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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編>

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誰が歌っていたのか…わからない。
「いえ、大丈夫ですよ!」
と言われても、手が止まっている。
他の女性も同意するようにこちらにうなづきかけてくる。
「僕のことは気にせずお仕事続けてくださいね」
そうは言っても僕だってさっきの歌声が気になったからここに来たのだし…
コレでは歌い始めてくれないか。
僕に言われて素直に手を動かしだす者が一人。
僕に答えてくれた人は、去ろうとしない僕に何か声をかけようと考えているらしい。
もう一人は…僕に背を向けてはいるけれど、手も動かしていないようだった。
翼でよく見えないんだけどね。
…よし。
「さっき歌声が聞こえたと思ったんですが…」
ピクリ
反応したのは三番目の女の子。
「アンタが変な声だすから!」
それは最初に仕事を再開した女性。
そう言われるかもしれないな〜と思って迷ったんだよね。
「あんなの初めて聞くでしょう」
歌っていた当人が小さくなる中、他の二人が笑い出す。
確かに、最近まれに聞かないほど音痴だった。
「…神官様っ、ヴィラさんのところにいるんでしたよね」
あわてて歌っていたらしい女の子が振り向く。
手にあったのは、他の人のものよりも細かく丁寧で綺麗な刺繍だった。
「えぇ、ヴィラローカさんの家にお世話になっていますよ」
他の人の手元も見れば服に刺繍を入れているところらしかった。
「ヴィラさんよりは、マシですよね?!」
「え?」

……
そういえば。
この村に来てから始めて聞く歌だったんじゃないか、今の。
「ほら、ヴィラよりもひどいって!」
良くしゃべる人が更に笑う。
「いやっ」
と言って改めて回想。
「…ヴィラが歌ったところって見た事も聞いた事も無い」
思わず素が出てしまう。
早く訂正してあげないと、かわいそうじゃない?
…うん。
お酒飲んだ時も歌ってない。
ヴィラローカも僕もすぐにテンション上がるけど、僕自身はザルだし…案外ヴィラローカも強いのかもしれない。
相当な量を飲んでいるはずなのに二日酔いは見たことが無い。
「あれ、そうなんですか?」
それには、再び三人とも振り向いた。
「こう言っちゃなんですが、あの人ひどい音痴ですが歌うのは好きなはずですよ」
「この村であの人の音痴を知らない人はいませんよ」
うん、カティサークから聞いた気がする。
「まぁ、自覚してるから」
それで僕の前で歌わないようにしていたのかな?
まぁ、精霊魔法がからっきしというからには十分考えられる。
精霊は音楽に反応するとも言う。
先天的能力制御のためにどうがんばっても音痴が克服できないのだろう。
「今度本人に聞いてみるよ」
笑いながらその場を去る。
音痴な人は嫌いではない。



更に歩いているとカティサークと会った。
用も済んだというのでそのまま案内してもらう事にする。
そこで音痴以上に驚く事を聞かされた。
「姉は結婚したことがあるんですよ」
「結婚?!」
弟に面倒見てもらって生活しているようなヴィラローカが結婚?!
「えぇ、それも人間と。結婚してからは翼をしまって人間として生活したらしいですが…」
「…へぇ……」
結婚なんて言葉とは無縁かと思ってたのに。
というより、本人が多少男らしくて、男っ気が感じられない。
「一年位は続いたのでしょうか。ある日ふらりと帰ってきて……数日部屋から出てこなかったのです。もう3〜4年前の話になります」
「ヴィラの作る家庭って明るそうなのに…」
相手の問題があったのだろうか?
「実際明るかったそうですよ。姉が帰ってきた後相手の方が数度訪れてきたので、伺ったのですが…最終的には姉が離婚宣言突きつけていました」
「理由なんて… 分からないよねぇ…」
ちょっと気になる。
「その件については一切口を閉ざすので僕も知らないのです」
ちょっと…大分気になる。
昨晩聞いたところによると、ヴィラローカの趣味は羽の毛づくろいだとか。
確かに夜のように翼を消してしまうこともできると言うけれど、常時翼を消した状態と言うのは…つらくないのだろうか。
僕も訳有って数ヶ月人魚の姿のまま過ごしたことがあったけれど、さすがに陸地が見えたときには人間の姿に戻ったものだ。
窮屈と言うのとは違うけれど…本来の姿(僕の場合は人間型)とは違うのは心に違和感が生じるのだ。
もしかしてそれが原因なのだろうか?
しかし、カティサークの話を聞いていくとそうでは無いような気もした。
翼を仕舞い続けることが窮屈ならば、文字通り羽を伸ばしに故郷へ帰ってくることも可能だったのだと言う。
それもしなかったヴィラローカ。
本当に、何があったのだろうか。
「でも、もしかしたら…」
そう、カティサークが言いかけたとき。
こちらへ向かって降りてくる翼人の姿があった。
今いるのは村の中央広間、村長の家の近く。
村人の生活を見て、交流を深めて、一人でも多くの村人を知っておこうと思って。
「カティ、ちょうどよかった!」
翼を幾度か大きく羽ばたかせて、僕とカティサークの顔を風が打つ。
一人の青年だった。始めてみる顔だ。
「何かあったのですか」
よほど急いできたのか顔面蒼白で息を切らせている。
青年を気遣う様子さえ見せるカティサークも次の言葉に青年と顔色を同じくした。
「ヴィラが沼の大蛇にやられたっ!」
一瞬でカティサークの顔から血の気が引くのが分かった。
ぐらりと傾いたカティサークの肩を支えて、頭の中が熱くなるような、急激にさめていくような妙な感覚に僕も襲われる。
「ルーウェンさん、それで姉さんは…?」
かろうじて声を出したようなかすれ声。
「俺が出る頃は意識はしっかりしてた。足の肉を多少持ってかれたが、それよりも…」
「…毒…毒ですね」
僕に預けていた体重を戻し、今度は何か考えはじめる。
「場所は上流の沼ですよね?あそこの大蛇の毒に効く薬がウチの薬棚の上から二段目左のほうにあります。僕が持っていくよりもルーウェンさんが持っていったほうが早いでしょう。どれか分からなかったら周囲にある薬全部持っていってください。姉さんの意識があれば姉さんがどれかわかります。姉さんの意識が混濁していたら…たしかリシュアさんも一緒ですよね?リシュアさんならどれか分かります。他にも必要そうなものがあったらウチから持っていってください」
いつに無く饒舌に一気にまくし立てるカティサークにルーウェンと呼ばれた青年も一瞬気おされながらうなづく。
「村長様には僕から伝えておきます…僕も急いで向かいますから、先に行っていてください」
「わ、わかった!」
今降りてきたところだと言うのにまた飛び立つ。
カティサークの手を見れば…硬く握られていて蒼白だった。
「すぐ出る?準備は必要?」
そっとそのコブシに手を添えて声をかけると、カティサークは驚いたような表情で僕を見上げた。
一瞬泣いているかと思った。
「家に帰って…準備が、必要です…」
ルーウェンに対していた時の声とは違い、震えが明らかだった。
「だったら急いで家に向かって。僕が村長様に話しておく」
「あ、ありがとうございます!」
いつもなら「悪いです」と言うのにさすがにそれも言わない。
震えて足がもつれて転ぶのではないかと心配したけれど、それよりは幾分確りした足取りで家に向かって走っていった。