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十六夜 ほたる
十六夜 ほたる
novelistID. 45711
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もうすぐクリスマスですね

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 やばいやばいやばい!
 コンクリートを力強く蹴り、人の波をかき分け待ち合わせに急ぐ奏多はとにかくがむしゃらに走っていた。
 何故か胡桃とファンシーショップに入ったあと、あれやこれやと言い流されて結局奏多は胡桃の買い物に遅い時間まで付き合うこととなってしまい、つばめとの約束に遅刻をしてしまった。
 走りながらメールを送ってみたのだが、つばめからの返信はない。
 怒っているのかもしれない、だがそれも仕方がない。
 まさかこんなに連れまわされるとは思わなかったのだ。
 今はとにかく少しでも早く集合場所に行かなければ、あのイルミネーションは彼女と一緒に見たいから。
 手首についている銀の腕時計に表示される時刻は二十時五十分を刻んでいる。
 あれが始まるまであと十分!
 ラストスパートというように走る足は少しづつ加速していき、待ち合わせ場所である公園についた。
 荒々しい息を整える暇もなく、つばめの姿を探す。
(ほとんどがここのイルミネーションを見に来た見物人か……早く見つけないと)
 噴水の近くにいるはずだ、と思い出せば足早に向かっていく。
 人が多くてなかなか先に進めない。だけど、かきわけて進んでいく。
 あっちを見てこっちを見てせわしなく周りを見てみる。
 ほとんどの人がカップルでやってきているため、少し先にいる一人ぽつんと立ち尽くしている少女が目立っていた。
 もしかして、もしかすると……。駆け足は少し早くなり彼女のもとへ急ぐように動かされる。
「ふ……じさ……き……!」
 走っていたため息が掠れ、声が途切れてしまう。
 だが、彼女にはその声が聞こえたのかぱっと顔を上げて右左を確認しては、溜息をついてまた俯いてしまった。
 彼女がつばめだと確信はもてたが、肝心のつばめは何故か歩き出してしまった。
(まてまてまて! もしかして帰るつもりじゃ)
 約一時間も待たせてしまっては帰りたくなるのも仕方ないし、何よりこんな寒空の中この時間まで待ってくれたのは正直嬉しい。だからこそ、今ここで彼女を帰すわけにはいかない、一緒にあれを……!
「ふ……き……じさ……藤咲っ」
 ぱしっと掴んだ手首は奏多と違い細く、力をこめてしまったら折れてしまいそうだ。男である自分と女であるつばめの差を感じてしまう。
 おそるおそると弱弱しく振り向かれれば、視界に入ったのは悲しみと嬉しさが混ざり合ったような、複雑そうに揺れる瞳が奏多を映しだしていた。うっすらとひかれたリップをのせた唇は一文字にきゅっと結ばれていた唇は小さく開き。
「き、さき……さん」
 と、声音を震わせて己の名字を言葉にした。
「はぁ……待……たせて……ごめ……」
 つばめのそんな姿を見て、不安にさせてしまったんだという申し訳ない気持ちがもやもやと己の胸に波紋のように広がっていった。