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千歳の魔導事務所

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 シャワーを浴びようと服を脱ぐと、あちこち汚れてはいたが、傷らしい傷は一切残ってなかったのだった。レオに見せようとしたが見てくれなかった。

 レオの身体に関しては人形のそれなので私達にはどうすることもできなく、そこは所長が帰ってきてからなんとかするしかなかった。

 そうだ、所長だ。とりあえずレオの身体の泥や汚れを落として一息ついたところで、今日の事を所長に伝えようと携帯を取り出す。

 と、一件着信があったことに気づく、ミキからだ。私が来ないからどうしたのだろうと電話してきたのだろう。所長に連絡する前に一言言っておこうと、履歴からミキへとコールする。

 しかし、コール音が何回響いても一向に出ない。どうしたのだろうか? 念の為もう二回ほどかけてみたがやはり出なかった。

「なんでだろ? まあいっか。じゃ所長に電話するよー」

 面倒臭そうに机に置いた携帯の前に移動するレオ。だがそのコールも届くことはなく、私達は顔を見合わせてあれこれと思考を巡らすしかなかったのだった。

「考えても仕方が無い、今日はもうとりあえず休もう。今はハイになって自覚もないかもしれないが、身体の疲労は相当のはずだ」

 そんなことはない。と反論するが、ベッドの横になるとものの十分もしないうちに睡魔が襲ってきたのだった。時刻は午後八時、子供でもこんな時間には寝ない。ぐう。



 ――そして、翌日。朝靄もかかる時刻に目が覚める。どこかで不安に思っていたが、机の上で丸くなるレオを見て安心する。

 トーストにバターをぬった軽い朝食を、朝のニュースを見ながらいただく。テレビでは今日も暑い日になると言っていた。そんな、いつもと何も変わらない日常だったのだ。

 それは月並な例えならば嵐の前の静けさとでも言うのだろう――今日というこの日は、私の心に深く刻まれることになる。



 朝食を食べて身だしなみを整える。少し考えたが一応制服に着替えることにした、学校に行くわけだしなにかとそのほうが都合もいいはずだ。

 私が着替えてる間もレオは猫のように丸くなって机の上で眠っていた。その格好は朝食前の姿と変わらない。

 微かな不安がよぎる……流石に声をかけてみる。

「――レオ? 起きてる? 朝ダヨー……」

 猫耳がピクッと動いた。一安心だ。

 ギリギリと身体を軋ませてこちらに向くレオ。……その動きは本当にからくり仕掛けの人形のようだった。

「ああおはよう孤都。調子はどうだ? 疲労感とか残ってないか?」

 と、こちらを気にかけるレオだったが、逆にその様子が痛々しい。

「人の心配より自分のことだよ! ねえレオ、ホントに大丈夫? やっぱりもう辞めようか……? このままだと本当に壊れちゃうよ……」

 人形の身体が自然に修復されることは無い。私の回復(ヒール)もレオには効かない。あれは生体にしか効果がないらしい。

「確かに見た目は気の毒な事になってるかもだが、あくまでこの身体は作り物だ。たとえ腕や足がとれても死ぬことは無いし、いくらでも替えが効く。それに孤都、なによりお前、玲華(アイツ)が心配なんだろう?」

「それは……まあ、そうだけどさ……」

 それを言われてしまうと答えようが無くなってしまう。レオの気遣いが、痛い。

「そら、準備できたら行こうぜ! 俺も結構気になってるんだよ。最悪もう何か起こってるかも知れないしな」

 いくら聞いてもやはり声だけはいつも通りだ。それが本当に平気だからなのか、それとも強がりなのか、確かめる術は今の私には無かった。

 現在時刻にして午前十時。準備自体は実は一時間前に終わっていたのだが、念の為にレオにできる限りの魔力を渡しておきたかった私は色々と理由をつけ、わざと準備を遅らせた。

 その際に、昨日繋がらなかったミキと所長にまた電話をかけてみたが、やはり繋がることは無かった。

 流石に違和感を覚えた私は意を決して玄関の戸を開けるのだった。装備はメガネ、腕輪、そして肩にレオ。学校までは歩いて二十分の道程だ。

「……大丈夫か? 孤都よ、なんだか元気無いな」

 学校までの道の途中、肩に乗ったレオは私の顔を覗き込んでそんな事を言う。

 そりゃあそうですって……心配事が多すぎて自然に顔も険しくなるというものだ。

「ねえレオ……この事件が終わったらさ、魔法、教えてよね。自分から言ったんだからちゃんと守ってよ?」

「やだね」

 え。

「え」

「お前さ、自然にそーいうこと言うのやめてくれよ縁起でもない。終わった後の事を考えるのが許されるのは余裕のある者だけだ。今お前はその足りない頭で目先のことに精一杯悩んでいれば、それでいいんだよ」

「むー、少しくらい現実逃避したくもなるんだよ、こんなこと私の人生の予定表には明記されておりませんでしたので。乙女の淡い幻想をぶち壊さないでくれるー」

 それは悪かったな、とシニカルに笑うレオ。全く、口の減らない。

 だがレオの言葉も一理ある。思わず天を仰いでため息一つ。

「心配か?」

「まあねー……」

「……玲華(あいつ)な――」

 レオは、あの時去り際に玲華さんと話していた内容を教えてくれた。



「――なあ使い魔。あの子なんだが……本当に魔術師じゃないんだろう?」

 玲華の言葉は矢のように真っ直ぐだった。

「……まあな。流石に解るか」

 その会話はお互いを敵同士だと認識している者同士、言葉に感情は無かった。

「……お前、用事を済ませに行くとか言ってたが、俺達を試したんだろう?」

「あちゃ、バレてたか」

 玲華は自嘲気味に笑う。しかし動揺するようなそぶりは無く、むしろ好都合とでも言いたげだった。

「そう。君達が犯人なら律儀に言うことを聞く必要もないだろう。だからちょっと試させてもらった。ただあまりにも素直に番をしてくれるものだからばかばかしくなって、途中で切り上げたんだがね」

「あまり騙されるのは気分のいいものじゃないな」

「すまなかった。ただこちらとしてもしくじるわけにはいかないんだ、わかってくれ」

 逡巡し、そして意を決するように言葉を発する。
                                                                          
「――俺も、できるならあいつを危険な目に遭わせたくは無い。だから今回のことについてはお前を信じよう、だからこちらも信じてもらって構わない――それを、己が真理(アルグ・ウェズナ)に誓おう」

 玲華はここで初めて驚いた表情を見せる。だがすぐににやりと、心底楽しそうな表情を見せて言う。
          
「そうか。ならば私も己が真理(アルグ・ウェズナ)に誓う」

 そうして、孤都の元へ駆け下りた。



「ま、なにが言いたいかというと、今回の事に関してはあいつの事は信用して大丈夫だということだ」

「別に、私はそこまで疑ってたわけじゃないし……」

 玲華さんはレオの御眼鏡にかなったようで、あの時の会話はどうやらそれを確認していたということらしかった。いやでもホント、玲華さんを疑ってたわけじゃないんだよ……?
作品名:千歳の魔導事務所 作家名:こでみや