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欲望の果て

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専務室へ入ると丁度赤城が会議用スーツから接待用に着替えているところだった、赤城は専務室壁面にクローゼットを作り、取引先への営業、謝罪、接待、自社内用と100点近いスーツを用意しており都度着替えて挑むのだった。その拘りようは靴、ネクタイ、カフス、腕時計の小物に至るものまで全て都度合わせる気合の入れようで噂には聞いてはいたが純一郎も目の当たりにしてここが上場企業の役員室とは思えない気になった。例えるなら紳士高級ブランド店にいるようだった。
「おお、良い所へ来た、芹沢ならどっちのネクタイにする?今日はお前のような二枚目と一緒だから俺もさらに男前にしないとな」2本のネクタイを胸元にあてながら赤城は鼻歌を歌っていた、ネクタイを選び、アラミスを軽くふると、純一郎にも吹きかけてきた
「お前も少し男前度をアップしておいてやろう!」
「男前度?!ですか?」
「あ〜そうだ男前度!大事だぞ〜、世の中には男と女しかいないだから綺麗な女に会う時は男も磨いておかねばな。」
そう言われて純一郎は少し返事に困り遅れて
「はい・・」と答える以外思いつかなかった
イマイチ純一郎には赤城の言っている意味が良く分からなかったが要は今から赤城のお気に入りの女の店絡みの接待を受ける事は予測出来た。ドアの向こうの宇佐美香織の不機嫌の理由も何となくここで理解出来た純一郎であった。
純一郎と赤城の二人は、会社を出ると銀座に向かい赤城の行きつけの鮨処“ふじい”に足を運び夕食をとり、そのまま“クラブ彩”に
向かった。
「いらっしゃいませ、赤城専務様いつもありがとうございます」
そう言うとクラブ彩のママ智香は赤城の横に座った。
「お久しぶりですね〜専務さん・・何処かまた若い子の店で浮気されていたんですか」
「いきなり厳しいなママ・・僕はママ一筋だよ」
「またまたお上手ですね〜どこでも言ってらっしゃいますこと」
「そんな事ないさ、本当だって」
「それより、ママ紹介するよ、昨日欧州から帰って来たばかりの我社のエース芹沢純一郎だ、今日は芹沢の欧州よりの帰国を祝って華やかに頼むよ。」
「初めして智香でございます、赤城専務様には開店当初よりごひいき頂いております、どうぞ本日はゆっくりしていらして下さいね」
「あっ・・はいどうも芹沢純一郎です。」
「あら、何となく堅いわね、あまりこういう所へは出られないのかしら」
「そうなんだよママ、芹沢は仕事と愛する家庭一筋で人生の半分を損している男なんだ、ママが良い子を紹介して芹沢に人生の楽しみを教えてやって欲しいんだ」そう言いながら赤城は智香の着物の隙間から太腿に手をすべりこませた。
そんな様子に純一郎は少し動揺した。純一郎も赤城も同じ営業畑を歩んではきたが、営業スタイルは全く違うタイプだった。純一郎は常に顧客に対する熱意と努力、自社の扱うアイテムへの探求と妥協の無いレベルそれが他社を圧倒し顧客を自分に引き入れる魅力を持つ正攻法が彼の秘訣だったので赤城のように夜の世界とはほぼ無縁のビジネスライフだった。だから今いるこの空間と目の前の出来事は純一郎には新鮮かつ衝撃でありどのように振舞って良いかさえわからなかった。とりあえず純一郎は動揺を抑える為にグラスの水割りを飲み乾した。
「あら、結構良い飲みっぷり、案外芹沢さん赤城さんの知らない所で楽しんでいるのかしら?」智香はちょっと純一郎をイジッてみた
「んん、そうなのか?芹沢!」
赤城も続けてつっ込んできた
