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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編>

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「じゃぁ、このあたりの地理か歴史について書かれたものってあるかな…?」
色々活動の参考に。
「お求めのものか分かりませんが、スプライス様に使っていただいている部屋の本棚の、向かって右下のほうにあったかと思います」
読める言葉で書いてあるといいけれど…
カティサークに言われたあたりを見てみると、らしき本が数冊見つかった。…読める言語でと言う意味で、読めない言語ならば本の並びから言って更に幾冊かあるのだろう。
本を持ってリビングに戻りぱらぱらと開くと、この地方の地理、歴史について掛かれたものではあった。
ただし有翼人ではなく人間の書いたものだから多少期待はずれではあるか。
獣族はあまりこういった書物を残さないようだからだろうか。
獣族、この場合有翼人の書いた書物を読んでみたいのだが。
それも聞いてみようと思いキッチンへ行くと手際よく魚をさばくカティサークの姿があった。
そういえば、僕自身陸上生物の肉よりも魚料理のほうが好きだ。
これは海を始めとする水辺にて生活することが多かったためだろう。
よく口にもする。
半ば人魚の血の入る僕が魚料理が好きとは笑う人もいるのだが、魚にだって肉食(魚を食べる)魚がいる。
身近な食物ということで普通だと思うのだが。
「なにかありましたか?」
手を止めて振り返るカティサーク。
魚の腸を抜いて、野菜を詰めているようだった。
「いや…ここで見てていい?」
フと懐かしさを覚えてのことだった。
最近はあまり本格的な料理をしないが、僕がよく食事の準備をした時期もあった。
「面白いものでもないですよ」
微笑みながらNOとは答えずに再び作業に戻る。
「料理っていうのもその地域を表す大切なものだから」
適当なことを言って僕は手近なイスに座ってその姿を見ることにした。
僕自身が魚が好きなためか、料理するのも魚が好きだった。
「お前に任すとすぐ魚料理になるな」
と言われた昔のことを思い出す。
しかしなんだかんだと言いつつも自分の分はちゃんと食べてくれた。
もちろん僕だって相手の作ってくれたものはかけらも残さない。
意地汚いといわれようが、残さない。
「ただいまぁ〜」
夕飯もほぼ出来上がると言う頃。
ヴィラローカが帰ってきた。
手には槍を持っている…似合っているなぁ…
「姉さん、夕食どうする?」
いかにもお腹が減ってそうなヴィラローカに対してかける言葉としては不適切なような?
「今日は大丈夫〜お腹ぺこぺこよ〜」
カティサークの手元の魚料理をみてから笑って槍を持ったまま自分の部屋へ消えていく。
「スプライスさんもこっち来ちゃっていいですよ〜」
リビングのことだろう。
そういえば本を一冊転がしたままだった。
まずいまずい。


「綺麗な白羽ね」
自室へ槍を片したヴィラローカが僕の胸元に気づく。
その背には昨晩のように翼が無かった。
元々濃い色の服を着ているから純白の羽のネックレスは目立つだろう。
村を歩いていても言われることがあった。
カティサークは特にこの羽に関して言ってはこなかったけど、気にはなっているようだった。
ただのアクセサリーなのか、大切なものなのか。
「タ・ルワール様とおそろいだよ」
ウソ。
本心とは別の答えを言っておく。
これは村でこの羽について聞かれた時も同じ答えを返していた。
「今回スプライスさんに選定任せた神官様?」
「そう」
ちなみに僕はこれだけしか言わないが、後は各自が自由に想像してくれるので僕はそれに適当に「そうですね」なんて相槌を打って話を終える。
「その使神官とやらのお墨付きのシルシ?」
「ちゃんと空の獣族の見分けられるって証拠?」
晩酌のつもりなのか今日も酒壷を取り出している。
「そんな感じかな?」
村人にしたのと同じような返答をする。
「…恋人から貰ったもの?」
「……っえ?」
カップに注いだ酒をぐいと僕に差し出しながら、ヴィラローカがさらりと継げた言葉に思わず固まった。
僕は公の仕事で来ているのであって、私的なことを入れるなどと考える者がいるだろうか。
アクセサリーにしてもしかり、だ。
カップを受け取らずに、思わずまっすぐヴィラローカを見つめると金色の瞳がニヤリと笑った。
「アタリね」
再度僕に差し出すカップを、やっと受け取る。
「いや、何も言ってないよ?!」
身を乗り出す僕に笑うヴィラローカ。
「ハハハッ」
ただ、笑う。
「姉さん何があったんですか…」
料理を手にカティサークが入ってくる。
「あ、手伝うよ!」
「え?!」
ヴィラローカと面と向かい続けるのがなんとなく恥ずかしくてカティサークの静止も聞かずに、ヴィラローカより受け取ったカップを置いて立ち上がる。
「神官様にそんな…!」
「大丈夫、まかせて。家事得意だし、特に料理の運搬なんてお手の物だから!」
幾種かの皿をまとめて持ってしまう。
「神官様って、上げ膳据え膳なのかと思ってたわ」
ヴィラローカは手伝いもせずにドッカと席に座っている。
「そういう人もいるけど、僕はちがうよ…と」
あれ?
取り分けられている皿一つだけ内容の分量が違う…
「あ、それは姉さんで」
殆ど野菜しか乗ってない皿を僕から受け取りヴィラローカに渡す。
「『食べられる』って言ったじゃない」
と言う割には視線は感謝を注げている。
「昨日の夜あんなにお酒飲んで今日早く家出て疲れているでしょう?後でつらいと言われても困りますから」
後で聞いた話によると、あまり肉を食べられないのだそうだ。
魚はまだ大丈夫らしいが、それでもないほうが良いと言うのはあるらしい。
ヴィラローカに進められるまま又もや酒を口にしてしまう。カティサークは好きではないらしく殆ど口にはしない。
しかし、気の大きくなったヴィラローカを止めようともしなかった。
僕もその方がありがたい。
「ねー、スプライスって呼んでいい?親近感わいちゃって〜」
アハハっと笑いながら僕のカップに酒を注ぐ。
「いーよ、いーよ、好きに呼んで!」
僕もアハハと笑い返す。
実のところ僕は酔ってはいないのだが…酔った振りくらいは安易だ。
それに言っていること自体悪いことでもない。
「じゃ、私のことはヴィラって呼んでね。こっちはカティで!」
バンバンとカティサークの肩をたたく。
食事も終えて僕たちの様子を見ているだけだったカティサークは危うく倒れそうになる。
そういえば昼間思ったけれど腕力も無いようだし、ヴィラローカは逆に腕力しかなさそうだった…言い方悪いかな?



***


カティサークとは別に一人で村を案内も無く歩いている時に聞こえた、酷く独創的な唄だった。

ラ…ララ…ラ…ラララ……

一人村の中を歩いている時にその声が聞こえた。
今日はカティサークとともに行動はしていない。
ヴィラローカのこともあるし、カティサークだって一応薬師として仕事があるみたいだし。
…というわけで、僕は聞こえてきた声が気になってそちらへフラリフラリと歩いて行った。
「…あ、神官様!」
そこはある家の前の広場で、数人の女性が手に何かの道具を持って座っていた。
もちろん地べたに座ることなんてなく、木で作られた椅子に腰掛けている。
背もたれは無い。
「ごめんなさい、邪魔してしまいましたか?」