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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編>

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『お互いを比べて』という程度なのだが空の獣族は背に翼があるために上半身の露出が高い。海の獣族は下半身が海洋生物のつくりなので下半身の露出が高い。
僕は海の獣族の血を引いているためにこの下半身全てを覆い隠すズボンなどははけない。気持ちが悪いのだ。スカート程度ならば幾分我慢できるのだが…
「これでフレンドリーさなんて出そうと思ってるわけじゃないけどさ…」
昨日は服の下につけていた首飾りを表に出してみた。
僕の手のひらよりも長い純白の羽が一枚下がっている。
闇の中では輝かんばかりの白さをもつ。
「おはようございます」
僕が部屋を出ると、昨晩酒盛りをした目の前のリビングではなく入り口の方からカティサークの声がした。
「おはよう。遅くまで寝ててごめん」
カティサークのいるほうへ顔を出す。
既にヴィラローカは出かけた後のようだ。
キッチンでなにやらなべを煮ていた。
不思議なにおいがする…
「なにやってんの?」
料理…なのだろうか?
不快な匂いではないが、食欲をそそられもしない。
「昨日採って来た薬草を煮詰めているんです。腹痛などに効くのですよ」
薬を作っていたのか。
「すみません、朝食はそこのパンとお茶でいいですか?」
籠に山になって載っているパン。
壷に入っているお茶。
お茶の香りもたっているからまだ温かいだろう。
昔よりも技術が進んで保温性、保冷性が良くなっている。
「ありがたくいただくよ」
「お好きなだけどうぞ」
既に火は消えているようだが鍋をかき混ぜる手を止められないようで、例の柔和な微笑みで僕に朝食を薦めるのだった。
僕が朝食を取っている間にカティサークも作業を終えたようだった。
「村長様の家へ行かれるのですか?では村の中を案内しがてら僕もついてゆきますよ」
村長宅へ行くことを告げるとそう申し出てくれた。
ありがたいので素直に受けることにする。



「おやカティ、そちらの方が神官様かい」
気軽に話しかけてきたのは、黄土色の翼を持つおばさんだった。
食事の準備でもするためなのか、その手には魚が何匹かある。
何故食事の準備かと思ったかといえば、釜戸の前に立っていたからだ。
「はい。ト・スプライス様ですよ」
「初めまして。今回は知り合いの天空の神官に代わって派遣されました大海の神官、ト・スプライスです」
すると、おばさんは笑い出した。
「?」
「そんなかたっくるしくしなくてもいいわよぉ」
本当に開けっぴろげな性格だなぁ・・・
「それよりカティ、主人が魚多めに獲ってきたんだけどもってく?」
「いいんですか?」
「もちろんよ。ウチの息子もヴィラちゃんにお世話になってるしね。じゃ、ちょっとまってて」
そういうと、さっさバサッと翼を広げて羽ばたき上方の家へ入ってゆく。
翼を閉じている時はちょっと重たそうだ。
「昨日言っていた学校の生徒のお母さん?」
笑顔が楽しい気分にさせてくれる人だ。
ああいった人は家庭があって生活する中においてとても大切な人で、従者に上げるべき人ではない。
そう考えると、まだ幼いと呼べる子供がいる親というのは論外か。
少しは今回の仕事もことも考え始めないとな…という思考が出始めたってこと。
「ええ、純血なのでハーフに勝るには相当な努力が必要なんでしょうけれど、ここの息子さんは姉より強くなるんだと豪語していますよ。まぁ、精霊の声を聞く能力は既に姉より上ですけどね」
ハーフは身体的な能力は高いが精霊とのつながりがその分そがれている…というのが一般的に言われている。
僕自身は神官ということもあって精霊との意思疎通に困難を感じたことは無かったけれど。
「はい、四匹。ヴィラちゃん大食いだって有名だもんね」
草で編まれたこの地方において一般的な袋に魚を入れて手渡してくれる。
ちょっと生臭いかな。
それも生活感があっていい感じだ。
「ああ、すいません」
軽々と渡すおばさんに、ちょっと重そうにカティは受け取る。
「それと、この前の傷薬よく効いたみたい。またたのむわね」
「はい、いつでも言って下さい」
軽く日常会話を交わして僕達は去る。
村長宅に着くまでに他にも幾度も声をかけられた。
昨日もそうだったけれど、本当にフレンドリーな人々だ。
僕の存在も一晩のうちに大分知れたようで自己紹介も必要ないほど僕のことを知っている。
カティサークにも気軽に声をかけてくる。
話を聞いていると…どうやらカティサークは薬屋のようなことをしているのだろうか?
そうやって村の空気を改めて感じつつ村長宅へ到着。
正式に活動を始めることを告げる。
一応村長も有資格者になるんだよね。
「よろしくおねがいします」
そう言われて内心何をすればよいのやら悩みながらも「お願いします」と家を出た。
カティサークも同宅に用事があったらしい。
どうやらここでも薬を渡していたとのことだった。
「皆に信頼されるほど良い効き目なんだね」
村の案内を受けながら話しかける。
薬っていざと言う時には食物よりも重要なものだから、相当の信頼がないと皆にここまで求められることは無いと思う。
カティサークに話しかけてくる村人の言葉からも信頼を感じ取れたのだ。
「殆ど本を読んで独学で作っているだけなんですよ。いつの間にか広まっていました」
あの家にはそんな本もあるのか…
まだ殆ど見てはいないけれど、文化学ばかりのような気がしたのに。



「… あちら側に伸びている道の先にも…一件家があります。…よいしょっ…幼年学校を卒業して暫くする…んしょっ…息子さんのいる家族ですよ…っ」
「へぇ……」
「…っしょ…先ほど左手に見た道が…ちょうどその先に出てきます…」
「……カティサーク、それ持とうか?」
行きに貰った魚を始め、他でも野菜などを貰い荷物が多くなっている。
それでも僕にすれば重そうでもないのだけれども、カティサークは実に重そうに持っているのだ。
先ほども申し出たけれど『神官様に持ってもらうだなんて出来ません』と断られてしまった。
とはいえ、僕は平然と歩いているのにカティサークは腕もつりそうな勢いだ。
「いえっ…大丈夫です…」
大丈夫そうじゃない。
「…あ、大丈夫ですから!」
思わずカティサークの手から奪うようにして持った荷物は、全然重たくなかった。
あわてて取り返そうとするカティサークに軽く荷物を持ち上げて取られないようによけてしまう。
「まぁ、僕居候だし?」
笑いながら歩み進んでしまう。
少し歩いてカティサークも観念したらしい。
カティサークが重そうにもって歩みが遅々とするよりも、僕が持ったほうが互いに楽であると判断したのだろう。
「申し訳ありません」
と謝ってきたのを笑って流した。
その日は村の半分ほどを歩いて帰宅した。
ヴィラローカはまだ帰っていない。
「僕は食事の準備をしますから、外出されていてもいいですよ」
森の夕暮れは早い。
まだ明るいがすぐに暗くなるだろう。
「それだったら、本読ませてもらっていいかな?」
明かりを方々の部屋でつけてもらうのは悪いけど、昨日のヴィラローカの様子だとリビングは就寝時以外は明かりをつけっぱなしらしい。
「えぇいいですよ。昨日も申し上げましたが好きなだけお読みください」