小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
十六夜 ほたる
十六夜 ほたる
novelistID. 45711
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

もうすぐクリスマスですね

INDEX|9ページ/9ページ|

前のページ
 



「あの……、大丈夫ですか?」
「げほっ! ごほっ! ごふっ! だ、大丈夫……」
「……全然大丈夫に見えないんですが……」
 あれからやっと合流ができたつばめと奏多。
 つばめは走ってきて息が整わず、咳が激しく出てしまっている奏多の背を撫ぜていた。
 来てくれた、しかもこんなに急いで……。
 さっきまで悲しくて悲しくてたまらなかったのに、げんきんにも彼がこうして急いで来てくれた姿を見てその思いはどこかに吹っ飛んでしまった。
「はぁ。そ、それより……ごめん」
「え?」
「……時間、遅れてごめん」
「あ、ああ……良いんです。その、気にしてないんで」
「それでも、ごめん。俺から誘ったのに……」
「もう、大丈夫ですよ! 私、本当に気にしてないんですから」
 何度も何度も謝る奏多につばめは張り付けたような笑みを浮かべて掴まれていないほうの手を胸の前で軽く横に振った。
「それに、今日ファンシーショップで胡桃さんといるとこ、見たので」
 顔を軽く下に向けながら、思わず口から出たその言葉。すぐに我に返って口を噤んだ。
 奏多は聞こえたそれに軽く目を丸くして俯いているつばめを見つめた。彼女の表情は俯いてしまっているため黒い前髪によって伺うことはできなかったが、どこか無理をしているように見えた。
 ああ、なんで私こんなこと言っちゃったんだろう!
 つばめの頭の中ではただそれだけでいっぱいだった。どうしてあんな事言ったんだろう、こんなこと言うつもりなんてなかったのに!
 鞄の持ち手であるベルトを力が込められるかぎり握りしめた。
「そっか……。見られてたんだ」
 耳に入ったテノールの声。
 思わず体が震えてしまう。その先を聞くのを拒むかのように。
「これ」
 と、言われ俯いた視界の中に入ってきたのは、可愛らしくラッピングされた小包み。
「なに……?」
 綺麗に包装された箱とそれを差し出す奏多を交互に見くらべて、つばめは小さく小首を傾げる。
 奏多は口をぱくぱくと声にならない声を出そうとしては口元を引き締め、少し頬を赤くさせて視線をつばめからずらしながら、彼女の手にその箱を持たせた。
「私に……?」
 持たされた包みを落とさないように両手で持ち直して聞けば、返ってくる返事は頷きひとつ。肯定のものだ。
「開けて……いい、ですか?」
 嬉しそうに頬を赤くし緩めては、大切な宝物ができたように大事に持ち直した。
 開けていいかと聞いた声はどことなく砂糖菓子のような甘さがあり、それが湊をドキドキとさせた。
「ど、どうぞ。気に入るか、わからないけど」
 右手の人差し指で頬を掻いては視線をさ迷わせて答える。
 つばめは人差し指と親指で綺麗に結われていたリボンをしゅるりと解くと、器用に箱を開け始めた。
 ぱかりと蓋を開け、中身を見る。その瞬間、小さく息を吐いた。
「かわいい」
 箱の中には兎の形をした銀色のフレームの真ん中に、きらりと少し輝く赤いガラスがはめ込まれたシンプルなネックレスだった。
「プレゼント選ぶために、ファンシーショップを見てたら愛智が来てさ。一緒に店に入ってくれたんだ」
 男一人だと入りにくいだろ、ああいう店。と、付け加えるように言ってから、ガシガシと大きな掌で自分の頭を掻いた。
 ぽかん、と小さな口を開け、穴が開きそうなほど奏多のことを見つめる。
(この人は……今、プレゼントって……言った……?)
 瞬きをし、もう一度己の手にある赤いガラスがはめ込まれている銀の兎を見つめ、また奏多を見つめた。
「プレゼント……ですか?」
「そう、プレゼント。……だから、その、べ、別に愛智と出掛けてたってわけじゃないからな」
 詰まりながらもぶっきらぼうに奏多は言った。顔は横に向いていて、表情をつばめは確認することができない。だが、髪の間から見える肌色の耳は真っ赤に染まっていた。
「俺だって、藤咲とイルミネーション見るのすっごく楽しみにしてたんだ」
「え……?」
ゴーンゴーン――……
「うわぁっ!」
「始まったわねぇ」
「きっれー……」
「さすが名物なだけあるなぁ」
 時計台の鐘の音が鳴り響いたとたんに、街灯で照らされていた公園内が部屋の電気をつけたときのように明るく輝いた。
 大勢いる人々の中からぽつぽつと聞こえる話し声は何かを見ているようだ。
「公園全体が、輝いてる?」
「始まったか」
 つばめの視界には淡い金色や青色、赤色と緑色といった光の粒で埋め尽くされ輝きを放つ公園だった。綺麗に整えられた草花のある花壇も、ここの出入り口とされている造花で飾られたアーチのオブジェも、年代物の大きな時計台も淡い光で照らされライトアップがされていた。
「この公園の名物の一つなんだって」
「そうなんですか?」
「ああ。クリスマス限定でこの時間にしかやらないみたいなんだ」
「調べたんですか?」
「うん。まぁ……最初ここを教えてくれたのは千弦なんだけど」
「千鶴が? 何だか納得です。千鶴こういうの好きだろうから」
「だろ。ほんと間に合ってよかった。一緒にこれ見たかったんだ」
 いつも無表情の奏多の顔が恥ずかしそうに頬を桜色に染めてくしゃりと歪む。凛々しい眉はへにゃりと垂れ下がりきりっとした切れ長の瞳は鋭さをなくし子供のように柔らかな、笑顔を浮かべた。
 思わず息をのみ、魅入ってしまう。
 こんな表情初めて見た。
 そう思うと胸にすぅっと暖かな風が広がるような気がした。顔や手は寒いのに、そこだけぽかぽか春のように暖かい。
「……綺麗、ですね」
「ん、すっごくね」
「……千鶴くんに感謝しないと」
「今度チーズケーキでも奢ろう」
「甘いミルクティーも一緒に、ですね」
 受け取ったネックレスを握りしめつばめはひたすら心の中で思った。
 ああ、私本当にこの人の事好きなんだ。
 千鶴くん、素適なプレゼントありがとう。