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Spinning

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返されたスマホの連絡帳には朱の電話とメールが登録されていた。朱もそのうち消えるデータの一つになるのだろう。データが飛んでも痛くない様に、そんな物に縋らなくてもいいように、私でいるために一人でいたけれど、朱が隣にいて話すのは少し楽しい。消える人達と共有する時間は楽しい。消えるから悲しい。「お友達」という約束で変な関係でしか無いけど、朱は私へ期待していないから嬉しい。
「僕のメールアドレス登録しましたけど、メール志穂さんやり方知ってますか?」
「あ、舐めてるな。あれだろ、メール画面立ち上げたら良いんだろ、あれどのアプリだっけ。これか。宛先の挿入は・・・」
「あそこでちょっと打ち方教えます。」
指差すファストフード店に入って、適当に注文して席に着く。朱は食べ方が綺麗だ。良いご両親に育てられたのだろう。言葉遣いも特に間違っていないし下品ではない。
「メール送信、と。」
「あ、着ました。顔文字無しって素っ気無さが志穂さんらしい。」
顔文字が高度なテクニックで使えなかっただけです。
「朱は家に早く帰らないでいいの?」
「僕は男兄弟なので帰っても食事の奪い合いです。静かに食べたいので、いつも少しどこかで時間を潰してから帰る事にしてます。本屋さんとか、図書館とか、部活とか。」
「朱、うち来る?」
「いえ、ご家族の方へ迷惑がかかりますから、また今度お邪魔します。」
「そう。」
うちにはご家族も何も、誰も居ないのに。
「で、朱の考えるお友達は休みには遊びに行ったりするものなの?」
「僕、男友達は居たんですけど、出掛けた事って無くて。志穂さん出来たら休みに一緒に映画かどこか行きますか?」
「堅苦しいのは好きじゃないから、ダラダラDVD見ておきたいかなー。」
「じゃあ、志穂さんのお宅にその時お邪魔しても良いですか?」
「メールで連絡してね。」
 朱は何を泣いたのだろう。堅苦しい口調?僕という口癖?



 朱はメールジャンキーだった。返信してもチャット状態のメールラリーが続く。面倒で寝る時にもメールが着く。鬱陶しいなと思った。明日顔を合わすのが面倒だと思った。

 朝、起きていつも通りに家を出る。今日買って帰る食材をメモ書きした物を財布に入れて、帰りにはATMに寄ることをタスクに打ち込む。高校の最寄駅に着く。朱からメールが着たけれど、見ないでおく。ホームから改札口へ出てすぐに朱からまたメールの着信がある。イヤホンを耳に差し直して音楽を再シャッフルする。
 朝は誰も私を見ていない。だから私も誰も見ない。帰り道は誰も私へ興味が無い。私も誰かへ興味が無い。朱がそれを崩そうとする。鬱陶しい。
 昼休み、ベルが鳴ってすぐに私は屋上でしかタバコを吸えないから真っ直ぐに階段へ向かう。朱が来ても来なくてもどっちでもいい。ただ、ケータイは鞄の中に放置してきた。これ以上朱を鬱陶しく思いたくない。画面に表示されるメッセージ数に怯えたくない。家族を恐れ怯えたように、コソコソ逃げ回るのは好きじゃない。
お弁当を広げる。いつも全体的に茶色いけれど、料理のレパートリーを増やすのと節約を両立させると茶色になってしまう。まだ、私は成長したりない。早く大人になって、一人で立ちたい。
 屋上の扉が開いて案の定朱が立っていた。隣に座ってしばし無言でご飯を食べる。タバコに火を着けた音を聞いて朱が口を開く。
「志穂さん、ケータイ持って歩かないんですか?」
「ケータイ依存じゃないから。」
「僕、はしゃいでメールずっと送ってたのに。」
「クラスメイトから嫌われたのってそれでしょ。朱、鬱陶しい。」
「ごめんなさい。僕、志穂さんとお友達になれて嬉しくて。」
「そうやって責任転嫁していれば朱だけ楽だろうね。私は鬱陶しいから返事しない時はしないから。」
「志穂さん、本当に無遠慮ですね。」
「そんなお友達が欲しいくらい追い込まれてたんでしょ。」
「だって僕もメール依存止めたいのに止まらなくて。友達もどんどん離れていって、でもメールしたいのに相手も居なくなって怖くて。どうしようって。昨日も志穂さんが負担に感じてメール返してくれないって思っても、メール打つのが止まらないから朝も怖くてメールずっと打ってて。」
「なんでそんな不安なのに傍に置くの?」
「僕も止めたいんです。繋がってるっていう実感が無いからいつも怖いんです。」
「そう。今のお友達っていう契約は繋がっている感覚はあるの?」
「よく分かんないです。」
俯いても声が震えている。そこまで恐怖して、何を手に入れたいのだろう。
「朱、もう私にメールするの止めて。用事が無い時はメールしないで。でも、学校に来ればお昼は一緒に食べるし、屋上に居るのも許すし、帰りに一緒に帰るのも休みにどこかへ行くのも予定が合えば、付き合うよ。」
「屋上許すって志穂さんは屋上の主でもないのに。」
「屋上の鍵作ったの私だから。朱、これは秘密な。」
目を剥いたのが面白くて笑う。ダルい授業をサボる時に保健室行くフリをして屋上の鍵をぶっ壊して手に入れた。用具は掃除箱に隠してあるけれど、これは本当の秘密。そのうちこっそり元の場所に返そうと思っている。
「志穂さん、今度の休みお邪魔して良いですか?」
「うん。」

 その日、私と朱は次の授業をサボった。

作品名:Spinning 作家名:武中