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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <前編>

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ヴィラローカに話そうとしている、もう一人のヴィラローカ。
本名は別にある。
けれど、二人の間で交わされた秘め事をも総て内包するこの名前には特別な思いがある。
「そう…今は遠くに?」
僕の表情から読んだかもしれない。
そう、遠くに。
「遠い、遠い手の届かないところにいるよ。必ず戻ってきてくれると言っていたけれど、いつになるか分からない。既に長い時間がたってしまっている。でも、僕は信じて待つしか出来ないんだ」
”ヴィラローカ”がいる場所には行くことが出来ない。
行けるものなら行きたい…ではなく、絶対に行く。
「そっか…待つってつらいことだよね。がんばってるんだ、スプライス」
湿っぽくなるのを振り払うようなヴィラローカの笑顔がありがたい。
「ね、どんな人か聞いてもいい?」
「凄い主観的になるから、間違っているかもしれないよ」
胸元の白い羽にいつの間にか触れながら、すでにどう話そうか考え始めている。
「あら、主観的なのがいいんじゃない」
そういうものなのだろうか。
「恋人自慢がききたいのよ」
とも続ける。
色恋沙汰には興味なさそうなのに。
そうだなぁ…
「容姿は淡い金髪に空色の瞳で身長はヴィラと同じくらいかな。肌の色も白かった。あちらのヴィラローカは魔法の力で翼を有することが出来たんだけど、純白なんだ。…対極だね」
本来翼があるはずだけれども、今はない背を見る。
漆黒の翼を持つ者であるヴィラローカ。
本来は背の翼と共に同じ色艶を見せるその耳を笑いながらヴィラローカはいじる。
「性格は一言では言い表せないけれど、確固たる信念を持った人だったよ。ちょっと強気な性格もヴィラと似ているかもしれない…」
そうして暫く僕は”ヴィラローカ”のことをヴィラローカに話した。
楽しそうに聞いてくれるものだからついながくなってしまったほどに。
余計なことも大分交えて。


「只今…って姉さん昼間っから酒飲んだの?」
話し込んでいるうちに、夕方になっていた。
予定より遅く帰ってきたらしいカティサークがすっかり出来上がってしまっている姉を見てため息をついている。
ヴィラローカは根っからの酒好きらしく、気が付けばいつの間にか飲み始めていた。
そして、僕たちの手元には何冊かの本が広げられている。
どれも僕自身がかかわった事件や、間接的にかかわった問題に関しての本だ。
面白半分に話してみたら興味を持ったらしい。
もちろん…というか”ヴィラローカ” の存在についてかすかにだけれども抵触した分があったために開いたのだ。
名前は載っていないけれどこの大陸の史において特殊な存在でもある。
今まで明かし忘れていた僕の年齢を打ち明けたならば、初めは冗談だと思い、次は信じられないと声を上げて驚いたらしいけれど、だからといって態度が変わらないのがありがたい。
「夕食の準備はしてあるからイイでしょ?」
ニヤニヤ意味も無く笑いながらカティサークを手招く。
そう、実は夕飯も作ってしまった…僕が。
「作ったって、スプライスさんに作らせたんでしょう」
カティサークは敬称こそ取れないが、「様」から「さん」にはなった。
ヴィラローカのおかげかな。
一緒に暮らしていて堅苦しいのもさみしいもんね。
「作りたいっていったんだもん。ね〜?」
「うん、そうだよ」
はっきりいってザルな僕はヴィラローカと同じくらいの酒量は飲んだけれど全然酔いも来ない。
近づけば僕も酒臭いことが分かるはずだ。
ヴィラローカもどこまでが酔った影響のテンションの高さなのかもいまいち分からないんだけどね。
「まったく…その分だと夕食もまだいいよね?」
手招きには応じずカティサークは荷物を持ったまま自分の部屋にはいってゆく。
その横顔は、ちょっと楽しそうだった。