欲望の果て
それと秋葉は店を使ってくれているかい?接待や飲みに行く機会があれば美沙の店に行くように言ってあるから大丈夫だと思うんだけど」
「ええ、お陰さまで良いお客様もご紹介頂きましたの、心配しなくても御贔屓いただいてますわ、帰って来られる便が決まったら教えて下さいね時間が合うなら空港にお迎えに行きたいですし・・」
「嬉しい事言ってくれるねー日程が決まったら連絡するよ、じゃあまた連絡するね」
「はい、お体に気を付けてお仕事頑張ってくださいね」
電話を終えて携帯を置くと美沙は傍らに居た男に抱きついた
「もうー電話が多くて困るわーせっかく海外に行ってくれてしばらく楽になったと思ったのに」
「まあそう言わず、まだまだ利用価値があるんだから大事に関係を保っておかなきゃ」
「だって国内に居る時は仕方ないにしても海外に行ったのにこんなに電話が多かったらこっちも動き難いわ」
「離婚はしそうなの?」
「もうひと押しって所までは来てる感じがするんだけど・・今度帰って来る時にプレッシャーかけてみるかな」
「あんまり焦らせてはダメだよ、急いては事をし損じるって事もあるんだから」男は話しながらゴルフのドライバーの形の携帯ストラップをくるくると回した。
「私はもう十分我慢もしてきたし、待ち過ぎるくらい幸せには待ってもらったわ、待ち過ぎて折角作ったコーヒーも冷えてしまったわ!」そう言うと美沙は冷たくなったコーヒーを流しに捨てた
「何か作戦はあるの?プレッシャーかける」
「女の武器を活かすわ!」そう言いながら美沙は履いていたパンティストッキングを脱ぎ棄て男をベットに引き込んだ
美沙のこんな様子も知らず純一郎は一時帰国の日を楽しみにチェコでの仕事に励んでいた知らぬが仏とはよく言ったもので・・・
やがて純一郎の一時帰国の日がやって来た空港には涼子ではなく・・・美沙が迎えに来ていた二人はそのまま都内のレストランで食事をし美沙のマンションに向かった、涼子には
明日帰ると連絡を入れたので今日は美沙のもとでゆっくり過ごす考えだった。
「久々の海外はやっぱりよかったよ、どうだい美沙も今度一緒に行かないかい?僕も欧州はいろいろ行ったけどチェコはなかなか良い国だよ、街も綺麗だし絵にかいたような景色も沢山ある」
「そう、素敵ね是非行ってみたいわー貴方の奥様として・・」そう言うと美沙は腕を純一郎の肩から首に絡めた、純一郎もそれに答えるかのように美沙の腰に手を回した、美沙はゆっくりキスをすると純一郎の耳元で囁いた
「出来たみたい」
その囁きを聞いて純一郎は一瞬たじろいで美沙の腰に手を回した腕の力が緩んだが再び力強く引き寄せると
「わかった」とだけ一言応えた。
美沙は小悪魔的に純一郎にせがむ様に言ってみた
「良いの?」
「もちろん」
「迷惑にならない?後悔はしない?」
「何を言っているんだ・・2人の新しい生活を始めよう」
純一郎は美沙を強く抱きしめた。
悪魔の笑みと共に美沙は自分の作戦勝ちを確信した、そうとも知らず純一郎は一つの強い決心の基に過ちを起こそうとしていた、純一郎にとって美沙との関係を続けて行くには涼子はもはや邪魔な存在でしかなかった、自分は涼子や新次郎の為に単身日本を離れて頑張って来たのに暖かく迎えてくれると思っていた涼子は新次郎中心の生活にシフトし自分の存在はもはや資金の送りこみ役に過ぎなかった。もちろん通常のように離婚話を切りだせば慰謝料と養育費の話が出るだろう、それに対外的にも離婚騒動を起こして水商売の女に走ったとなれば聞こえも悪い、折角のノースキャンダルで来た純一郎にとっては厄介な問題になる・・・
自分の築いた地位と資産は崩したくない、けれど美沙との関係も崩したくない、俺だって愛されたいし愛したい・・バランスを崩したのは涼子の方じゃないか・・そう俺は何も悪くない皆の為に会社の指示とおりに海外赴任や国内転勤もこなしてきた、だのに涼子の態度はどうだ・・俺に非があるかのような振舞いだ・・美沙との関係を守るには涼子には消えてもらおう、自然に涼子が消えれば美沙とは公になっても誰も何も言うまい・・仕事の成功で全ては良しとなるはずだ・・純一郎は考えを巡らせながら自問自答していた。
美沙と熱い一夜を過ごして純一郎は昼過ぎには自宅に戻った、自宅には涼子だけがいた
「ただいま」玄関のドアを開けるとリビングの方から涼子が出て来て迎えた
「あら、早かったのね飛行機は夕方の便かと思ってた」
「いや、上手く早い便があってね、それより涼子またしばらく海外だし次に発つまでに2人で遊びにでも行かないか?いつも新次郎の子育てで涼子には無理ばっかりさせているしどうかな?」
「そうねえ、久しぶりに二人で行くのも良いかもね新次郎は受験の事で固め過ぎちゃったからお母さんに頼んで旅行の間は好きにさせてあげるわ、そうそう和君にも会ってみない?この前母の事で相談して話していたら和君が純ちゃんに会いたいって言ってたから」
「和彦か、懐かしいなお互い忙しかったからゆっくりと全然会えなかったから丁度良い機会かも・・・・」
「新次郎の事を考えるとあまり遠くにも行けないしね・・何処に行くの?」
「場所は会社が持っている河口湖の役員専用の素養施設が良いんじゃないかと思ってる、新次郎の事で何かあっても直ぐに戻れるし、それに和彦を呼んでも距離的に近いしね、和彦との日程調整は涼子に任せるよ。」
「分かったわ、じゃあ私から和君に連絡入れとくわね」
そして河口湖への当日、涼子の母親に新次郎を預けると二人は一路会社の保有する保養所へと車を走らせた。
「こうして二人だけで何年振りかな〜」
純一郎は涼子に問いかけた
「もう長過ぎて忘れちゃったわ・・」
「以前はよく二人でドライブも出たよね・」
「そうねーあの頃は楽しかったわ」
無機質な会話の中で純一郎は用意した睡眠導入剤の入った飲料を涼子に進めるタイミングを図った純一郎の考えは眠らせた涼子を四方10kmの樹海の奥に運び絞殺した後自分は迎えに来ている美沙の車を現場に置き、涼子と乗って来た車で会社の保養所に向かい美沙の乗って来た車は樹海の他の地点に放置、涼子と同じ格好に扮した美沙と保養所に向かう、保養所周辺のレストランで周囲に分かるくらい二人で口論末美沙は号泣し店を飛び出し車で走り去る、周囲には悲しみに満ちた女性の自殺と見せかける為に・・・そのまま美沙は昨日の自分の乗って来た車の放置地点で車を入れ替えて東京に一足先に帰る手はずだった。
そうこうしているうちに保養所に着いてしまった純一郎の計画は第一段階で狂った・・程ない距離をおいて後を追いかけていた美沙も計画違いに戸惑いお互いはメールでやりとりをした・・純一郎は考えた・・こうなれば保養所内で眠らせて運び出すしかない飲料に混ぜた睡眠導入剤を何とか飲ませなければ話にはならない・・さらに予想外な事に和彦まで到着してしまった。仕方が無いので純一郎は作戦を練り直す事にした・・その間美沙は保養所近くのカフェで純一郎からの連絡を待ったと傍らの携帯が鳴り頬と型に挟みながら携帯を出た・・