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千歳の魔導事務所

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「こっちのセリフだ! ほっといたらなにするかわかったもんじゃねーな!」

 肩に乗って耳元で叫ぶ置物。だってもうなにするもこうするしかないじゃんか。

「っ…………。この扉は開かねえんだよ。封印されてる」

「えっ」

「といってもかなり簡単な、引き出しの鍵程度のものだ。まあハンマーで数回思いっきりぶっ叩いたりすればそれでも開くことは開く」

 ……そういう事は早く言ってくれないかな、やっぱりこいつは秘密主義って奴なのか、今時イケメンでもそんなのモテないというのに。

「いやまさか本気でぶっ壊そうなんて、アホじゃないと考えないと思ったからな」

「……アホで結構ですよー」

 私は足元に落としたコンクリートをまた拾い直す。ハンマー程度で開くのならこれでもいけるはずだ。

「だーっ! だからやめろって! なんでそこまでして入りたいんだお前は!」

 ……なんでだろう。そこに扉があるから?

 呆れたようにレオは耳をペタリとしてうなだれている。

「……わかった、わかったよ、やってみよう」

 レオはそういうと私に、レオの手(前足)がカンヌキに触れるような位置で体を支えるように言った。

「前とは違うからなあ……いけるかなあ……」

 ぶつぶつと呟いているのが聞こえるが、すぐにレオは何かに集中しだしたようだった。そして。

 扉の方から、風が吹いたような気がした。

「ん、解いたぞ、開けてみろ」

 私が手をかけると、ギギ……と若干錆付いた音を響かせながらもさきほどとは全く違う軽さで、カンヌキはあっさり外れたのだった。

 ゴォン……と重苦しい音が響く。か弱い私がやっと動かせるほどのドアの向こうは薄暗く、しかし空気はしん、と静かで、そしてなぜかひんやりとしていた。

 倉庫の四隅や壁際には旧型の大型家電の残骸のようなものや朽ちた木材、とにかくガラクタといって差し支えないものが人の背丈ほどに積まれている。

 そのガラクタは、まるで真ん中にあるそれらを避けるように置かれていた。

 倉庫の中心、そこにあったのはドラム缶。おそらく数は十や二十か、それを断定できないのはそのドラム缶がそれ以上のガラス球のようなもので半分ほど埋もれていたからだった。

「……」

「……」

 言葉が出ない。もちろんそれが綺麗だったからということもあるのだが、私の脳裏にはもしかして本当にヤクザなアレなアレではないかという懸念もあるわけで。

「ね、ねえレオ……あれってなに……?」

「まあ大方予想はつくがな」

 レオはその倉庫の中心に向かってまっすぐに歩き出した。ワンテンポ遅れて私も続く。

 近くまで寄ってみるとまた少しだけ気温が低くなった。どうやらこの物体が周りの温度を下げているみたいだ。

 ドラム缶に入りきらずに床に零れ落ちている一つをレオは前足でつつくように転がす。

「やっぱりそうだ、魔力の結晶だな。ほらっ」

 レオは器用に前足を使って私にそれを放り投げた。

「わ、わわっ!」

 なんとかキャッチ。

 手にとってよく見ると、それはゴルフボールサイズの少しだけ白くにごったガラス玉、といったところか。

「これが魔力?」

「結晶化した、な。一人につき一つ。数も大体こんなもんだろ、決まりだな。あとは」

 一足に私の肩に飛び乗るレオ。別に重くはないからいいけどさ……。

「誰が。なぜ。ここにこんなものを集めてるか、だな」

 そうですな、まあそれはとして。ちょっとレオに聞きたい事がある。

「ねえレオ、さっきドア開けたのってやっぱり魔法?」

 レオが魔法使ってるところなんて見たことなかったが、所長曰く昔は結構なものだった、とだけは聞いていた。

「ああそうだ。といっても低級なものだったから覚えようと思えばお前もきっとすぐ覚えられるぞ? 割と便利だから帰ったらやってみるか」

「ほんと? わーやってみたい!」

 所長はそういうこと教えてくれなかったもんな、なぜか。

「じゃあ今度こそ帰ろうか。なんだかあんまりここにいたくないし」

「……お前、なんというか、自由だよなあ……」

 と、踵を返し入り口に向かい歩き出した。そこで。

「ぅわっ」

 急に身体が前のめりになる。背中を押されたからだ。正確には肩に乗っていたレオが後ろに向かって跳躍し、その反動で私の体が前に押される形になったのだ。

 レオの体重はすごく軽い。私が片手で支えても余裕があるほどだ。その体重の軽いレオが私を前のめりにさせるほどの勢いで跳躍したのだ。

 レオが跳んだと、まだ頭が認識していないうちにすぐ後ろから聞こえる鈍い破裂音。砂の詰まったサッカーボールをぶつけたような音が倉庫に響く。

 バランスを崩し、そのまま扉までよろよろと手をかける。そうしてからやっと混乱気味の頭でその音がしたほうを向いた。

 まず目に入ったのは私の目線の斜め上を無造作に回転して垂直に落下する小さな影、これは、レオだった。

 そしてレオがそのまま床に身体を打ちつけようとした瞬間『ドガシャーン!』と大きな音をたてて壁際に積まれていたガラクタが盛大に埃を上げ崩れるのが見えた。

「レオ!?」

 無意識に叫ぶがレオは床と軽い衝突音をさせてそこから動かない。扉から離れレオの傍に駆け寄る。

「大丈夫? 一体何なの!?」

「後(あと)だ! 早く逃げろ!」

 言葉こそ平気そうだがその身体は電池が切れかけている人形のようにぎこちない。

「れお? からだが……?」

 そこで奥のガラクタ山がさらに少し崩れるのが見えた。

 どうやらなにかをレオが吹っ飛ばして(どうやったのかは知らないが)それがガラクタに激突し、そしてそれがこれから起き上がってくるようだ。そこまで理解。

 とりあえず、逃げないと。

 レオを抱えて一目散に逃げ出す。急ぎすぎて一、二歩つまずくが気にして入られない。

 扉から飛び出し、一瞬急に明るくなったことによって目がくら――んでいる場合でもない! とにかく、走らなきゃ。

 しかし、そいつは思ったよりも速かった。倉庫前のコンクリート、そこを倉庫と雑木林との半分ほどの位置で私はそいつに捉えられた。

 そして振り返った私の目が捕らえたのは、私の腕をすり抜けて、顔面に正確に見舞われるであろう拳から、身を呈して私をかばう猫の姿だった。


 衝撃でコンクリートを転がる私とレオ、雑木林まで吹っ飛ばされてようやく運動エネルギーが落ち着く。

 私の顔のすぐそばで横たわるレオと、その向こうにこちらにカツカツと音を鳴らして歩いてくる二本の足が見える。

 太陽からの逆光と、目が定まらないせいでその人物のことは良く見えない。見えないが、このシルエットは……まさか、女性?

「咄嗟に障壁でかばったか、なかなか主人想いの良い使い魔だな」

 声を聞いて確信した。間違いなく女性だ、そしてこの声はどこかで聞いた声だ。

 だが頭も少し打ったようで、意識の所在が危うい。考えがまとまらない。

「まあ無力化とまではいかなかったようだがな」

「孤都……腕輪だ、外せ……」
作品名:千歳の魔導事務所 作家名:こでみや