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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編>

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口元は穏やかに微笑んでいるような感じが印象にあるのはその雰囲気ゆえだろう。
今もどうやら夕食の準備をしているのはカティサークらしい。
村長曰く『歓迎の食事会でも』とのことだったけれども、元々獣族にはない習慣だし、当の村長は村長で今晩は用事があるらしかった。
僕が来たことにより作戦会議でも行うのだろうか。
しかし。
僕もどうやって選定して良いのか全く分からない。
どうやってこの村の有翼人から一人選べというのだろう。
…有翼人といえば。
「全ての住民に等しく機会を」
と言った割りにこの家にも一人有翼の者がいる。
肌の色はカティサークより多少濃く、髪の色は綺麗なブルーグリーン。
瞳の色はカティサークと同じ金色だがつり上がり気味の目は胡乱気に感じられて、気は多少強そうな。
漆黒の翼を持つヴィラローカという女性。
もしかして、ヴィラローカはハーフなのだろうか。
カティサークと両親共に同じだとは考えづらい。
カティサークに有翼人の血が入っているように感じられないのだ。
しかし血はつながっているように感じる。
ということは片親だけ、たぶん父親が人間で…意識的にか無意識なのか、純血の者にしか従者の資格がないのだと村長が判断したのなら、ヴィラローカには従者となる資格が欠如しているとされて僕がここにいることになっても納得できる。
「スプライスさーん」
そんなことを考えつつこの家の不思議な姉弟のことを考えていると、当のヴィラローカより声がかかった。
「スプライスさんお酒飲みます?」
篭っていた割り当てられた部屋のドアのすぐ前くらい辺りから声はかけられたようだ。
「姉さん!」
カティサークの声がわずかに遠くより聞こえる。
「べっつにいいじゃないの!」
先ほどより元気に感じる声…もしかして、既に酒が入っているのでは無いかという気配。
服の下につけている首飾りを一撫でしてから、
「もらうよ!」
そう、表のヴィラローカに返答した。
部屋を出ると目の前の例の本だらけの部屋。
酒壷らしき物を横にヴィラローカが座っていた。
「…あれ?」
床に直に座るヴィラローカ。
明らかに先ほどと姿が異なる。
肌の色や髪の色や顔立ちではなくて…
「翼ですか?消しちゃいました」
それでも有翼人らしい背の大きく開いた服を着ていて、大きく露出された背の素肌を僕に向ける。
そこには翼があった跡さえも見られなかった。
「人間と有翼人とのハーフだからか、こんなこともできるんですよ私」
たしかに有翼人のなかにはこのようなことができる者が時々いる。
僕の知り合いにもいた。
ただ、普段の生活の中で頻繁に出したり消したりというのはあまり聞かなかったような。特に消して生活をしているなんて聞いた事が無い。
そういえば元々この家のサイズが有翼人ではなく普通の人間サイズか。
その辺りからしておかしいといえばおかしかった。
「まぁ変えられるのは翼だけですが」
僕に木製のカップを差し出しながらもう片手で自らの耳に触れる。
そこには人間らしくない、毛というか羽というかはっきりしないが翼と同じ色の大きめの耳部があった。
耳の形なら、僕自身通常の神官特有の人間とは異なっている耳の形をしているから驚きはしないが。
ついでに言えば大海の獣従族にあたる人魚族は人間の耳に当たる部分には何も無い。
変態(変身)すれば、形だけ出来ることもある。
「姉さんスプライス様に失礼の無いようにね。スプライス様も無理して付き合わなくても良いですよ」
そう言いながらも部屋に入ってきたカティサークは酒のつまみらしいものを置いてまた去る。
「しっかりした弟さんだね」
カティサークの背が部屋の向こうへ消えたのを見て振り返るとヴィラローカは酒を注ぎにかかっていた。
「時々抜けていることありますけどね、怠惰でだらしない私よりはずっと確りしてると思いますよ」
「あ…そういう意味じゃ…」
始めから誤解させるようなことを…!
しかしヴィラローカはそんな僕を見てニヤリと笑った。
「ま、そんな話も含めて時間はたっぷりありますから色々話しましょう?」
それぞれのカップに酒を注ぐと、フルーティーな類の香りが漂った。
「スプライス様、これよりお勤めがんばってくださいってことで」
ヴィラローカがカップを掲げ乾杯となった。
カティサークの温和な雰囲気とは違うのだが、ヴィラローカも笑顔に満ちている雰囲気の持ち主だった。
酒を飲みながら、ヴィラローカ姉弟のこと、この村のことを更に聞いてゆく。
ここで、先ほどの推測どおり二人は父が人間でその父の瞳の色が金色だったと言う事が分かった。
現在暮らしている家は元々はヴィラローカの両親の家だったとのこと。
ヴィラローカの父と母と三人で暮らしていたらしい。
母親の生まれた地はここではないそうだが、人間と恋に落ちたなどとは通常の獣族の村では受け入れられない。
そのために出生地を出、この村にたどり着いたとのことだった。
ただ放浪癖に加え、旅の先々で女性に手を出す父の性癖には母親のほうが先に参ってしまったらしい。
父が旅先から久々に帰ってきたかと思えば一人の幼児を連れていた。
それを見て、更に「俺の子だ」という発言を聞いて母親は出て行ってしまった。
それがカティサークだった。
カティサークが物心つくかつかないか位までは父親もこの家にいたという。
ただ、ある日フラリと旅に出て殆ど帰ってこなくなった。
最近では5年ほど前に一度顔を見せたのが最後だという。
カティサークの母親については一切口にし無かったためどのような人かはヴィラローカも知らないという。
カティサークの体質については幼い頃より現在まで変わらないらしい。
「この村の外で生まれたのに、今この村からは出て行けないでしょ?生まれた時どうだったのかしらね?」
とはヴィラローカ自身も思っているらしい。
話しているうちに食事が出来カティサークが運んできて、いつの間にか夕食も始まっていた。
ヴィラローカは(幼年)学校で狩りを教えていること、精霊魔法がからっきしであることなどをカティサークが教えてくれる。
また、酷く音痴らしい。
それをヴィラローカは笑うが、決して言い返しはしない。
この村から出て行くことの出来ないカティサーク。
一生この村の中で生きなければならないのだろうか?



***



気づくと朝だった。

ちゃんと自分にあてがわれた部屋のベッドの上で目を覚ましたが酒盛り後半の記憶が無い。
始めからえらい失態だ。
「あー…もう、どうしよう」
あくびと一緒にため息もつきつつ、これから村長に挨拶にでも行くかと考える。
昨日挨拶したのは来訪の挨拶。
今日は正式に僕のお役目開始のための挨拶。
…挨拶に行くとしても、微妙な時間ではないだろうか?
一先ず着替えて部屋を出る。
昨日は天空の神官にも見えるような格好をしていたが、今日からは動きやすい格好でいこうとおもう。
唯でさえ何をすればいいのか分からない今回の役目、堅苦しい格好では考えや気持ちさえ八方塞になりそうな気がするのだ。
ただ、村の人に引かれたら嫌なんだけども…
天空の神官と大海の神官では神官服も異なる。
そして、通常の人間と違う体の部位のせいか、空の獣族と海の獣族では服のつくりが異なる。