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十六夜 ほたる
十六夜 ほたる
novelistID. 45711
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もうすぐクリスマスですね

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 あれから時間が過ぎ、約束の時間から十分が過ぎた。
 あの後つばめは茜と別れて一人、この市の中で一番大きい公園広場に来ていた。
 公園には大きな噴水と古くなった時計塔、きれいに整えられた花壇に二つ三つと置かれる木材で作られた椅子。出入り口には造花で飾りつけられたアーチのオブジェが置かれている。ちょっと洒落た造りの広場だ。
 だが、頭の中でちらつくのは一瞬だけ見れた片思いの相手と、同じ相手に想いを寄せる女性の姿。女の子向けの雑貨店で楽しそうにしていたのを瞬間的だが見つけてしまったのだ。
もしかして、今日の約束……忘れられちゃってるのかな……。
ふと嫌な考えが生まれてしまう。
彼女……胡桃は奏多と同い年だ、大学でも一緒になることが多いだろう。くらべてつばめはバイトでしか一緒にいることはできない。もしかしたら、ただの口約束のため忘れてしまっている可能性も考えられないとは言い切れない。
腕時計を確かめては、溜息をつく。バックからスマホを取り出し、画面をタッチ。メール画面を開いては新着情報を受信しみた。


――新着メールはありません。


 何度見ても新着情報は入っていない。
「……はぁ」
 ぎゅっと両手でスマホを握りしめ大きく肩を落として溜息を吐く。吐いた息は外の空気にさらされ急激に冷え込み、真っ白になりあたりに広がった。
 嫌な考えだけが頭の中をぐるぐるする。
(今日を楽しみにしていたのは私だけだったのかな)
 そう思うと、じくじくと胸の奥が痛んで、じんわりと大きなその瞳に涙が滲みだす。
(私との約束なんて、彼にとってはどうでもよかったのかもしれない)
 同い年で自分よりも大人の女の魅力が溢れ出る胡桃と、年下でまだまだ大人の女とは言い切れない子供のつばめ、どちらのほうが魅力的なのかと思えばきっとほとんどの人が胡桃を選ぶだろう。つばめはそう思っており、なによりもその自分が埋めることのできない絶対的な壁である年齢差を気にしていた。
 とん、と軽くまたスマホの画面を叩く。表示された時刻は約束した時間からちょうど三十分すぎたところだ。新着メールも、電話もなにひとつ入ってはいない。
(帰ろうかな……でも、もし何かの事情があって遅れてきたとき私がここにいなかったら、心配かけちゃうかも)
 でも、もしかして、そんな言葉ばかりを並べて結局のところつばめばその場から動こうとはしなかった。
 手袋をしていても、じんっと寒さで冷えてくる手先をスマホを持ちながら指先を擦り合わせ寒さをぐっと堪えて待ち続けた。
「……き……じ……」
 声が聞こえた。かすかに、だけど。
 顔をゆっくりと上げて周りを見渡す。が、その声の持ち主であってほしいと思った人物はいない。
(気のせい、かな)
 はぁ……、とまたひとつ溜息がこぼれる。これで何回目だろうか。
「……ばか」
もう、帰ろう。これ以上待っていても、仕方がない。改めてそう思ったつばめはスマホを鞄にしまい、鞄を持ち直すと元気のない足取りでその場から動きだした。
「ふ……き……じさ……藤咲っ」
 ぱしっと名字を呼ばれたのと同時に手首を掴まれた。
 乱れた呼吸、手袋越しに感じる掌の感触。
 おそるおそると後ろを振り返ればそこには……――。
「き、さき……さん」
 少し汗に濡れた黒髪が風に揺れ、ふわふわとしたファーが付けられた黒いジャケットから除く線の太い首筋、つばめの手首を掴んでいないもう片方の手には灰色のマフラーが握られている。
「はぁ……待……たせて……ごめ……」