「いや、大学で体育会系だったので飲むのは自然に強くなりました・・もっと荒っぽいみせでしたけど」純一郎はありのままで答えた
「そうなの、飲みっぷりも良いし二枚目だし五菱商事のエース・・私がいきたいくらいね」智香は純一郎に身を少し寄せながら言った。
「おいおい、ママ僕はどうなるんだ」赤城は智香の手を自分に引き寄せて言った。
「ふふ、冗談ですよ、赤城専務、芹沢さんが
困ってらっしゃいますものね」
「いや、そんな事は無いですよ、ママに気に入ってもらえて光栄です。」純一郎背筋を伸ばしてしゃんと座り直しながら言った。
「じゃあ、芹沢さんに気に入ってもらえると嬉しんだけど良い子を紹介するわ」そう言うと智香は近くの黒服のボーイに何か耳打ちをした。黒服のボーイは智香に軽く頭を下げると薄暗い店の奥に消えていった。純一郎は胸ポケットの携帯の着信ランプの点滅に気付き智香に手洗いの場所を聞き移動した、手洗いは先ほどの黒服のボーイの消えて行った方向と同じ方にあり純一郎は携帯の画面を見ながら向かった、歩きながら純一郎は通路ですれ違いざま一人の女性と肩が当たり、手に持っていた携帯が女性の足元に落ちた・・
「スイマセン」純一郎が言うのと同時に薄暗い通路の向かいで同じく女性の声が聞こえた
女性が純一郎の携帯を拾い上げ純一郎に手渡した・・
「あっ・・・」
またお互い声をあげた、そう、女性は先ほどの出社前の本屋でぶつかったあの女性である
あの時はきちんと店用の化粧こそしてなかったが直ぐに純一郎はわかった・・薄暗い店内の明かりの下でも・・・
純一郎は子供が初めて炭酸飲料を飲んだ時のように鮮烈に女性の笑顔と香りが胸に飛び込んできた・・
「また、お会いしましたね」女性は笑顔で純一郎に言った
「どうも、先程はスイマセンでした・・」完全に純一郎はあがっていたスイマセンの後に何か言おうとしたがドキドキして言葉が出てこなかった。純一郎は軽く女性にペコリと頭を下げると赤面した顔をみられまいと手洗いに急々と向かった。女性は首をかしげながらその様子を見送ると智香の元へ向かった。
純一郎は手洗いに着くと直ぐにメールを確認した、もともと定時には帰る予定で涼子には告げていたので帰りの遅い純一郎に問合すメールだった。純一郎は専務の赤城にひっぱられて遅くなっている現状をメールした・・1件目の寿司処“ふじい”にいるという内容で・・・別にここ(クラブ彩)でも良かったのだが罪の意識か疚しさか・・気が付けばそう打っていた。涼子からは直ぐにまた返信がきた・・内容は帰る時間がわかれば連絡して欲しいと。普段は新次郎と早く寝るようだが今日は起きているようだ。帰りには連絡する旨のメールを打つと純一郎は席に戻った。
「遅いぞ・・!レディーを待たせるとは欧州帰りの男にしては失礼なやつだな」赤城は純一郎ににやつきながら言った。
席に戻ると純一郎は驚いた、今日偶然にも2度も出会った女性が智香の横に座っていたからである。純一郎も女性も顔を合わせたまま少し固まっていた・・
「あら、初めてじゃないの?二人とも・・」智香は空気を察して言った、
「芹沢さん、さあ立ってないで美沙ちゃんの横へどうぞ、美沙ちゃんもご案内しなきゃ」
「あっ、そうでした・・さあこちらへ」そう言うと少し慌てた様子で美沙は席から少し立ち純一郎を美沙の奥へ通した。
「初めまして美沙です、宜しくお願いします」
「せ、芹沢・じゅ、じゅ、純一郎です。」
子供の学習発表会じゃあるまいし何を焦っているのか純一郎はちょっとパニクっていた
「どうだ、芹沢、良い子だろう俺がママにお願いしてお前に特別良い子を頼んだんだ」赤城は智香と顔を見合わせてから笑みを浮かべながら純一郎に言った。
作品名:欲望の果て 作家名:松下靖