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欲望の果て

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「ホント!!ありがとう美沙ちゃんさっすがーやっぱ美沙ちゃんは優しいなーこれで僕も明日からも太陽が拝める・・・」
「アンタが生きようが死のうが関係ないけどそんな事よりアタシラウンジの仕事の服とか化粧とかそんなんないよ、仕事も全然分からないし・・」
「大丈夫!そこは全て店で貸してくれるから美沙ちゃんは体一つで来てくれればイイから何なら裸でも良いよ!」
「アンタってとことん馬鹿で変態ね!」
「美沙ちゃんにそこまで褒めて貰えると嬉しいねーとりあえず今日の夕方迎えに行くから出られる準備だけしておいて」そう言うと電話切れた。美沙は流れと勢いで引き受けてしまったが初めての仕事に不安で気分的に落ち着かなかった・・落ち着かないので一人で部屋の中で練習してみた
「い・・い・・いら・・いらっしゃいませ」
「こ、・・こん・・こんにちは」
どんな感じで言うんだろう?TVの一シーンでは簡単そうにやっているし適当に笑ってればいいのか・・客に体を触られたりしたらどうするんだろう?店に仕組まれてお金で客に売られたりしたらどうしよう?何もわからないままに美沙の勝手な想像はどんどん膨らんでいった・・そんな事をしている間に時間は過ぎて派遣会社の担当者が迎えに来た
「おはよー美沙ちゃん準備出来てる?」
「準備って・・別に何もすることないし!」
「そうだったねーさー乗って乗って店に案内するから」そう言うと美沙を乗せた車は福岡の繁華街の一角にあるガラス張りのビルの中にあるラウンジ“みつ蜂”に美沙を運んだ。オープン前の店は照明も落ち薄暗くボーイが店内を掃除し出入り業者は商材を運ぶのに忙しく働いていた、店はファミレスの半分ほどの広さで中央にはグランドピアノも置いてあった、美沙は派遣会社の担当者の後に付いて店の奥にある支配人室へ向かった
「どうもー遅くなしてスイマセン!」支配人室にはいると担当者は調子よく挨拶をした
「おう、やっときたか・・最初の電話の様子じゃ無理みたいに言っていたから諦めていたんだが、何だいるじゃないか、しかもこんな可愛い子が!」
「いやあー支配人の為なら全力でさせてもらいますよ、たとえ火の中水の中!」美沙はこの男の調子のよさにはつくづくアホらしくなってきていた、時給の良さとはいえ、この男の言葉に乗った自分をちょっと後悔した。
「じゃー美沙ちゃん後は支配人の言う事を聞いて頑張ってね、終わったら電話くれたらまた迎えにくるから!」
そう言うと支配人室から去っていった、支配人室に残された美沙は支配人にソファに座るように促された。
そのまま座ろうとする美沙に支配人は言った「座る前、お客様の前を通る際は必ず一言、失礼します“と言う習慣を付けるんだ」
「あ、はい」
「はいの返事は“あ”は付けてはいけない、一言“はい”で答えなさい」
いきなりの駄目出しで美沙は一瞬躊躇したが素直に従った。
「私はここの支配人の須藤という、宜しく、美沙さんだったかな?」
「はい」
「宜しい、先程言った事が守れているね、返事はお客様に好感を持たれる一番の尺度だから気を付けるように、君は学習能力もあるし賢いようだ、多分君はこの仕事について何も知らないし、何も教えられていないだろう?」
「はい、人が足りないのでとりあえず来てくれって言われて・・・」
「だろうな、あいつらしい人の集め方だ、どうする?別に嫌なら今すぐ帰っても良いし怒る事もないし、あいつをどうこうする気も無いよ、君がここで、いやこの業界で働きたいなら僕が完璧にどこでも通用するように教えてあげるし、お金も誰よりも稼ぐ事も出来る僕が見るところによると君は野心家の目をしているけど純粋な女性の美しさもあるよ」
美沙はいきなり初対面で会ったこの須藤という男に妙な褒められ方をしてちょっと変な気分になっていたしかもこの須藤という男は美沙の今までに会った男性には無いタイプで初対面であっても安心と信用のおける気がした
時給の高額も魅力だったが前の仕事先での不倫の後味の悪さを払拭する為にも新しい世界も知りたかったのもあり美沙はとりあえずやってみようと思った
「経験も無く初めてですが一生懸命頑張りますので宜しくお願いします。」
そんな須藤との出会いから始まった美沙の夜の世界での仕事はもう10年になろうとしていた。
快楽の宴の時間は過ぎて純一郎は帰りのタクシーの中で浅い眠りに陥っていた・・
自宅前でタクシーの運転手に起こされて純一郎は目が覚めた
玄関を静かに入ると以外にも涼子は起きてTVを見ていた
「お帰り、案外早かったのね」
「ああ、最近専務も歳のせいか遅くまで飲まなくなったみたいだ」
「あらそう、専務さんも歳には勝てないのねご飯食べてきたでしょ?何もないわよ」
「うん、別にいいよ、着替えてから風呂に入る」そう言うと純一郎は手に持っていたブリーフケースと腕時計を外してリビングのテーブルの上に置いた、ブリーフケースの外ポケットには角2サイズの封筒が差し込んであった純一郎は気にしてなかったようだが会社を出る前に室長秘書が差し込んでいたのである
涼子は何気なく封筒を見てみると要再検査(精密検査)の判子が押してあった、封もしていなかったので涼子はさらに中身を見てみる事にした、純一郎もそろそろ糖尿病とか体脂肪とか長い海外生活の不摂生で体に黄色ランプが点滅しているのかと思い軽い気持ちで・・・
しかし、そこには予想外の内容が示されていた要再検査の概要はエコー検査の結果と腫瘍マーカーの説明云々、判定の結果はすい臓癌の疑いありと・・涼子は診断書を持った手が小刻みに震えていた何故なら涼子は学生時代に実の父親をすい臓癌で亡くしていたからでしかもすい臓がんと判定されてわずか3カ月で亡くなっていたからであった、一般的に他の部位の癌のようにある程度現代医学で癌は治療出来るものと思っていた涼子にとってはショックであり深い悲しみに陥った思い出があるからだ・・涼子は資料を全て封筒にしまうと封筒をソファーの下にしまい込んだ、普通ならこの後この診断書を元に純一郎に検査の様子を問いただしたり再検査を直ぐに受けるように言うのだが・・何を思ったか涼子はソファの下に封筒を仕舞い込み一瞬笑みさえも浮かべた。
しばらくして何も知らない純一郎が戻ってきた
「風呂先に入る?」
「ううん、良いわよ純ちゃん先に入って私は少し片付けが残っているから」
「分かった、じゃ先に入るよ、何なら一緒に入るかい?」
「何言ってんのまだ酔ってるの?馬鹿言ってないで早く入って」
「はいはい・・」
そう言うと純一郎は風呂へ向かった・・純一郎が風呂に入ったのを確認すると涼子は先程ソファの下にしまい込んだ封筒をとりだしもう一度見直した、画像データらしいものが入ったディスクもあるが内容的には分からない気がしたので大学時代の友人であり現在静岡で父親の経営する病院に勤務している岡部和彦に相談する事にした、和彦とは純一郎とも共通の友人で大学時代のテニスサークルの仲間でもあった。和彦の携帯に電話をしてみると夜23時過ぎにも関わらず2コールで出た
「はい、岡部です」
「あっ和くん?アタシ涼子です」
「ん?涼子ちゃん?どうしたのー嬉しいね君から電話をくれるなんて、もしかしてまた結婚の勧め講義かい?」
作品名:欲望の果て 作家名:松下靖