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欲望の果て

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「お辞めになるんでしたら私も連れて行って下さい」
綾夏の予想外の意見に純一郎少し驚いた
「えっ、いやいや先にどうなるとかまだ分からないし仮に付いて来ても雇えるような偉いさんじゃないかもしれないし、君はここでしっかりと安定した職場で働く方が良いよ」
「そーゆうのじゃないんです」
「んっ?そーゆうのとは?どーゆうのだ?」
「つまり、その仕事とか収入とかじゃなくて芹沢室長とお仕事をさせていただきたんです」
綾夏は純一郎背後で訴えるように言った
「でも、会社を変えるって人生を変える程影響するんだしそう簡単に僕も賛成は出来ないよ」
こんなにも綾夏があっさりと諦めずに切り返してくるとは思わなかったので純一郎の方が綾夏の言葉に圧倒されている感があった
「芹沢室長は私がお嫌いですか?」
唐突に綾夏は言った
「そんな事は一言も言ってない、むしろとても助かっているよ、気遣いや手配は素晴らしいし、今まで見て来た他の人の秘書よりも優れていると思う、日本に帰って来てスムーズに日々の業務をこなせたのは松下君のお陰だと思う」
そう言って純一郎は振り向くと同時に綾夏が抱きついてきた。
「嬉しい、そう言ってもらえると嘘でも嬉しいです、だから無給でも良いので芹沢室長の側に居させて下さい」
女性に泣かれてこうまで言われては大抵の男は断り切れないものである、純一郎もその辺は一般的男子と同じ生き物である
「わかったよ、そうまで言ってくれるなら一緒にいこう、今よりももっと良い仕事を2人でしよう!」
そう言うと純一郎は綾夏の髪を撫でながら抱きしめた
「嬉しい」
綾夏もそう言うと力いっぱい純一郎に抱きついた。
間もなくドアを開ける音がして赤城が入ってきた、とっさに純一郎と綾夏は離れたが2人の様子を見て赤城も面喰らいドアを入ると直ぐに立ち止まっていた。
「お取り込み中済まなかった!」
「いえ、そう言うのではないんです専務」
そう言うと純一郎はその場を繕った、綾夏もその場を直ぐに離れドアの向こうの秘書席に戻った。
赤城はニヤつきながら純一郎の脇あたりを肘でぐりぐりと押してきた。
「芹沢、お前もやるな〜俺の分身に成りつつあるのか?仕事も・・仕事以外も!何か嬉しいような悔しいような・・何となく変な気分だ」
「いや、だから違うんです、これには話せば長いわけがございまして」
純一郎は焦りながら上手い言い分けを考えたがこのような場面に慣れていないだけに良い言葉も無かった。
「何々、そう焦る事も無い、むしろ俺だったから良かったじゃないか、会社の他の奴や美沙ちゃんや涼子さんだったら大変だぞ、俺の口はタングステン鋼よりも固いからな安心しろ!」
「はい、そうかもしれません・・・」
純一郎もそう認めざるを得なかった
「衝撃的な場面を見てしまって何を話に来たのか忘れてしまったよ、思いだしたらまた来る!今度はちゃんとノックするからな!」
そう言い放つと赤城は足早に室長室を去って行った、赤城が去ると綾夏が入ってきた
「大丈夫でしたか?スイマセン、つい感情が高ぶってとり乱しちゃったりして・・」
「大丈夫、専務はその辺は寛大だから・・だから続きを・・」
っと純一郎が最後までに言い終える前に綾夏は一礼すると出口に向かった。
「続きは無しか・・・」純一郎はポツリとこぼすと綾夏の背を見送った。
綾夏は自分の席に戻ると何事も無かったかのように業務に戻り社内のある相手に1通のメールを送った
