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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編>

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…はっきり言って速くない。
思ったとおりだ。
僕は村長に話を告げると即効カティサークを追った。


カティサークが家に着く前の追いついてしまったけれど。

「その沼に通じている川とかって近くにある?」
包帯やなにか布、ナイフ等急いで準備をするカティサークに、特にすることも無い僕は入口まで下がって家の中の気配を追う。
「はい、この近くに流れている川が通じています」
たぶん昨日案内してもらった途中にあった川かな。この村に来る時に横にしていた川だ。するとそこそこの広さと深さがあったと思う。
ならば大丈夫そうだ。
「そこまでどれくらい?」
「僕の足だと2時間近くかかります」
カティの歩調も、走る速度もそんなに早くないし、体力なさそうだから走っていくだなんて無理か。
カティサークは部屋からバッグをもてきて、薬棚へ向かう。
「昨日のあたりはそれなりに深さがあったけれど、湖近くの川も深い?」
「…ええ……」
薬棚で何かを物色し始める。
ルーウェンは上から二段目左のほうの薬をごっそり持っていったようだ。
「その袋の中身って濡れて困るものある?」
「本とかははいってないので大丈夫ですが…」
多少いぶかしそうに僕を振り返る。
何をしたいかわからないだろうな。
「そう。ではカティ濡れるの嫌いとかある?」
「…いえ特には…」
「じゃ、僕に任せて」
そういって、準備を終えたらしく入り口へやってきたカティサークの体をひょいと持ち上げる。
お姫様抱っこという奴か。
なつかしいなぁ…
「…え?!」
幾ら急いでいるとはいえ、さすがにコレでは驚くか…
「少しでも早くつきたいだろ?嫌な思いもするだろうけど其れでよければ僕にいい方法がある」
言いながら昨日の川のほうへ向かう。
「!」
幸いは村の中心部を通らなくても済むことか。
何人かにはみられたけれど、まぁ、しかたない。
常人よりもずっと早く走ってるから、そっちのほうに思考が行くかもしれない。
それもこれも川辺にでるまでの辛抱だ。
腕の中のカティを見ればただただ驚いているだけだった。
「この川でいいの?」
息も切らさず川辺に出て一度カティをおろす。
「は、はい・・・」
カティサークの方がよろけて、ちょっと酔ったかもしれない?
でもまだまだこれからだ。
「ここからだとどれくらいかかるだろう?」
「僕の足ですと90分以上かかります」
それよりはずっと早くつけるだろう。
うまくいけば…30分くらいでつかないだろうか?
カティサークを下ろすと、靴を脱いで水の中に入る。
「カティ、バッグ前に抱えて服の首もと開いておいて…上着脱いじゃった方がいいかな?」
「泳いでゆくんですか?!」
そういいつつも、素直に上着を脱いでバッグの中に入れる。
僕の脱ぎっぱなしだった靴・・・サンダルも入れてくれた。
思ったより白い肌で、思った以上に華奢だった。
そういえばさっき肩をつかんだ時は僕自身動揺していたのかもしれない。
今思えばたしかに肩はほっそりとしていて…
「まぁ、そういうことかな」
胸に去来しそうだった記憶をおしやって、水の中にザブザブと入ってしまう。そして胸の辺りまでつかったところで下半身の服を総て、ハーフパンツだけなのだが、脱いで上着の方へ入れてしまう。
「???」
僕の行動に首を傾げるしか無いカティの前で、僕はもうひとつの自分の姿をあらわした。
下半身に服があっては邪魔な理由。
「!」
そのまま一度全身水に漬かってカティのいる岸へ泳ぐ。
やっぱり水の中は気持ちがよい。
海が本拠地だけど、淡水でもね。
「人魚…ですか」
思わず僕の下半身に目の行くカティに手を差し出して水にはいるように促す。
「海の獣族の血がはいっていてね。気持ち悪いかもしれないけれど、我慢して」
「いえ、そんな…」
水の中に入り、僕の手をとって深いところに来る。
きっと初めて見るであろう人魚という獣族に戸惑いは多少隠せない。
「それと、ごめん、抵抗しないでね」
まだカティサークも足が付くとはいえ、腰より上の水域になると緩やかな川の流れでも大分体を流す。
「?」
必死に立つカティを抱きかかえると、僕は心中もう一人に「ごめん」と謝った。

「・・・!」

自分でも思い切ったなぁと思うくらいに潔くその唇に唇を合わせる。
というより、ディープなのをいかせてもらってしまった。
「!!」
まぁ、意味無いかもしれないけれど後で僕が男ではないと一応強調して言っておこう。
一応。
それで何が変わるわけでも無いだろうけれど。
一瞬抵抗しそうになったけれど、僕の言葉を思い出してくれたのか抵抗もせずに受け入れてくれる。
素直だなぁ…
僕は押し倒すようにカティを水の中に引き入れて、唇を離した。
いや・・・ディープなのじゃないと効果ないんだって・・・
「・・・口あけて大丈夫だよ」
水の中で耳打する。
僕の言葉に、目まで瞑っていたのをそっとあけて恐る恐る口を開く
”・・・呼吸が出来ますね”
驚いたような声が・・・心に来た。
そっちのモードのスイッチが入ったか。
僕は一つうなずいて
「いくよ」
とカティを強く抱きしめた。
聞いた話だと、相手の声は心を読むわけでは無いらしいので口にしないと聞こえないとか。
心も読めそうだけどね。
本人的に拒否しているのかもしれない。
”お願いします”
それを感じ取って僕は尾で勢い良く水を押し蹴った。



現場へは予想通りの時間で着いた。
沼に近づいたであろう辺りで陸に上がり、ずぶ濡れのまま歩く。
人の気配が幾人分も感じればそこが目的地。上陸した場所からすぐだった。
全身ずぶぬれな僕達を周囲は驚いたりもしたけれど、かまわずヴィラローカの元へ行く。
「…早かったわね」
その様子は思ったより良いような、悪いようななんともいえない状態だった。
意識があるのが不幸中の幸いだろう。
足の傷口は右足ふくらはぎ、フトモモに止血のためらしい紐が硬く結ばれている。
心配そうに遠巻きに子供が見ていて、それに向って青白い顔でヴィラが「大丈夫よ」と手を振る。
「どうやら大沼ポージャらしい」
ヴィラローカよりも年上に見える青年がカティに告げる
聞いたことが無い名前だかこの地方では有名なのだろうか。
「カティの薬のおかげで進行を遅く出来たが、血清は村にも無かったはずだ」
”…えぇ、以前も無かったですよね。あの時は毒も微量でしたから大丈夫でしたが…”
村から離れているゆえか陸に上がってからも声を出す事は無かった。
ただ、目は開けていられる場所らしい。
「ああ、今も意識を持っているのが不思議なくらいだ」
「やはり俺たちよりも頑丈だからだろうかな」
とはいえ、このままでは危ないということか?
「はやくどうにかするならしなさいよ!」
と言う強気な・・・
いや、逆とも取れるか?
カティサークの顔を見れば苦悶の表情がある。
”とりあえず、食われた傷口を切り取りましょう”
くるんであった傷口を見て…真っ青どころか紫だ。
「俺がやる」
”…お願いします”
今にも卒倒しそうな表情のカティサークは名乗り出た青年にまかせてバッグの中から震えそうな手つきで瓶を取り出す。
”姉さん、これ飲んで”
「睡眠薬?」
”そんなものだよ”
「そう」
何のためらいも無くクイッと飲み干す。