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欲望の果て

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「あっ、ごめん気付かなかった・・」純一郎は美沙の事で頭が一杯だったので無意識のうちに家まで帰ったような状態で普段は目ざとくメールの着信ランプを見ているのだが今日はそれすら見えていなかったのである。
「胸元で光っているのはなんでしょうか?」涼子は皮肉っぽく言った
「メールです・・今確認しました」純一郎はガラスを割った子供のように答えた。
「それも欧州ボケなの〜?早く日本に復帰してよ純ちゃん・・」
「気をつけるよ、何せ日本は欧州と違ってめまぐるしいからな〜日本のリズムに戻さなきゃね、それより今日は早く帰れなくゴメン」純一郎はリビングで背広の上着をソファにかけ、ネクタイを緩めてその上にかけ終えると涼子を後からゆっくりと抱きしめたが、涼子はするりと直ぐに抜けると
「今日は早く帰れると思ったから新次郎の面接の練習する予定だったのに」
「面接の練習?」純一郎には何の事かよくわからなかった
「知らないの、純ちゃん?私立の小学校の親子面接は入試の時の高チェックポイントなのよ、だからちゃんと日頃から答え方も答えも練習して完璧にしておかなきゃ」
「えっ・・私立の受験って新次郎が試験するだけじゃないのかい?」
「何言っているのよ、教科の試験は新次郎だけだけど、面接は親子揃ってなのよ、良い学校、良い教育は良い家庭環境からよ、だから親である私たちも面接試験があるのよ」
「子供の受験に親は関係ないと思うけどな」
「純ちゃん、それは違うわ、学校にちゃんと親も面接してもらって変な親の子供は一緒の学校に入れないで欲しいと思う気持ちはみんな同じだと思うの、だから私は親子面接はあるべきだと思うし学校にはしっかりやってもらいたいわ」
「で、うちは大丈夫なの?涼子」
「だから、模範的な回答が出来るように練習するんじゃない、日頃からやっておけばいざ本番であがらなくてすむでしょ!」
「今日はパパが早いからって11時まで頑張って新次郎も起きて待っていたんだけどね」
純一郎は冷蔵庫のミネラルを飲むと、着替える為に寝室に向かった、後を追うように涼子が背広の上着とネクタイを持って来た
「ねえ、ちゃんと聞いてる純ちゃん?、面接は大事な受験の・・」涼子が言い終える前に純一郎は涼子の唇を塞いだ、少し抵抗した涼子だったがキスを終えるとクローゼットに背広とネクタイを掛け寝室を出ようとした、純一郎は涼子の背後から抱き締め首筋を愛撫した
「どうしたの純ちゃん変だよ」先ほどのリビングのようにすり抜けようとした涼子に純一郎は少し強い力でブラウスの上から手で乳房を攻めた、弱い抵抗をする涼子を半ば強引に純一郎は背後から立ったままの姿勢で攻めた
徐々に荒くなる涼子の息遣いの中で純一郎の脳裏には美沙の顔と香りが交錯するのであった。
純一郎と別れた後の赤城はタクシーで勝どきにある高層マンションに向かった、赤城の自宅は麻布にあったが数年前から週のうち半分はこのマンションに帰っていた。玄関前でタクシーを降り、オートロックを解除するとエレベーターに乗った、自分のフロアである41階までエレベーターが一気にあがる、眼下に夜景が見える。まだ時間も早いので町の灯も多く綺麗だ。フロアに到着し部屋のカギを開けて30畳はあるリビングに向かい月明かりと街の灯で照らされた室内でワインを飲み直した。