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千歳の魔導事務所

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「ん……、そうだな……千歳が話すべきことだとは思うが、そうも言ってられないしな……」

 妙にもったいつけるレオ。レオは倉庫の中心にあるソレを見て言う。

「あそこにある魔力だが、あれは一人につき一つの結晶としてあそこに存在してる。それはさっき言ったよな」

「うん、結晶なのは誰かがそう加工しただけで、本当は目に見えないんだよね」

 何者かが結晶という形にしてここに集めていると、玲華さんとレオが話していたのをさっき聞いた。

「ああ、それでもし、お前の魔力を同じように結晶化したら、おそらくこの倉庫じゃ収まらないほどの大きさになるはすだ。まずそれが、お前の魔力の大きさだ」

 ……軽い衝撃が走る。ここの倉庫に集められている結晶はあそこに見えるものだけでも舞樫市民ほぼ全てのものだったはずだ。それを私一人で軽く凌駕するという。

「もしくは超超高密度の塊になるか、だな。燃料でいうと解りやすいか、あそこの結晶一つが百円ライター一つ分だとすると――」

 ああ……なんとなくわかってしまった。レギュラー満タンでお願いします。

「お前は石油コンビナートだ」

「施設じゃん」

 そうだったか? と、とぼけるレオだったが言いたいことはわかった。でもだとすると、今回真っ先に狙われるべきは私だったんじゃないのか?

「そこは千歳の功績だな。あいつの腕輪のおかげでお前は無事だったっていうわけだ……まあ少しくらい奪われても気がつかなかったかもしれないが」

 にわかには信じがたいが、今は信じるしかないだろう。そのおかげで今回は命拾いしたらしいし……。

「……ん? 命拾いしたのって私のおかげなの?」

 レオの話しによると、つい先ほどの私はお荷物ではなかったという。

「そうだぞ、最後のアレは俺はこの姿じゃ使えないはずの技だった」

 最後、玲華さんが鉄製の警棒を取り出した直後、玲華さんは急に意識を失って地面に倒れた。あれはどうやらレオの仕業だったらしい。

「あいつの周りの空気をいじって酸素の濃度を一気に上げたんだ。ただ気絶させるだけだったらそれが一番良い方法だった。まあ対処法も多々あるがな」

「だったら最初から使えばこんなぼろぼろにならずに済んだんじゃなかったの? 折れてないけど骨折り損だよ」

「消費の割りに対処法が多いんだ。あいつがそれを知っていたらただ魔力の無駄になるだけで、もし外したら満足に動けなくなるから最後の手段……というか本来選択肢にすらならないはずの技なんだよ」

 レオはそう言うと私の目を見て、疑問を投げかける。

「そうだ、あの直前からだ。お前に触れるだけで魔力が沸いてくるようだった。率直な疑問なんだが、あの時何があったんだ?」

 その真っ直ぐな視線に少しどきりとする。

 だが、あの時特に何があったというわけでもなく、私はただ単に必死だったんだ。

「うん……でもね、ちょっとだけ思ったよ。こんな理由でやられるなら! って。だからどうというわけでもなかったけど」

「ふうん……。まあとにかくだ。その時のお前の魔力のおかげでなんとか無事に済んだってわけだよ。魔力の心配さえなければ、俺だって止まることもなく攻撃に専念できるわけだしな」

 体力で身体を動かす人や動物と違って、動力を魔力に依存しているレオは、そのストックが無くなると満足に動くこともできなくなる。

 先の戦闘のように攻撃や防御さえも魔力を使っていれば、その小さな身体の魔力はすぐに底を突いてしまうのだ。

 一体私に何があったかはわからないが、今ここにこうして無事でいることだけはなんとか事実だと、私は手首にまいた所長のブレスレットを見て思うのだった。

 そこで、ギィィォォ……と、金属の軋む音が倉庫内に響く。その音は足元の入り口からではなく、そこからは真逆の位置から聞こえてきた。

 私とレオはその裏口を注視して警戒する。時間にはまだ少しだけ早い気がするが……。

 しかし、そこに現れたのは予想通り、玲華さんだった。

 私は張った気を緩め、玲華さんに向けて手を挙げる。どうやらこちらを見つけたようで、辺りを二度三度確認してから一足に二階の足場に飛び乗った。……五メートルはありそうなんだけどなあ。

 異常が無かったことを伝えると、玲華さんは手に持ったペットボトルを私に渡して言った。

「思ったより用も早く済んだよ、ありがとう。君達も色々準備があるだろう? ここはもう任せていいから、一旦戻るといい」

 優しい笑顔だった。私がレオに意見を求めるように視線を送ると、レオは玲華さんをじっと見つめていた。

「そうですか、わかりました。じゃあ私達は一旦戻ります」

 レオをほっといてガラクタ山を崩さぬように慎重に降りる。結構時間が掛かって下まで着く。上を見上げるとまだレオは降りようとしていない、なにか玲華さんと話しているようだった。

「……れおー?」

 私が呼ぶとやっとこちらに軽やかに降りてきた。軽く会釈をして非常口から外に出る。レオはなにやら真剣な様子だった。

 倉庫を後にし、雑木林を学校に向けて掻き分け進む。前を歩くレオに私は問いかける。

「ねえレオ、さっき玲華さんとなに話してたの? また喧嘩しちゃだめだよー?」

 するとレオは立ち止まり、私の方を一回流し見て軽くため息をついた。

「喧嘩ねえ……まあいい。なあ、孤都。今回の事はあいつに任せて、もう俺達は手を引かないか? そんな肩入れする理由もないだろう? ほうっておいてもあいつや千歳がなんとかするさ」

 その提案は、考えてみれば尤もな話しでもあった。

 確かにこうして解決に向けて動いている人がいることも確認できたことだし、わざわざ危険を冒してまでも私達が首を突っ込む必要性も、理由もない。

 あちこちぼろぼろの私とレオを見て、ただの好奇心や幼稚な正義感で動いていい範囲を超えているということもわかる。だけど……。

「うん……。だけどさ、やっぱりまだ実際は何も起きてないかも知れないけど、少なくとも玲華さんはそれを防ごうとしてるのは本当だと思うんだ。知らなかったとはいえその邪魔もしちゃったわけだし……だからさ、もうちょっとだけ、一緒に頑張ってみたいとも思うんだよ……だから、ね?」

 レオは少しだけ悲しいように目を伏せて、そして少ししてから顔を上げて、「しょうがねえな。じゃあもう少しだけ付き合ってやるよ」と、微笑んでくれたのだった。

「それで、一旦戻るとは言ったけどどうするの?」

 ほっとした私はレオに問いかける。レオは再び雑木林を掻き分け進みながらそれに答える。

「今日はもう撤収だ。あいつにもそう伝えてある。不測の事態だったのはむしろこっちだったわけだしな」



 それから。

 こんな姿でミキ達の前に姿を見せるわけにもいかないので、私達は真っ直ぐ家に帰った。

 レオは事務所に帰ろうとしていたが『あのね、今日は、家に誰もいないの……』と悩ましげに言ってみたら呆れながらもついてきてくれた。一体どんな意味で捉えたんだろう。
作品名:千歳の魔導事務所 作家名:こでみや