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千歳の魔導事務所

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 結局倉庫の裏にある日陰まで引きずってきて、そこで一息つくことにしたのだった。この人が目を覚ますのを待ちながら。

「ではレオさん、落ち着いたところで置いてけぼりの私は説明を求めます」

 日陰に適当に腰を下ろし、行儀良く座って相対する猫人形に話しかける。

「まあそうだろうな。どこからだ?」

「まず、あなたは何者ですか?」

 前提から、お願いします。




 レオは所長の昔の仲間。元々は人間だったらしいけど、なんか色々あって猫人形になった。

「……えらい簡単な説明だな」

「でも私が知ってるのは実際そーゆーことだよ。なにか事情があるみたいだから詳しくは聞かなかったけど、何? 人が人形になると空も飛べるし人も吹っ飛ばせるの?」

 まず人が人形になるという事実自体にわかには信じがたいことなのだが、実際目の前に体現者がいるのでとりあえず置いておこう。

 レオは少し考えるように目を瞑ってから、少しずつひねり出すように答える。

「まず……俺が、この姿になった経緯は置いておこう、時間もないし。今まず話すべきはあいつのことだと思うがな」

 そう言って倉庫の裏口に寄りかかって気を失っている人物を見る。

 一応きつく手足を縛ってはいるが、さっきの人間離れした身体能力だったら簡単に引きちぎってしまいそうで心配だった。だがレオ曰くその辺りは任せろといっていたのでまあ大丈夫だろう。

「むー……。いつか! 話してもらうからね。――で、この人だけど、この人が人から魔力奪っている犯人……ってわけじゃないみたいだよね」

 二回目に吹っ飛ばされた後、後ろから近づいてきてこの人は言った。

『人を犠牲にしてまで一体何をしようとしている』と。

 それはつまりこの人は私達の事を人々から魔力を奪った犯人と思い込んでいるということだ。

 どこまでも迷惑な話で、それは私達は勘違いでここまでぼろぼろにされたということになる。

 改めて自分の姿を見てみると、腕や足には数箇所擦り傷ができ、制服には泥がついてなにも知らない人からみたら暴漢に襲われたと勘違いしそうな装いだ。

 レオの身体もところどころへこんでいて、尻尾や前足は歪にゆがんでいる。……レオはこの小さい身体で私を守ってくれたんだ……。

「犯人じゃないとなると――俺達みたいに個人的に調査しているかもしくは……ん? なんだ、急に、どうした?」

「ぐすっ……なんでもないよお〜良く無事だったねれお〜……」

 レオを抱き寄せ、頭をなでまくる。本当に無事で良かったと、今更になって実感する。

「はいはい……それでこいつだけど、きっと『連中』の仲間だろうな多分」

「連中? あの魔力管理組合の人達のこと?」

 裏組織、とでも言うのだろうか、実質的に世界中にあるその組織は裏から国を支配しているといってもいいほどの影響力をもつ。

 基本的に魔力やそれに順ずる『普通ではありえないもの』を管理していて、不足の事体が起こったときはその大きさに合わせそれを鎮静するべく、まずは末端の構成員なりが現地に出奔するのだそうだ。

「俺達が倉庫に入った時にはすでに待ち伏せされていたんだろうな。そして外に出ようと後ろを向いたときに一息に始末しようとしたわけだ」

「でも入り口は開かないようになってたよ?」

「――二階から、入ったんだよ……」

 ……どうやら縛られたその人が目を覚ましたようだ。

「お前達、今回の事と関係ないなら何者なんだ……?」

 力なくその人は言う。表情だけは弱々しくも、その目はいまだに敵意がむき出しにされていた。

 レオが私の腕の中から地面に降りて答える。
                                               マ   ギ
「それを聞く権利はお前には無い。だが少なくとも今回の事には関係ないと言っておこう。お前『全世界大魔技術統制協会』の人間だろう?」

 それを聞いてそいつの表情に一瞬驚きの色が浮かぶ。

「末端は最低限な防御術も使えないのか? とにかくこれでお前の役割はもう果たせなくなったわけだが――」

 言葉を区切り、レオはそいつの体によじ登って顔と顔が密着するまでに近づく。

「――今回の事に関しては協力してやってやらないこともない」

 レオはそう言った。もう完璧に悪役である。こっちからは見えないがきっと良い表情をしてるのだろう。

 その人は身をよじってレオを振り落とす。

「……どういう、ことだ?」

 ひらりと、優雅に着地してレオは応える。

「簡単な話だ。お前も俺達もこの倉庫にオドを集めている奴を追っている。目的は同じというわけだ。だったらそいつをなんとかするまでなら共同戦線を張ってやってもいいということだ」

「……その後は?」

「お前次第だ」

 その人は考え込むように視線を伏せ、そして搾り出すように言った。

「わかった。どの道……選択肢は無い……」

 私はその日、リアル脅迫というのを初めて見た。

「ふん、それが懸命だな。じゃ解いてやるから、変な気を起こすなよ」

 レオが前足を一振りすると拘束は解け、確かめるようにその人は手首をさする。

「……風使いか……まさか、猫にあそこまでやられるとは……」

 拘束がほどけても、その人はその場から動かずにただ悲しく俯いてため息をついたりしている。

「あの……」

 私が声をかけるとその人は顔をあげ、力なく微笑みをみせた。

「ああ、なかなか見事な使い魔だったよ、その歳でよくここまでできたものだ」

 ああ、また勘違いされている。弁解しようと言い掛けたところでレオが私の言葉をさえぎる。

「とりあえず、お前が知っている事を話してもらおうか。ここは一体なんだ?」

 この場において拒否の選択肢がないことを痛感しているのだろう、苦々しく搾り出すようにそいつは話し始めた。

「……倉庫内にあるもの、あれがなんだかわかるだろう」

「舞樫の人々から奪ったものだな。結晶化されているがあれほどのものを一箇所に集めてどうしようというんだ」

 レオが淡々と答える。私はといえばそんなレオの後ろで自身の服についた泥などをはたいていたりしていた。それくらいしかすることが無かった。

「おそらくだが……この街を箱庭にでもするのだろう。規模的にみてもそろそろ実行される頃合のはずだ。お前達もそれを嗅ぎ付けてわざわざここまで来たんだろう?」

 レオは答えない。後ろの私を一瞬見るが、私はそれに微笑んで見せる。猫耳が微妙にしおれていた。

「……? まあいい。そしてギリギリの二日前にやっとここを見つけて、それからずっと中で張ってたんだ。そして最初にきた人間がお前達だった」

「私達だけ? 他には誰も来なかったんですか……?」

 あってもなくてもいいような口を挟む。その人は私を一瞥し、そして続けた。

「『人間は』だ。猫や鳥なら見飽きるほど来たよ。皆、結晶をくわえてな。とにかくタイミング的にお前達が本命だと思うのも無理は無いだろう?」

 なるほど……。やはり勘違いで私達は襲われてしまったようだ。
作品名:千歳の魔導事務所 作家名:こでみや