欲望の果て
「もうーまだ話は終わってないのに・・赤城さん上手く逃げちゃうんだからーいいわー食べてストレス解消よ、大将、一番高いウニと一番高いアワビをお願い!」
智香はプイッと唇を尖らせると大将に注文を促した。
「赤城専務も智香さんとはお久しぶりなんですか?」純一郎は素朴な疑問として聞いてみた
「んっ?俺か、いやちゃんと智香にはフォロー入れているぞ、お店以外でも」
赤城は智香の手を握りながら純一郎に答えた「もーしらなーーい、専務さんなんかいいもんねー」
智香はさっと手を振り払って赤城から顔を背けた」
「オイオイ、それはないだろう」少し赤城が困惑する様子を見せると智香はギュッと赤城の腕を組み小悪魔的な笑顔で言った
「じゃーCEO就任の打ち上げはうちの店でお願いね」
「もちろんだ、智香の店以外に何処でやる所があるって言うんだい、良いモノを満足いくまで出してあげてくれ」
「嬉しいーじゃー機嫌直してあげる」そう言うと智香は赤城に酒を注いだ
「ところで、芹沢そろそろ準備は出来たか?俺が就任式を終えると同時に直ぐに外へ(海外)へ手を打つぞ」
「はい、専務、国内の方は今週中に型がつきます、来週には外へ出る準備は出来るかと」
「さすがだな、国内は前に言っていた新興が用意した秋葉に任せるのか?」
「はい、その予定で準備を進めております、今日この後専務にも会って頂こうかと思い連れてくる予定です。」
「そうか、手回しが良いな、俺も一度は会っておこうとは思ってはいたんだ、やはり国内は重要だし国内に足元を掬われては背水の陣のようになるだけだしな・・しかし・・その秋葉と言う男は信用出来そうか?」赤城は顎に右手をついて純一郎を上目で見た。
「何か疑問点でも・・」赤城のように戦略家ではない純一郎にとって自分を仕事を素直にサポートする秋葉を疑う余地など微塵も無かった。
「いや・・何となく思っただけだ」赤城はそう言ってみたもののとりあえず本人に会ってから考える事にした。割烹ふじいで赤城と純一郎は今後の展開をお互い語り2人の固い話に智香が一輪の華を添えた。時間は過ぎて3人は彩に移動した、あらかじめ純一郎が秋葉には連絡しておいたので秋葉は既に彩の予約席で美沙と共に待っていた。秋葉は智香の指示で既に何杯かグラスを進めているようだった、純一郎は席に着いた時に2人の様子に少々変な空気を感じたが赤城や智香の手前その部分は押し殺した。
3人の到着と同時に秋葉は席を立ち直ぐに赤城に挨拶をした
「初めまして、秋葉と申します」そう言って握手を求めて右手を差し出したが赤城は握手には応えずそのまま席に着いた。
「赤城だよろしく、噂は芹沢から聞いているよなかなかの優等生と言う事で芹沢も期待している、これからもしっかりと頼むぞ、国内基盤は海外戦略においても重要なポイントだ国内は国内、海外は海外なんて狭い考えは持たず全ての市場は一つだと思ってしっかりやってくれ」
「はい、ありがとうございます期待を裏切らないようにしっかりやりたいと思います。」
固い空気を察してか智香が言った
「まあ、今日は顔合わせと言う事で固い話は抜きで楽しく飲みましょう、芹沢さんも美沙ちゃんと久しぶりなんだし」そう言って美沙の方を見ると美沙も応える様に言った
「そうですね、芹沢さんもご無沙汰だからボトルのふたも固まって開かなくなっているわー
初めての秋葉さんもいらっしゃる事だし・・新しいボトルをお願いしたいわー」そう言って美沙は純一郎の腕にしがみついた
「そうだね、新しいのを下ろそうか、その前にシャンパンで乾杯をしよう、赤城専務のCEO就任の前祝いと言う事で!」
純一郎も少し下がり気味のテンションを無理に上げて言ったのだった。
シャンパンで乾杯し飲み始めてしばらくすると美沙が秋葉に質問していた
「秋葉さん凄く良い体格なんですけど何かスポーツされているんですか?」確かに秋葉は純一郎や赤城に比べると格段体系が良い、もちろん年齢の若さもあるが大学時代にゴルフ部で鍛えたボディには今も衰えぬ筋肉がしっかりと付いていた。
「今は、遊び程度ですが、大学時代にゴルフ部で・・」
「そうですかゴルフ部だったんですね、じゃ今度私も教えてもらおうかなーママにゴルフも出来る様になりなさいって言われているの」
「ええ、僕で良ければコーチしますよ」秋葉は得意げにゴルフのドライバーの形の携帯ストラップを回しながら言った。
「嬉しいわ―是非ともお願いします」
「じゃー早速次の休みにでも道具を揃えに行きましょうか?僕の後輩のやっている店なら初心者に合った用品を上手くチョイスしてくれるから安心ですよ」純一郎は2人の弾む会話を快く思わないながらも場の空気を乱すまいと2人の話に合わせながら当たり障りの無い会話をしていた、純一郎にしては美沙の行動や会話が水商売としての言葉であり営業スタイルと分かってはいても何処かに秋葉への劣等感と危機感を感じて気にせずにはいられないのである、その思いが強くなると純一郎としてはその場に居ると空気に押し潰されそうで居てもたってもいられなくなったので化粧室に席を外した。嫉妬深い人間が自分が好意を持った相手が自分の目の前で他人と親しくしているとこのような感覚にあるのだろう・・・それを察してか化粧室に暫くすると赤城が入ってきた、
「あいつは確かに優秀だがお前にとって火種になるかもしれんな」そう言うと赤城は手に持っていたカプセルを流し込んだ。
「まだ胃が痛むんですか?」
「あーこの歳になって俺もやっと神経性の胃炎とやらが出て来たのかもな、結構自分では図太い神経だと思ってたのに歳をとるとは嫌なもんだ」
化粧室の大きな鏡のある洗面台の前に2人横並びに2か所の手洗いでそれぞれ手を洗いハンカチで手を拭きながら鏡越しにお互いをみながら話した。
「まあ優秀なので自分にとって後ろから追いつかれる感覚で鞭を打たれて良いかもと思っています」
「そうか、俺にはそうは見えなかったぞ既に背後に迫られて焦っているか苛立っているお前の姿が見えたようだが」
図星だった・・赤城に対して初見にしては自信に満ちた秋葉の様子と美沙との会話の進捗を傍から見ていて純一郎は予想外に焦っておりその焦りを打破するか流れを変えられない自分に苛立っていたのだった。
「やはり、分かりますか?僕って駄目ですねポーカーフェイスが苦手ですね、特に女性の前では子供かもしれません」
それを聞くと赤城は笑い飛ばした
「お前のその正直さと真直ぐな所が良いんだよ、それが今までの仕事の結果と俺が見込んだ一番大事な点だからな、それにあいつ(秋葉)は俺と同じ臭いがする、特に若い時の俺のようだ奴は手にいれたいモノは必ず仕留めてくるぞ」
「えっ」純一郎はその言葉に驚くと赤城の方を見た。
「安心しろ芹沢、自分のタイプは自分が一番よく知っているだからあいつの弱点もコントロール方法も簡単に分かる、それに女の一人や二人くれてやれ、これからどんどん大きくなるのに一人に拘る必要はないもっとイイ女が幾らでも出てくるし勝手に湧いてくる、まあそう言っても御熱真っ最中のお前に言っても今は無駄かもしれないが」
「いや、真っ最中とは・・・」純一郎が言うまでに赤城が先に言った