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十六夜 ほたる
十六夜 ほたる
novelistID. 45711
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もうすぐクリスマスですね

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 千弦に急かされながら思い出していたが、もしも誘ったとして断られてしまったら俺はいったいどうすればいいんだ。
 奏多はぼんやりと遠い目をし、結果を嫌な方向へと考えてしまった。そんな彼の思考を読み取ったのか、声を潜めて真が言った。
「つばめイルミネーション観に行きたいとか言ってたっけなぁ」
 それが聞こえた奏多の肩が小さく震える。千弦と真は目線を合わせてニヤリと笑った。
もうひと押しだ。
「そういえば、つばめはクリスマス予定はあるの?」
「へぁ?……あ、ああ、ううん。ないよ」
「あら、そぉなのぉ」
 一生懸命自分に言い聞かせていたつばめは、いきなり話を振られ間抜けな声を声を出してしまったとテーブルに手をつき本日何度目かの公開をしているが、千弦は腕を組みまたニヤニヤと笑うだけであった。
 ここまでやったんだ、言いださなければ奏多は本当にただのヘタレだ。
 がしがしと頭を掻いて、一歩踏み出し深呼吸。やっとのことで奏多は誘う決心がついた。
 せっかくここまでしてくれたんだ。踏み出さなければいけない。
何よりも奏多自身がつばめと一緒に見に行きたいと思っている。深呼吸をして、一歩足
を踏み出す。
「藤咲」
 声は震えてないだろうか?
 さきほどから胸がバクバクと煩い。凄く緊張しているんだと感じる。今までで、こんなに自分が緊張することなんてないと思うほど。煩い。
 千弦と真を怪しい人を見るような視線をしていたつばめの目に、無表情な顔が映り込む。
「あ、もう大丈夫ですか?」
 彼女は自分がコミュニケーションを苦手としていると知っているから聞いてきたのだろう。まぁ、ここで働いている人は全員知っていることだけれど。
「うん。で……あのさ、二十五日空いてるならさ、イルミネーション観に行かないか?」
 恥ずかしくて、胸がむずかゆくて、目線を合わすことができない。彼女はいったいどんな顔をしているんだろうって気になるけど……見れないこのもどかしさと、自分のヘタレさにため息をつく。だがすぐに、奏多は顔を上げることとなるのだ。
「い、行きたいです! 私で、よければ喜んで」
 つばめの嬉しそうにうわずった声音が奏多の鼓膜を震わせた。
 目線を彼女に戻してみると、頬を緩ませて花が咲いたように可憐に笑っている姿が映った。
 か、かわいい。
 そう思ってしまうのは、やはり自分が恋をしているんだと感じたからだ。
「じゃあ、詳しい事は明日までにメールする」
「はい。楽しみにしてますね」
 誘えてよかった……。イルミネーションショーの時間帯、調べておこう。
「あらー……アタシ達忘れられてるわよ。真さん」
「いやぁ、青春だな。青春」
 しょうがないわねぇとでも言うかのように両手を肩の位置まで上げて首を振る二人にはもちろん気が付かないまま、その日のバイトは終えたのだった。