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運ぶのもと言えば

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 いつの間にやってきたのやら、メガネをかけた優男風イケメン兄ちゃんがジャックと呼ばれた男の後ろに立っていた。気配を完全に殺しての登場に、ジャックをはじめメイヤードの皆さんが凍りつく。
「ボボボボボボボスゥゥゥゥゥゥ! どーしてここにぃ!」
「エレナと一緒に来たんだよ。それよりエレナの言うことが聞けないというのはどういうことかな? 僕の言うことは聞けてエレナは無理だと?」
「い、いや、エレナ様はまだ部外者というか俺たちの上司じゃないというか・・・・」
「ふーん、エレナが部外者か。君たちはそう認識しているんだね」
「え、えーっと・・・・す、すいませんでしたああああああ! 許してくださいボスゥゥゥゥゥ!」
「まあいいけど・・・・それから僕はまだボスじゃないよ?」
「は、はいロベルト様! すんませんつい!」
 見事なまでの直立不動体勢で言うジャック。よほどこのロベルトとかいう兄ちゃんが怖いらしい。ニコニコ笑みを浮かべるロベルトにジャックが冷や汗をかき始めたころ、今度は妙な声が聞こえてきた。
「エレナ―! 無事かぁぁぁ!?」
「ロベルト―! どこに行ったんだぁ!?」
 二人分のおっさんの声が近付いてくる。ほどなくして、左右の扉が同時にバーン! と開いて、おっさんが二人飛び込んできた。
「エレナー! ってなぜメイヤードの奴がここにいる!?」
「ローネブルグか!? ワ、ワシはただロベルトについてきただけだ!」
 おっさん二人の登場に事態はさらに混沌と化していく。頼むから誰かこの状況を説明してくれ。勢いを増していくおっさん二人の言い争いをその他もろもろと見守っていた時である。
「パパ、仲良くしてって言ったでしょ?」
「父さん、仲良くしてくれって言ったじゃないか」
 エレナとロベルトがニコニコしながら言った途端、おっさん二人が黙ったのは言うまでもない。


 要するにアレだった。
 マフィアのメイヤード・ファミリーとローネブルグ・ファミリーはセルツ地区の支配権を巡って長らく抗争を繰り返してきた。マフィア同士での縄張り争い、それも先々々々々々々々代くらいから続く根の深いものであるため、抗争は常に血で血を洗う悲惨なものだったとか。
 しかし、転機は唐突に訪れた。メイヤードのボスの息子とローネブルグのボスの娘が恋仲になり親に内緒で婚約し果ては駆け落ち騒動まで起こしたらしい。なにしろ大事な跡取り息子&跡取り娘。結婚など許されるはずもなかったのだが、駆け落ちが失敗するやいなや二人はそろって親の元に乗り込み、様々な脅迫・・・・・もとい交渉の果てに結婚の承諾をもぎ取ったのだという。それでもって、跡取り同士の結婚を機に今までの禍根を水に流し、同盟を結ぶことになり、長い抗争の終わりと二人の結婚を祝して、盛大な結婚式が執り行われることとなった。
 しかし、両マフィアは長らく抗争を繰り返し、互いに対する憎しみの根は深い。そう簡単に仲良くなれるわけがなく、同盟を結ぶことになったのちも、抗争は別の形で繰り返されることとなったのだ。
 すなわち、結婚式でどちらがより素晴らしい演出をできるかという点で。
「・・・・なんだって?」
「だから、うちのボスはエレナ様のご結婚を祝うために十万発の花火を打ち上げることにしたんだよ」
でも最後の最後になって花火の材料が足りなくなり、急遽取り寄せなければならなくなった。しかし、表立って注文すればメイヤード側に花火十万発計画がバレてしまう可能性がある。今までも相手より派手な演出をするため、諜報活動が繰り返されていたからだ。そこで裏ルートで注文し、ローネブルグとは縁もゆかりもない俺たちが運び役として選ばれた、ということらしい・・・・
「つまり俺たちはバカ親同士のつまらん意地の張り合いに巻き込まれたというわけだな・・・」
 リュスが呟きに俺も全力で同意する。もっともそれは小さな声および心中で、である。さすがに当事者たちの前で堂々と言う気にはなれない。
「うん、そうよね。パパったら気合を入れすぎなのよ。それにお義父様相手だとどうしても張り合ってしまうみたいで」
 あ、あら聞こえていた。だが、エレナは気にした様子はない。むしろ我が意を得たりという感じだ。
 ちなみに、いまおっさん二人はこの場にいない。話がややこしくなるから、とエレナとロベルトに追い出されたのだ。いるのは前述の二人と、フォスターさんとジャックだけである。
「確かに花火は素敵だけど、十万発も上げなくてもいいのに」
 エレナはそう言ってため息をつく。かわいい系だが美人なのですげー絵になるな。パパことエレナの親父さんはただのむさいおっさんだったから、きっと母親似なのだろう。遺伝の神秘バンザイ。
「きっと君を盛大に祝ってあげたかったんだろう。少なくとも父さんの式場を花でいっぱい計画よりはマシだよ」
 エレナの隣で今度はロベルトがため息をつく。なお、メイヤード・ファミリーの跡取り息子は、ローネブルグ・ファミリーの跡取り娘を膝の上に乗っけた状態である。
「そうねぇ。ちょっと少女趣味だと思うわ。ロベルトは十万発の花火を見たいの?」
「少し気になるかな。でも」
 ロベルトはエレナの顔を見つめると、甘―い声で囁く。
「僕は花火より何万倍も美しい君を見ていたいな。エレナ」
「やだロベルトったら。人の見ている前で恥ずかしいわ。・・・・でも、私も花火の何億倍も素敵なあなたを見つめていたいわ」
「じゃあ結婚したら毎日好きなだけ僕の顔を見てくれ。君だけの特権だよ」
「嬉しい! ああ速く結婚式を挙げたいわ。あと1日とはいえ待ちきれないもの」
「僕もだよ。それにしてもこんな美しい女性を妻にできるなんて僕は幸せ者だ・・・・」
「あら、私だってこんな素敵な男性と結婚できるんだから、私より幸せな人間なんてこの世にいないわ」
「エレナ・・・・」
「ロベルト・・・・」
 目の前で繰り広げられる甘すぎるやり取りに、俺とリュスはいたたまれなくなって静かーに部屋を出た。部屋を出る直前まで、ロベルトとエレナは新居には花をいっぱい飾りたいとか、子供は何人欲しいとか、そんなことを糖度たっぷりに話していた。
 いちゃラブは、はたから見てるとかなり痛い。


 その後。俺たちはメイヤードとローネブルグの縄張りの中間にある建物で行われたエレナとロベルトの結婚式が行われる中、建物のとある一室で黙々と食事していた。
 この幸せを他の人にも分けてあげないとと言って、エレナが結婚式に招待してくれたが、あいにく俺もリュスも礼服というものを持っていない。仕方ないので食事だけごちそうになることになった。
 客室は満室だとのことで、俺たちが通されたのは半分物置みたいな部屋だった。まあそれでも、ちゃんと片付いていたし窓からの眺めも悪くないし食事は美味しいしで、俺たちとしては何の不満もない。むしろ豪華な客室に通された方が落ち着かないし。
「なにはともあれ、薬を運ばされる羽目にならなくてよかった。まったく花火の材料を手に入れるのにあんなにこそこそするなんて、紛らわしいことをしてくれる」
 黙々と食事を口に運んでいたリュスは、ふと手を止めてそう言った。俺もちょっと手を止めて、フォークをひらひら振った。
作品名:運ぶのもと言えば 作家名:紫苑