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千歳の魔導事務所

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「結晶がなくなってるからな、きっともう大丈夫だろう。襲ってきた人達も私達が帳尻を合わせるからまあ、大事にはならないよ」

「良かった……とりあえずこれで解決するんですね」

 安心して私がそう言うが、玲華さんは視線を伏せてばつが悪そうにしている。

「玲華さん……?」

「……いや、そのな……私もこんなことはしたくないし、助けられておいて人としてどうかとも思う」

 そして私の方に近づいてくる、その表情は本当に辛そうだ。

「それでも君のことを――見逃すわけにはいかないんだ」

 玲華さんの拳は身体の前で組まれて、わずかに震えていた。

「……どういうことですか」

 まだミキの治療が終わっていない。最低でもミキだけは助けなければ。

「私がここに来た目的は確かに舞樫(ここ)の異常を調査することだ。だけどその過程で君達というさらに重大な異常を見つけた、それはやっぱり――放っとくわけにはいかないんだ……!」

 玲華さんの声は震えていた。本当に苦しいのだろう、あまりに痛々しいその姿は見るに耐えなかった。

「そうですか……しょうがないですよね。でも玲華さん、この子だけはお願いですから助けさせてくださいね、その後だったら私は別に構いませんから」

 それはその時は確かに本気だった。さっき一度私は全てを諦めてたし、その上でミキが助かるなら別に良かった。だけど。

「いやいや、君が構わなくても私が構うよ。せっかく勝ったんだから勘弁して頂戴な」

 ウチの所長はわがままだった。

「――! やはりまだいたんだな! 誰だ!? 出て来い!」

 ガラクタの影から聞こえてきた声に、玲華さんは戦う構えをとって言った。

 ああ、まあしょうがないか、多分隠し通せるものでもなかっただろうし。

「玲華さん! その人に手を出さないでください! 所長も! もうこれ以上怪我人増やさないで下さい!」

「と、まあウチのかわいい事務員ちゃんが言ってるんだ。ここは一つ見逃してくれないかね」

「こっちもそういうわけにはいか、ない……ん……」

 姿を現した所長に玲華さんは声も出ないほどに驚いていた。

「そこをなんとか頼むよ」

 悪戯っぽく言う所長に玲華さんはなんとか声を絞り出した。

「……せん……ぱい……?」

「久しぶりだね。リンファ」

 私は確信した。また置いてけぼりになる流れだと。








『そんな……あなたは五年前のあの時に死んだはず……!』

『死んださ。それは紛れもない事実だよ』

『じゃあ……なんでここに……』

『そんなことは決まってる……』

 バキ――ベキベキ、ヌチャ、ゴキ――。みるみる身体が変形し、グロテスクに膨れ上がる。

『私を殺したお前に――復習するためさぁ!』

 バクゥ!

「イヤーーーーー!」「うわっ……」「――――っ!」

 各々の性格が現れる驚き方だった。

「痛い痛いミキ痛い、そんな力入れたらまた治り遅くなるよ。……部長も手汗びったびたじゃないですか」

「だって〜〜!」「……だって……」

「だってじゃありません。ほら地味に暑いから離れて、部長も手ぇ拭いて下さ」バァーーーーーン!

「ギャーーーー!」「ひぁっ!?」「ふぐっ……!」

 ちなみに順にミキ、私、櫻井部長。私はむしろテレビの音量にまけないミキの声に驚いた。

 畳み掛けるようなクライマックス。シリーズ二作目、今日の午前中に一作目を観て、立て続けに観ているのにここまで来ても飽きずに観てしまうのは、やはり全米を泣かせた実力ということか。

 だけどこの前映画館で観たあのじわじわ迫りくる感じが私は好きだったので、一作目からのコレジャナイ感は感じざるを得なかった。

 今度邦画リメイクをするらしいので、日本のホラー技術が合わさってきっと凄いものになるだろう、今から期待だ。

 さて、夏休みもそろそろ終わるという頃、私はいつかの約束を果たすように、ミキの家でホラー映画の鑑賞をしていた。

 そしてそこには櫻井部長も招かれていた。私が何気なく誘ったらお見舞いなら是非一緒にと来てくれたのだ。ホラー映画のことを伏せていたのはついうっかりしていただけだ。本当だ。

「…………恐かった〜、ね!」

 エンドロールが流れ出した。

 ミキが私の左側でぼやいていたが満足したような笑顔だった。

 部長は私の右手を握って無言で俯いている。その綺麗な黒髪が顔にかかってまるで和製ホラーで出てくる人のようだった事は言わないでおこう。

「ちょっとおトイレいってくるね」

「……一人で大丈夫? 一緒に行こうか?」

 立ち上がるミキ、手には少し小さいサイズの松葉杖を持っていた。

「だ、大丈夫だよ! そこまでビビッてないよ!」

 いや、私が言ったのはそういう意味じゃないんだが……まあどっちみち大丈夫そうなので追求するのは止めておいた。

 じゃあ私は空の麦茶のコップでも片付けにいきますかね。

「ちょ、どこいくの!?」

 右手を離すと息を吹き返したように部長が動き出した。

「片付け? わ、私も手伝うぞ、さあ行こう、すぐ行こう、一緒に行こう」

 いつもの毅然とした態度からはあまり想像もできないうろたえ様。部長がホラーが苦手だとは意外だったな。

 不意に窓からみた空が、燃えるような橙色に染まっている。これを片付けたらそろそろお暇(いとま)させてもらうとするか。

 ミキは泊まれと言っていたが今日はどうしても外せない用事があるのだ。

「しかしアイツも器用な怪我をするもんだな。階段から落ちて手と足だけやっちゃうなんて」

「まあ変に頭とか打ってくれるよりは良かったですよ。夏休み一杯は不自由ですけど学校始まったら杖もいらなくなるらしいですし」

「その辺りも含めて無駄に器用だよな……」

 並んでコップを洗いながら、ついでに乾いていた食器類も片付ける。ミキとはお互いの家をよく行き来していて勝手知ったるなんとやらだった。

「あー置いといていいのにー! 悪いよー」

「いいから座っとけ怪我人。悪いと思うならさっさと治して夏休み来れなかった遅れを取り戻せ」

 トイレから出てきたミキが申し訳なさそうに言い、それに被せるように部長が傍の椅子を引きながら答えた。

 それを見て思わずくすっと息が漏れてしまう。

「ん? どうした孤都よ」

「いえ……部長もある意味器用だなーと思っただけですよ」

 ミキと櫻井部長は、怪訝そうにお互い顔を見合わせていた。

 それから一通り片付けて、帰る頃にはもう日がほとんど落ちていた。

 櫻井部長は私を家まで送ると言っていたがそれだと相当な遠回りになるので流石に丁重にお断りした。

 帰り道で櫻井部長と別れて、星も少し見える空の下でそこを目指して歩いていた私はあの時のことを思い出していた。



 あの時突然現れた所長に対しての反応からすると、どうやら所長と玲華さんは顔見知りのようだった。

 驚いて何か言おうにも言葉が出ずに立ち尽くす玲華さんに対し、所長は楽しそうに不適に微笑んでいた事を覚えている。

 そこからは玲華さんが不遇だった事が印象深い。
作品名:千歳の魔導事務所 作家名:こでみや