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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編>

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僕は家事やヴィラローカの看護の手伝いということで外に一人で出歩くことになったけれど、妙にヴィラローカが心配で外出する時間も長くなかった。
まぁ、でもお使いという行動は気兼ねなく村の人と接することが出来るからありがたい。
こう、のんびり過ごしているとこの村に派遣された理由を忘れてしまいそうになる。
誰かが、従者たる人なのだろうとは思う。
とりあえず、お役目を遂行するために交流は忘れない。
そう時間が経ち、いつの間にかのびのびと生活を満喫していた。


その日は早朝日が昇る前から、誰かが謎の熱を出したとかでカティサークが薬をもって出かけてしまい、ヴィラローカと二人きりだった。
ヴィラローカもびっこを引いてはいるが歩けるようになっている。
魔法の効果か、薬の効果か。または本人の生命力か。
普通なら歩けるとしても松葉杖くらい必要だろうに。
それと、この怪我している間翼をずっとたたんで生活しているせいで、この村にあってこの家にいるときだけ妙にホッとする感じがした。
翼有る者が嫌いだったり苦手だったりするわけでは無いけれど、周りにその人種しかいない状態で生活するとなると多少圧迫感に似た感じがしていたということなのだろう。
妙に翼を持たない二人がいる家はホッとする。
あと幾ら仲良くなったとはいえ村の人は僕の「神官」というレッテルをはがすことは出来ないようなのだけれど、ヴィラローカはさばさばとそういったことも受け入れてくれた。
もともとさっぱりした気質の人が多い村のようだけれど、どうやら格別のようだ。
カティサークは時々そんな態度をヴィラローカ注意するけど聞きやしない。
…そんなヴィラローカだから、食事の準備なども平気で僕に任せる。
テーブルに頬を突いて家事にいそしむ僕を眺めている。
気が向きさえすれば家事は嫌いではない。
どうしてもやりたくなるときもあるほどだ。
ヴィラローカはどちらかというと嫌いらしい。
嫌いでも、出来ないのとはちがうけれどね。
「前も言ったけど、神官様って料理が出てくるのを待つだけのじゃないの?」
驚いている風でもなくぼんやりと口にする。
「少なくとも僕は違うよ。そういった生活しか知らない人もいるけどね」
「あれ、前回は皆してるっていってなかったっけ?」
「うん、考えてみれば僕の周囲の人は皆できるってだけかもしれないな〜と思って」
神官だって数多くいて、色々な生活もあるだろう。
旅に旅をかさねていると、神殿外の生活も多く体験してそういった日常の知識も身に付く。
僕の周囲はそういった人が多い。
今日は豆の煮たものとパンとスープをつくって昼食とする。
肉や魚を食べられるとはいえ、元々は不得手らしいからそういったものを省いたほうがいいと思ったのだ。
毎回食事のメニューを考えて必死に作った時間がなつかしい。
この家で食事を作るのはもう幾度目かになるので
「おいしそうだね」
と大きな驚きも無く笑顔でヴィラローカは食べ物を迎える。
僕はその正面に座っていただくことにする。
こう、正面に見て改めて思うがヴィラローカは美人だと思う。
けだるげにも見えるちょっとつりあがりぎみの目が、涼やかに映るときなどはっとするものだろう。
現に、村の青年達が時々見舞いに来る。
今食べている食事の材料もそういった者達が持ってきたものが大半だ。
食料を持ってくるという理由にかこつけて顔をみにくるらしい。
そんな男達のことが分かっているのかいないのか、実に適当にあしらう。
普通の友達感覚、らしい。
で、今翼を見せていないヴィラローカが立派な翼を持つ青年達と対等に渡り合う様は時に奇妙に目にうつった。
時々僕自身がヴィラローカが有翼人であることを忘れてしまうせいかもしれない。
そして。
やっと、ヴィラの名前に慣れてきた。
「?私の顔になんかついてる?」
スープを飲み干してから僕の顔をじっと見返してくる。
その表情は笑が浮かんでいる。
色香が無いのがすごいものだ。
いや、本当は色香もあるが僕が感じないだけなのだろうか。
「食べっぷりが良くて作り甲斐があるよ」
笑顔で返すけど「違うでしょ」といわれてしまう。
「何か考えてたんでしょ?仕事このとでもなさそうだけど」
… するどい。
「そういえばスプライスって天空の偉い神官の従者を選びに来たのよね。でもそれだけじゃないよね」
僕自身はっきりとは知らされていなかったことだけれど、その通りとしか考えられない。
「今考えていたことと関係ある?」
関係あるのかは分からないけど、繋がっているような気もする。
話してしまおうかな。
そんな気になる。
僕にとってもちょっと「お姉さん」的な感覚があるかもしれないヴィラローカ。
「そういえば・・・」
「?」
僕が返答をどうしようか迷っている間に、ヴィラローカのほうで次の疑問が浮かんだらしい。
「スプライス、私の名前知った時驚いたよね?意味も知っていそうだけど、何かあるんじゃないの」
良く覚えていたな。
というよりも、あの時よく気付いたな。
「意味は『天国』だよね。お父さんがつけたの?」
「そう。インテリ気取った親父がつけたらしいよ。そもそもうちの母親がそんな言葉知っているわけ無いし」
軽く鼻で笑うがその名を嫌がっている節は見受けられない。
「『天国』なんてたいそうな名前付けてくれちゃったけど、こんな風に育ってはダメね。あ、でも気に入っているのよこの名前。だから、本当に親しい人以外はちゃんと呼んで貰うの。スプライスは初めから遠慮も無かったけどなんとも思わなかったよ?」
だって、ヴィラと呼べと言ったんじゃないか…
…あ。
そうか。
「さん」とかも何もつけなかった。
神官だからたいして周囲は気にしなかったようだけれど、他の人には何気に「さん」付けで呼んでいたりするし。
カティもなんとなくつけなかったけど…
「ヴィラ…ヴィラローカという名前が親しみのあるものだったから…つい」
苦笑しながら、スープのお代わりをとりに行こうとするヴィラを制してよそいに行く。
こんな食欲はあの人とは似つかない。
「ありがと…親しい人に同じ名前の人でもいるの?」
浮かせた腰を再度椅子に下ろして僕を見上げる。
珍しい名前だからなぁ…
そう、その名前を心に浮かべるだけで、目の前にいるヴィラローカとは違う『ヴィラローカ』の顔が、いつにもまして妙に脳にはっきりとあらわれた。
「…うん」
……これ以上は止そう。
感情に流されてしまう。
心を平静にして時を待つと自分に誓ったのに。
「……恋人かなにかでしょ?」
振り返ると「分かりやすいわね」と笑われてしまった。
でも、それで心に一つ湧き上がったものがある。
話してしまおう。
あの人のことを。
同じ名前のこの人に。
そうしたい、という気がした。
スープ皿をヴィラローカの前におくと、代わりにヴィラローカは立ち上がって、足を引きずりながらも傍の棚から壷とグラスを取り出してきて、テーブルの上におく。
…酒だ。
「これあったほうが話しやすいならつかっていいわよ?」
自分が飲みたいだけとか、ないよなぁ…?
とりあえず、直ぐに手を出すことは避けた。
「ヴィラのいうとおりだよ。ヴィラローカという恋人…伴侶とでも言うべきかな?そういった人がいるんだ」