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Spinning

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Episode.1


 無難な高校生活。面倒な友人関係。仕事以上に関わらない教師達。私に関わらない人。息が詰まりそうだ。
 私は「進入禁止」と書かれたのを無視して鍵を開け、屋上で昼食を摂る。ここは季節の匂いのする風が吹く。今は春の温かな陽射しと、甘い花の匂いが心地いい。少し寝てしまいそうだ。
 ガチャリと扉が開いて、ついにバレたかと残念に思った。叱られるのは当たり前でも、ここでの昼寝を取られるのは痛い。教室で寝ても背中が痛むから好きじゃない。
扉が開いてそこに立っていたのは、クラスメイトのアケだった。姓も名もどう書くのか知らない。誰かがそう呼んでいた。私とは関わりの無いカーストの人。アケが屋上に私が居るのは前から知っていたように、私に向かって歩いてくる。
「僕とお友達になって下さい。」
この時、アケはロリータかオタクの分類なんだと知った。私に知人程度しか居ないのを知ってか知らずか声を掛けたアケは空気が読めないのか、馬鹿なのか図りかねた。
それよりも昼寝がしたいのだけど。
「僕とお友達になって?」
無視されたと思ったのだろう、二回言う。
「あ、うん、取り敢えず涙拭いて座って昼食べたら?」
コクリと頷いて横に座る。手に持っていた袋から菓子パンやらを取り出す。アケは何でここに来た?まあ、もうこれはお友達になるしかない。昼寝の前にポケットからキャスターを取り出し、一本火を着ける。くゆる煙も一瞬で春一番の風がどこかに流す。ぼんやりしていたけれど、アケが教師にチクったらそれで御終いで内申点に少し響くというだけ。タバコを喫む場所から屋上が削除されて、家の中に限定される。ただそれだけ。
いつの間にやらこんな捻くれた性格になって、女子高生になるのに必要な色んな物を落っことして、どこのカーストにも入れない。誰にも触れられないけれど、誰かに無意味に触れて欲しく無いから、今は特に不満じゃない。ただ、少し寂しいだけ。隣でアケがタバコを見ているのが、気まずくて話しかける。
「アケ、さん?とお友達になって私は何をしたら良いの?」
「僕の名前ちゃんと知ってる?」
「知らない。」
「じゃあ、そこから。僕は朱色で朱です。」
「ふーん。志穂です。知ってるか。」
「うん。誰とも積極的に関わらない志穂さんでしょ。知ってるから僕とお友達になって欲しかった。」
「関わらないのを知っていて?何それ。物好きなんだ。」
「志穂さん、さっきから僕が僕を僕って言っているのに、私って訂正させたり何も言わない。無視するその無関心さが欲しかった。」
クラスでちょっと浮いてしまって逃げてきた惨敗兵の言い分を聞きながら、タバコの火が落ちる。そろそろ昼寝しても良いかな。もそもそパンを食べる朱を見る。
「僕は僕なのに、私に直すのも難しいし恥ずかしいし、直せないのにみんな変だって言うし。」
「まあ、女は私の方が都合いいんじゃないの。社会的には。どこかの社会的には。」
「僕は男兄弟で育ったから、本当はすぐ俺って言うの我慢してて、僕って言ってもみんな変とか頭おかしいって。悲しくなってたら、志穂さん、いつも独りで移動もするし、ご飯もいつの間にか消えるし、友達らしい友達居ないみたいだからお友達になってみたかった。興味本位で屋上に来たら鍵掛かってないし、扉を開けたら居たから。」
なんじゃそりゃ。
「それでお友達になって?」
「そう。」
「でも志穂さん、タバコの匂いを香水で誤魔化してもダメだよ。」
やっぱり。メンソールに切り替えるかな。スースーして嫌いなんだけど。
「バレなきゃそれで良いし、見つかって怒られる時はその時だから、チクリたかったら教師に言えば?」
「だから僕とはもうお友達でしょ。お友達を売ったりしません。」
朱は無関心が欲しい程何かに泣いたんだろうけど、矜持は高いようだ。多分その矜持の高さ故に泣いたのだろう。
ゴロリと横になって広がる青空が好きだ。
「朱、お友達なら今日一緒に帰る?」
「僕に本当に関心無いですね。部活入っていたらどうするんですか?」
「普段通りに帰るよ。」
「冷たい。僕も一緒に帰ります。」
「ていうか、朱さ、マジで俺っていつ言うの?怒ると俺になんの?想像すると面白いな。うひゃひゃ。」
「滅多に外では言いません。でも、私っていうのは慣れなくて恥ずかしいです。」
さっきのロリータ予想は外れたけど、オタクの線は捨てきれないな。
「朱、隣に居ても居なくてもどっちでも良いけど、さんを付けなくて良いし、構えなくて良いし、あと出来たら授業始まる5分前に起こして。」
「え、志穂さん寝るの?」
「食べたら眠い。おやすみ。」
 春一番がザザザと吹く。陽を燦々と浴びながら眠る。誰かと一緒に帰るなんていつぶりだっけ。なんだかむず痒いけれど、眠気には勝てなかった。



 無難な高校生活。面倒な友人関係。仕事以上に関わらない教師達。私に関わらない人。息が詰まって吐きそうだ。
さて家に帰るかと用意をしていると、朱が準備して待っていた。忠犬の様に守らなくていい約束を守る。何年かぶりに今日はむず痒い。
「お待たせ。帰ろうか。ていうか家どっちなの?」
「志穂さんと駅までは一緒です。駅が一緒なのも知らない・・・。」
「いや、朝とか同じ学校の人いっぱい居るから覚える気ないから知らなかっただけで。」
「今更慌てなくても別にいいですよ。」
昼から授業を受けていて、休憩時間に朱がクラスで話す人達に何かを遠慮しながら話しているのは分かった。だからといって私の所に来て話す程でもない。お友達の約束は朱が飽きたら終わるんだろうから、それまで放置で良いか。すぐ飽きるだろう。
「で、今僕の話聞いてましたか?聞いてませんでしたね。」
「宇宙への期待は拝聴しました。」
「それは今日の授業で先生が話してた内容じゃないですか。」
「宇宙は無限だね。」
「志穂さん、授業だけはきっちり参加しているから成績は悪くないんですよね。」
「授業は聞く以外の他に何もやることないから。」
「僕気になること考えたりしてたら、授業終わってて。」
「朱は残念な子だったかー。」
「志穂さんは無関心で無遠慮ですね。」
知っているというか、ワザとなのに朱は気づいているかな。
「志穂さんは携帯持ってないですか?番号交換しましょう。」
「・・・電話は取らないし、メールでやり取りになるけど、それで良い?」
「僕も電話あまり好きじゃないです。志穂さんは無遠慮ですけど、嘘を言わないんですね。」
潰れ気味の鞄からケータイを出す。
「朱、赤外線ってどうやってすんの?」
「・・・友達居ないの本当だったんだ。そして赤外線付いてないですよ、それ。」
 友達は居ませんが、それが何か。
 取り敢えずロックを解除して、朱に渡す。スマホでネットと音楽を聴くのだけで使っているので、使い方がいまいち分からない。友達も居ないので、メールも特に使わない。電子書籍が読めて、音楽が聴けて、ネットが快適で、目覚まし機能が付いてればそれで良い。
作品名:Spinning 作家名:武中