「万事順調に運びました経過は追伸にて」
送信完了の画面が現れると綾夏はそのメールを削除しパソコンの電源を落とし画面を閉じた・・綾夏は早々に退社の準備を整えIDカードをスキャンさせると出口のエレベーターに向かった、エレベーターを下りビル玄関ホールを抜けると日差しはまだ高く綾夏は額に手を当てながら空を仰ぎ見た、真っ青な空に飛行機雲が一筋・・・・少し微笑むと綾夏は地下鉄の駅に向かって歩き出すのだった。
純一郎と赤城の突如の引退劇に暫くは五菱商事も社内を始め取引先も動揺を巻き起こしたが大企業というもの所詮個人の裁量よりも組織の裁量が大きく会社の運営に支障をきたすというまでも無かったが大口取引先の大日本商事をはじめ多数の取引先に動きがあり数字に乱れを生じたのは言うまでも無かった。赤城と純一郎の抜けた五菱商事では常務の水島がしばらくは専務も兼任で会社全体を切り盛りしていた、会議では旧専務派の幹部はなりを潜め発言も消極的になっていた、かといって社内保守派である旧常務派の幹部達には旧専務派の意見に対し反対論やリスクを論じる事は出来るが自分達で変革的意見を出せるかと言えばそうでなく会議はかつてのウイーン会議のように踊り続けた。水島は会議の資料を手元のパソコンで閲覧しながらメール画面を開き確認してみたが受信トレイは至って0通のままだったのでそのまま画面を閉じてしまった。
一方新興に動いた赤城と純一郎は日々の業務に追われていた。特に赤城はCEO就任と言う事もあり新興においては役員会の承認は得ていたが対外的に正式に発表する為の準備が進められ、純一郎は五菱から新興に遷ってきた来た商社の対応を淡々とこなすのだった、純一郎的には国内の作業は引き継ぎが終了すれば新興の秋葉に全面的に任せ、自分は赤城と共に海外戦略に専念したかったので新興に来て直属の部下となった秋葉に国内ノウハウのすべてを教えた。秋葉は新興が純一郎の部下に付けただけの事はありスキルの高い人物だった。
純一郎が仕事のメドを付けた頃、赤城より携帯が入った・・
「どうだ、芹沢、少しは落ち着いたか?」
「ええ、秋葉が優秀なので楽させてもらっています」
「そうか、では今夜ぐらいに少し出ないか、連日仕事詰めで少しはリフレッシュが必要だろう」
「お気遣いありがとうございます、では19時までには片づけますので」
「よし、じゃー18時に片づけろ、お前なら出来るはずだ」
「わかりました、では後ほど」
そう答えて電話を置くと、純一郎は秋葉に声をかけた
「今夜、時間大丈夫か?」
「ええ、芹沢さんのご命令にはどこまでも」
秋葉は執事のように姿勢を正して純一郎に答えた
「そうか、悪いなちょっと1軒紹介しておきたい店がある、僕と赤城さんはその前にもう1軒寄ってから行くのでそこを出る時に連絡するよ」
「了解です、ご連絡お待ちしています」
純一郎は早々に業務を終えると、割烹ふじいで赤城と合流したのだった。
純一郎が店に着くと赤城は既に智香と食事を始めていた。
「スイマセン、遅くなりました」純一郎は軽く頭を下げて席に着いた
「お久しぶり、芹沢さん・・最近お店に顔出さないから美沙ちゃんも寂しがっているわよ」
智香は着くなり芹沢をつつき始めた・・
「ああ、スイマセン、移籍以来連日業務に追われて毎日午前様です・・」純一郎は美沙が店を終わってからマンションで会っていたのだが智香や赤城には知られるまいと思っていたので軽く受け流した
「駄目よー仕事も大事だけど女に寂しい思いをさせちゃ・・隙間に来る男は簡単に入りやすいんだから・・」
智香はそう言いながら赤城の顔を覗き込んだ
赤城は軽く咳払いをするとその場を脱するかのように純一郎に飲み物を勧めた
作品名:欲望の果て 作家名:松下靖