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千歳の魔導事務所

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「猫の行列……ですか」

 そしてすぐその顔に優しい笑顔を見せながら。

「それはいいですね! 僕も見てみたい。はい、残念ながら僕は見たこと無いですね。これでも結構この子達には懐かれているつもりなんですけどね……もし見かけたら動画にでも残しておきましょう」

 ……まあ、そんなところだろう。

「先生、最近新しい猫も増えましたよね? 私が見るときは大体暗くてよく見えないんですけど、ちょっと小柄な緑色の眼をした感じの」

 柏木先生とはミキを挟んで反対側に座っている櫻井部長が、ミキからもらったポテトを飲み込んでからそんな事を言った。そんな所もお淑やかだった。

「小柄な緑色の眼の猫ですか……? いや、そういう仔は見ませんねえ、多分私が来てから特に増えてはいないと思いますよ」

 その柏木先生の言葉は私には少し意外だった。おそらく校内では一番この猫達に接しているであろう先生が知らないとは……。

 なにせ国語準備室という半ば国語教師用の休憩部屋が中庭に隣接する一階にあるのだ。そしてそこからは中庭がほとんど見渡せる。

 もう一人の国語教師である金子先生(通称カネバア)は本当に準備するときだけしかこの準備室を使わないらしく、柏木先生は自身の授業がない時、大体この準備室でコーヒーを飲んでいたりしているのだった(ミキ談)。

 櫻井部長が頬に手をあてて悩ましげに言う。

「そうですか……? でも確かに日中の中庭とかで見たことはないですからね、もしかしたらまだこの仔達と馴染めてないのかも」

 全く、私達と話す時とはえらい違いだ。

「猫は縄張り意識が強いですからね、そのうちその仔も中庭に顔出してくれれば言いのですが……もしかしたら気がつかないだけで今もどこかでこっちを見てるかもしれませんね」

 柏木先生はそんなことを言いながら足元の猫達を優しい眼差しで見ていたのだった。この人は本当に猫が好きなんだなあ。

「新しい仔もいいけど、ミキはやっぱり行列の方が見たいなー」

 大体食べ終わったミキが一息ついて、コーラをストローで啜りながらそんなことを言う。どうやら本当に二セット分買ってきたようだった……そんだけ食べてよく太らないよ本当……。

「まあこればっかりは運次第でしょうか。でも夕方に良く出るというのなら僕もそれとなく気に見るようにしましょう」

 言って柏木先生は立ち上がり、がさがさと菓子パンのゴミをビニール袋へ入れた。そろそろ校舎へ戻るようだ。

「ごちそうさまでした、と。それじゃ僕は戻ります。くれぐれも日射病には気をつけてくださいね。」

「はい」「ハイっ」「はーーい」

 お淑やかに、可愛げに、元気良く私達はそれぞれに返事をした。

「ねえ部長」

 先生の姿が校舎の中へ完全に消えてから、ミキが櫻井部長に問いかける。

「その猫の行列ってちなみにどこに向かってったの?」

 おっと。それは私が後で聞こうと思ってた事だ。GJ(グッジョブ)だミキ。

「ああ、私が見たときは丁度そこのフェンス沿いの真ん中辺りを歩いていたな。そのままフェンスに沿って歩いていって……一体どこに行ったんだろうな」

「向かって行った先は……特に何もないですよね」

「行ったところでまたフェンスにぶつかるだけだな。もしかしたら抜け道があって、抜けた先で集会でもしてるのかもな」

 意外とメルヘンな事を言う櫻井部長。

 だが今回に限ってはあながち的外れとも言えない可能性があるのだ。

 ミキが『ごちそうさま』と言うのを合図に櫻井部長は立ち上がった。部長もお戻りになられるようだ。

「さて、では午後の活動を始めるとしようか。私は先に戻ってるよ」

「あ、ミキも戻るー。こっちゃんも行こうー?」

 というミキの誘いだったが私はそういうわけにも行かなかった。

「ごめんねミキ、私ちょっと用事があるからまずそっちを終わらせてくるね」

 ミキは一瞬唇を尖らせて残念そうにしたが、すぐに笑顔をくれた。

 校舎に戻る二人を見送り、私は歩き出す。さて、そろそろどこかから見ている翠色の眼をした猫が退屈しているはずだ。





 櫻井部長が言ったような、フェンス沿いに少し行ったところにそいつは居た。

 校舎とフェンスの間は三メートル幅ほどの空間があり、舗装はされていないが手入れは行き届いており、見えるものといったら校舎の壁とフェンスに地面、そして今はほとんど使われていない小さめの焼却炉がフェンスのすぐそばにあるだけだ。

 私を待っていたかのように、いや実際に待っていたのだろう、私が校舎裏に折れるとすぐ足元にレオが座っていたのだった。

 一通り私が校舎にもたれて掻い摘んで先ほど中庭で聞いた情報を話すと、レオはさも予想していたかのように特にリアクションも無く答えた。

「じゃあその猫達が向かった先、この辺りかこの先になにかあるんだろうな。ていうか、まあ」

 レオの目線はフェンスの向こう、雑木林の方へ向いている。

「十中八九、あっちだな」

 まあ、なんとなく私もそんな気がしていたけども。

「なにか、あるよね。向こう」

 それは真夏の蝉達が大合唱する、思い込んでしまったらいかにも怪しげに見えてしまう深い林。その向こう側だろうか、私とレオは言いようの無い、何かの気配を感じていたのだった。



 レオと私はとりあえず抜け道が無いか並んでフェンスに沿って歩くことにした、じっとしていても仕方が無い。

 やはりこの雑木林はどこかの私有地なのだろうか、古くても頑丈なフェンスが外部からの侵入者を拒んでいた。

 そしてどこまで行っても変化も無い景色が続くだけだった。

 前に一回、この学校周辺を撮影した航空写真を見たことがある。歩きながらその写真を思い出したが確かあまりの緑率の多さに驚いた覚えがあった。

 その写真では学校と市街地を結ぶ南西の路沿いだけに辛うじて人の営みが垣間見えるのだが、北西辺りから時計回りに真南に至るまでは見事に深い緑色一色だったのだ。写真の隅の方はもう山だったし。

 それでもその深い緑色の中にも点々といくつか建物らしきものは見受けられたような気はするが、それも今となっては忘却の彼方だ。

 十分ほど歩いたが本当になにもなかったので私とレオは一旦諦めて学校の方へ戻ることにした。

「むー、なんかあるのは確かだと思うんだけどなー。結構古いから絶対抜け道とかあるとか思ったんだけど」

「ま、ここから先は調べるとしても千歳に任せるようだな」

 不完全燃焼。ちょっとした探検のようで燻っていた私の心の中の冒険心は一体どこへ向かえばいいのか。

 校舎裏、小さい焼却炉のところまで戻って来たところでレオの足が止まった。

「それで、これからお前はどうする?」

「そうねー。友達が中にいるから、そこに寄って来ようかな。あ、もう帰る? だったら別に一緒に帰ってもいいけど」

 レオは一瞬考えるようにしてから。

「いや、俺はもう少し周り調べながらゆっくり帰るわ。夕方には事務所にいるから、なにかあったらそっちに」

 ん、わかった。と、レオと別れて校舎裏からとりあえず中庭への角を折れる私。
作品名:千歳の魔導事務所 作家名:こでみや