早く朝も早いため、栄えている町ならばまだ光も人もあふれているだろうがこの時間はすでに寝静まっている。
…まぁ特にこの家は村はずれにあるというのもあるけれど。
耳を澄ますと玄関より表に出て階段を下りてゆく音も聞こえた。
この家の下部分は他の家と異なって、柱か土台に見せかけた小部屋が存在する。
トイレと風呂と井戸になっており、この三つの水場、連動していてなかなか凄いつくりで教えてもらった。
まず井戸がある。これは大きさは通常よりも小さいが一番高性能だ。
地下から水が絶え間なく汲み上げられている。水量の少ない季節などは手動でも汲み上げられるらしい。
その水は地表より一段高い場所より出てきて、水路を流れてゆく。
水路途中に分かれ目があって普段はそちらへ水が行かないように仕切られているが、仕切りを外せばその水が風呂へ流れ込む。
風呂へ行かずに水路をまっすぐ流れていく先にはトイレがある。
途中いくつか分岐があるが現在は全て仕切られ流れ込まない。
で、そのトイレ。
要するに水洗式になっている。
二人の父が作ったものだというが、室内のキッチンといいなかなか器用な人だったようだ。
この蔵書の数…この部屋の壁も埋め尽くすほどの、書物も全て集めて読んだらしいのに。
そんなことを思い出しながらも、なかなか寝付けずにいつづける。
……何か忘れている気がする。
……なにか……
あっ?!
アレ伝えてないや、カティサークに!!


部屋の外の様子を探っても帰ってくる気配がない。
僕も妙に目が覚めて眠れない。
たぶんヴィラローかはまだ目を覚まさないような気もする。
夜風に当たりながら、カティサークと顔を合わせたら忘れないうちに伝えてしまおうと僕も部屋を出ることにした。
リビングには小さな明かりが一つ灯ったまま。
これだけで僕にとっては充分明るい。
…もしかして。
カティサークの特殊な精霊を除けば『通常』の精霊を使役できるのはこの家の中で僕だけなのではないだろうか?
こんな村の中にあって…実に特殊な環境だと思う。
外に出ると雲が少し出ていて星明りも完全ではなかった。
しかし屋外は中よりも更に精霊の気配が濃厚で視界も大分はっきりしている。
この家の下にあるあの仕組みが特に水の精霊の活動を濃厚にしているのかもしれない。
階段を下りていくと、その装置のある方から物音がした。
やはりカティサークはそちらにいたらしい。
暫く待ってみるか、それともどこか行くか…どこか行ってしまっては目的が果たせないか。
結構時間も経ったからそろそろ戻ってくるのではないだろうか。
とりあえず一歩一歩踏みしめるように階段を下りる。
すると、火の光がちらりと例の場所から見えた。
「カティ?」
「…スプライス様ですか」
別に何を思ったわけでもないが、普通に返ってきた声に酷くほっとした。
風が周囲の木々の葉をこすれあわせて騒々しい音が場を包む。
「…っくし!」
風呂に入っていたのなら湯冷めしてしまうよな…って、そうか。
風呂に入るには湯を沸かさなければならない。
それで時間がかかったのか。
「大丈夫?」
寄っていくと意外な格好をしていた。
髪から水を滴らせて片腕には濡れた服。
もう片手にはランプを持っていて、上半身は裸で下だけ膝丈のパンツをはいている。
ぱっと見「大丈夫?」とまた声をかけそうになるほど細い体型だ。
食事している姿を見たりして普通に量は食べているようだったけれど。
「す、すみませんこんな格好で」
顔をかすかに赤くして謝る姿がかわいらしい。
…って。
何。
何言ってんのさ僕…
大丈夫。
えー…何か分からないけど、とりあえず自分に言い聞かせる。
大丈夫。
「気にしないで、本当なら僕だって寝ているはずの時間だし」
とりあえず、カティサークが風邪を引く前に部屋に行ってもらわなくちゃ…って、僕の目的はたった一言だった。
「…大したことじゃないんだけど、カティサークに言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「何かありましたか?」
風が無ければ周囲はそこそこ暖かい。