グラスを片手に窓辺に立つと眼下には隅田川と築地市場が見える、見渡せば銀座の明かりに東京タワーも見える赤城はこの部屋からの夜景が好きだった、上場企業である五菱商事を外様の身で専務取締役まで上り詰め会社の全てを手に入れるまで王手と詰め寄った自分の成功に相応しい景色だといつも思っていた・・時が経つにつれ赤城はこの景色以上のものを手に入れたくなっていた、五菱商事社長の座?しかし五菱商事は親族色の濃い企業で社長はやはり外様では厳しく血縁関係のある常務が銀行筋・社内外でも有力安定情報だ。赤城は役員になった当初より親族関係の役員の風当たりの強さを感じていたのでこれからの市場や会社の拡大には弊害になり五菱商事に限界があると思っていた。今回の芹沢の戦略営業室長着任にも赤城の勢力はぎ取りが誰の目にも見えていた。もちろん赤城も何れこうなる日が来る事を黙って指を銜えて見ている球ではなく、そもそも今回の芹沢の欧州への赴任の舞台裏を演出していたのは他でもなくこの赤城であり赤城は国内商社のトップの座を狙うべく自分の右腕となるべく芹沢の準備を始めていた。要するに芹沢の戦略営業室長着任は赤城の予想どおりに常務水島が将棋の駒を進めたにすぎないのである。
昼の事を思い出すとあまりにも予想どおりに事が運んだので赤城は思わず声をあげて笑った
「あら、楽しそうね・・大きな声で笑って何がそんなに楽しいの私にも教えてよ、それより電気ぐらいつけたら〜暗いじゃない」そう言って智香が近寄って来た。そうここは数年前より赤城が智香との為に用意したマンションなのである。
「教えて欲しいかい智香?」窓の外を見ていた赤城は智香の方に振り向いた
「もちろんよ、楽しい事は何でも知りたいわパートナーして知る権利はあるはずよ」不敵な笑みを浮かべながら赤城を見据えると智香は赤城の手からワイングラスをとると一気に飲み干した、ワインを飲み終えた智香の両腕を赤城は掴むと窓辺に智香を押しやった、不意を突かれたように智香は手に持っていたグラスを床に落とし、東京の街明かりに照らされた静かなリビングにグラスの割れる音だけが響いた
「駄目よシャワーもまだ浴びてないし・・」
恥じらうように拒む智香の唇を強引に赤城は奪うと蛇のように首筋に舌を這わせた
「あっ・ん・・」と漏れる智香の吐息に近い微弱な声を聞きながら耳をあまがみすると胸元へ顔を埋めた帯を解いていた手は既に智香の下肢を攻めだしており彩での凛とした智香の和装は先程まで一糸の乱れも無く保たれていたが赤城の手により短い時間でかき乱された
「駄目だって・・あっ・・ん・・」手で赤城の頭を押さえ拒む智香に赤城は上目遣いで智香に言う
「知りたくないのかい・・楽しい事?」
「知りたいわ・・・でもこんなの・・あう・・」
「じゃあお楽しみの後で教えてあげるよ」赤城はそう言うと智香の腕に着物を通した状態だけにしてしまうとさらに激しく責めるのだった。
翌朝、二人とも昨夜は何事も無かったかのように出社した。
営業戦略室に新しく着任した芹沢は淡々と実務をこなし気が付けば昼食もとらず時間は午後3時を過ぎていた、内線が鳴り室長秘書より専務室より連絡との事、内線をとると赤城より専務室までの来て欲しいとの事。純一郎は専務室に向かった、やはり入口では専務室秘書宇佐美香織が不機嫌そうにしていた、
「芹沢室長お見えになりましたのでお通しします」宇佐美香織はドアを開けて純一郎を案内した
「ありがとう」純一郎は軽く頭を下げて宇佐美香織の前を過ぎると、過ぎざまに宇佐美香織は純一郎に一言
「同じ女の匂いがしますよ」と皮肉っぽく言った。
純一郎は慌てて自分のスーツの腕を鼻に近付けて臭ってみた
「冗談ですよ、冗談・・専務がお待ちですよ」宇佐美香織はニヤッと笑って席に着き純一郎の方に向かってペン先に付けた小旗を降り始めた、小旗には良く見ると“愛妻家”とハートマークが描かれていた。
作品名:欲望の果て 作家名:松下靖