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千歳の魔導事務所

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 彼女達は、いわばイレギュラーだ、本来のシミュレーションには入っていない。そもそも協力関係になること自体避けるべきことだった。

 だが……この任務を失敗させるわけにはいかない。成功率を上げるためにはなりふり構っていられないこともある。

(くそ……!)

 自分の未熟さが嫌になる。思わず奥歯を噛み締めるが、自らの感情に身を任せることは刻々とかわる状況において、時に致命的になり得ることも知識としては理解しているのだ。

 とにかく、思考の前に必要なのは何に置いても落ち着くことだ。置き去りにするものは自分の感情だ。

 ――さて、私にはあの子のいう『気配』を感じる事はできない。しかしそんな事ができなくても五感を研ぎ澄ませれば辺りの状況くらいは把握できる。

 木々の向こうのさらに向こう、複雑に生い茂る植物共に遮られ、そこまで視線が通ってるか否かという位置に、何か動くものが見えた。

 あの子と……レオとかいう使い魔、できれば彼女達も無事で済ませたい――少なくとも、事が片付くまでは。

 なんにせよ――私は叶 玲華(かのうれいか)として最善を尽くすまでだ。



(仕留めるか……?)

 その動くものはどうやら人のようだった。あの白い猫ではない、きっとさらに前方を駆けているのだろう。こいつに構っている間に倉庫に入られたら面倒だ。

 その人物の頭上を追い抜き、視界が開けて倉庫が見える。白い猫は……いた、真っ直ぐに入り口に向かって走っている。

(よし、間に合った……ここからなら、狙いは――あそこだ!)

 私は一息に跳び――上空から、全体重を乗せて拳を――叩きつける!

 重厚な爆発音のような音と共に盛大に敷かれたコンクリートの破片が飛び散る。

 流石に……一筋縄ではいかないようだ、拳が当たる直前に気づき、後ろに飛び退くようにしてギリギリかわされた。

 だがひとまずはこれでいい。

 どうせ捕まえようとしても先程のように意識に介入される。まだその力の正体はわからないがこういうときは距離をとるか短期決戦かだ、そして距離をとると私には不利なのは解っている。

 だとしたら短期決戦――相手を行動不能にさせられれば尚良い。

 白猫を倉庫から遠ざけることには成功した。だが猫如きのバックステップで私から逃れられるものか、地面に突き刺さった拳をそのまま力任せに白猫に振り上げる――。

 ――白猫は燃え上がっていた。

「!? なっ、んだと?」

 近接戦闘において相手のカウンターには絶対的な注意を払わなければならない。

 自らが攻撃するとき、その瞬間は逆に防御が最も疎かになる。

 この猫に、特に全身を包む炎に触ってはダメだ。一瞬お互いの動きが止まる、本能的に今度はこちらが後ろに跳び、距離をとる――しかしそれに追い討ちをかけるように猫は炎をコブシ大の塊にしてこっちめがけて飛ばしてきた!

 一つ目、二つ目の炎はなんとかかわす、しかし三つ目の炎がわき腹を掠める――鋭い衝撃が脳天に突き抜けた。

(ぐぅっ……!)

 だが痛みにリアクションしている場合でもなかった。両手に反射的に握ったコンクリートの破片を猫に向かって投げつける。

 倉庫から離れるよう誘導するように、しかし当たれば致命傷は免れない勢いで。
                                          ・・・・・・
 猫は思惑通りに跳ねるように倉庫から離れると、いつのまにかに追いついてこの場に現れた制服姿の少女の肩に飛び乗った。

 またか……。嫌な経験が頭をよぎる。まるで昨日のようなシチュエーション――というか条件はほぼ同じだろう。

 場所は言わずもがな、目の前にはここの学校の制服を着た女子高生、その肩には確実に普通ではない類の猫。

 違っていることをあえて挙げるとすれば、金色だった猫が白くなって炎を出すことがわかっていて、女子高生の方は少し垢抜けた雰囲気になったというところか。

 ――同じ轍は踏まない。腿のポケットにある特注の金棒(ロッド)を取り出す。直接触れられないような相手にはシンプルだがやはり、コレだ。

 そして一直線に距離を詰める――と見せかけて直前で回り込もう、あの猫を一息に叩き落したらそれで終いだ……さあ、いくぞ――!

「待って!」

 出鼻を挫く透き通ったその声は、初めて見る目前の少女のものだった。

 踏み出そうとした足を思わず止めてしまう……どうした? 時間を稼ぐつもりか……?

 しかし白猫は纏っていた炎をその声と共に消し、肩から降りると行儀良く少女の横に座りこちらを見る。

 ……交渉の余地は、実はある。

 要はこいつらがやっていることの目的をはっきりさせ、それがもしこちらに有益であればよし、そうでなくとも利用価値はある……元々私はそれを見極めることも一応目的のうちに入っている。

 ――仕方が無い……。それに人間の被害者はなるべく増やしたくはない……。

「なんだ……君はそいつの仲間なのか……?」

 まあ仲間だろう、少なくともあちらサイドなのは間違いない。

 少女は泣きそうな声で答える。

「どうして殺そうとするの? ただ生きようとしてるだけなのにそんなにいけないことなの?」

「そいつが生きるためにはそんな、何万人もの人の犠牲が必要なのか? もし牛や豚が自分達が喰われる為に生かされてると理解したら人間を殺しにかかるだろ? これはそういうことだ」

 ちょっとだけ違うが。

「別に人を殺したりなんかしないよ。ただ少しだけチカラを分けてもらってるだけだよ」

 ふむ、少しだけ話しが見えた……これなら――。

「そうか、だがやり方がちょっと強引過ぎたな。そうだ、こうしよう? ちょっと遠いが一旦私と一緒に来てくれないか? そこではその猫のような生き物の生きていくための方法を教えてくれるんだ。絶対悪いようにはしないから」

 少女の表情は次第に怒りのそれへと変わっていく。

「うそだね、人間はすぐにそうやって自分の都合のいいように考えるから嫌いだよ」

 ――辺りの雑木林からガサガサと音が多方向から聞こえてくる。老若男女、いや皆比較的若い。しかし性別や年齢には幅がある人々が姿を現す。この倉庫を……私を囲うようにして。

「そう簡単に! ぼくはやられない!」

 人々がこちらに向かって来た。

 なるほどね、そういうことか……全く、流石の私もこれは骨が折れそうだ。



 さて……と、どうしたものか。

 目が回るような、いや実際に私の目はぐるぐるとせわしなく回っているのだがそれは自らの意思で回しているのであって別に意識が混濁したり、そういったことはない。

 四方から我武者羅に突っ込んでくる人々をそれぞれ紙一重でかわし、人の骨などたやすく砕きそうな勢いで振り下ろされる角材を足刀で逆に砕き、強引に掴みかかってくる手を掌打でいなし、その間を縫って飛んでくる火の玉を金棒(ロッド)で叩き落しながら私は考える。
作品名:千歳の魔導事務所 作家名:こでみや