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十六夜 ほたる
十六夜 ほたる
novelistID. 45711
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もうすぐクリスマスですね

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 キーンコーンカーンコーン――……。
 昼休みを伝えるチャイムが学校全体に響きわたる。学生なら誰でもこの時間を楽しみにしているものだろう。待ちに待った昼食の時間だ。
 教科書や筆箱を鞄にしまい、代わりに桃色のランチボックスを取り出し机に置く。今日のメインはデミグラスソースがかけられたミニハンバーグ。その下ににひっそりと添えられているのは小さく千切られたキャベツ。ちょこんとプチトマトがひとつハンバーグの隣に置かれている。仕切りの反対側にはふっくらとした柔らかそうな卵焼きと一緒に入れられた少なめに盛られた白いご飯。女の子にとっては無難な量の中身だとつばめは思う。
 いただきます。
 両手を合わせ、声には出さずに幼い頃から教えられてきた挨拶をする。
 さぁ、食べようと箸を右手に持ちメインを食べようとした瞬間。横からにゅっと手が出てきて、食べようと思っていた二つあるうちの一つであるメインを摘ままれてしまった。
「ああっ!」
 私のハンバーグが!
「ふふ、いただき。あー…ん。んん、美味しーい!」
「あーちゃん、酷い。言ってくれれば半分にしてあげたのに」
 後ろを振り向くともぐもぐと口を動かし、爪の先についたデミグラスソースを舌でなめとる姿に少しばかりの色っぽさを醸し出している少女が整った顔立ちに綺麗な笑みを浮かべていた。
つばめがあーちゃんと呼んでいる彼女の名は、田中茜。彼女はつばめが高校に入ってからできた友達で、三年間同じクラスの親友だ。
食べようとしていたハンバーグは彼女の口へと入ってしまい、楽しみにしていた分横から取られてしまったのに少しばかし膨れっ面になってしまうのは仕方がない。
ぷくりと膨らんだつばめの頬をつんっと人差し指で突きながら、くすくすと声を小さく出し笑って「ごめんね」と言われてしまうと、つばめはもう何も言えなくなる。彼女の謝罪には何故かどんなに怒っていても、しょうがないなと許してしまうのだ。
「しょうがないなぁ」
「さすがつばめママね、冷えてても美味しかったわ。食べちゃった代わりに、はい。これをあげる」
 そう言って彼女が蓋を開けたお弁当の中から、タコさんウィンナーを箸で摘まんでつばめの口元に持ってきた。迷うことなくそれを口の中に収め噛んでみるとピリッとしたほどよい辛さが広がっていく、つばめ好みの味だ。
「で、よ。あたしは昨日のメールについていろいろと聞きたいんだけど」
箸を持っていない手でスマートフォンを操作し、広げたメール画面には昨日の夜につばめが送ったメールが映しだされていた。もちろん、内容は奏多とクリスマスに出掛けることになったという興奮と当日どんな服を着たらいいかという相談の二つ。
「メールで送った通りだよ。妃さんからクリスマス一緒にイルミネーション観に行こうって誘われたの」
 キャベツを箸で摘まんで食べようとしていたのを中断し、昨日のことを思い出してはふにゃりと頬を緩めてだらしない顔で答える。
 昨日私から誘おうと思ってたのに、まさか妃さんから声をかけてくれるなんて……。
 嬉しくていつ思い出してニヤけてしまう自分の理性の薄さが憎い。でも嬉しい。想い人の方から誘ってくれたんだから。
「……まったく、幸せいっぱいって顔しちゃってこの子ったら。クリスマスに一人身のあたしに対して自慢でもしてるのかしら?」
「え⁈ ち、違うよあーちゃん。私そんな自慢だなんて……!」
「ぷぷっ。わかってるわよー、そんなこと。ちょっとからかってみただけよ」
「もー……」
「つばめ着て行く服はもう決めたの?」
「ううん、それがまだなの。明日までに決められるか不安だよー……何着て行けばいいかな、あーちゃん」
「ふふん、だと思ったわ。任せなさい、つばめ。あたしがばーっちし可愛くして、あ・げ・る」
 ぱちんっと片目でウィンクを決める茜。つばめはその言葉を聞くと嬉しそうに頬を桃色に染めて「お願いします」と頼んだのだった。