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千歳の魔導事務所

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「結論から言うと、実行犯は大量にいる」

 私は自分の部屋のベッドの上にいながらにしてそんな嫌な事実を聞いた。

 それは私がガラクタ同好会を訪ねる前の日の夜の事。私が晩御飯を食べ終えて部屋に戻り続き物のライトノベルを読んでいたところ、ベランダに続く窓を叩く音が聞こえたのだった。

 私の部屋は二階にある。普通は強盗や変質者などを警戒すべきなのだろうが、やはり興味というか好奇心というか、そういうものが先行するのが人情というものだ。

 窓はカーテンで覆われていたので私は少しだけ慎重にカーテンをスライドさせた。すると、そこにいたのは綺麗な金色といって差し支えない毛並みの猫だった。

「……レオ?」

 疑問符がつくのはその猫が本当にどうみても普通の猫にしか見えなかったからだ。つまり、レオだとしたらいつも着ているような人形用の服を着ていなかった。

「こんばんわ孤都。良ければ中に入れてもらえないか?」

 喋った。確定。

 そして私はレオを部屋に招き入れたのだった。


「大量って……それじゃなんとかするならその犯人全部をなんとかしなきゃってこと?」

「まだなんとも言えないが……おそらくその必要はないだろ……お、なんだこれ、手帳か」

 私の机の上で落ち着きなく物を物色する黄金の毛並みの猫は呟く。やめろ、乙女の部屋を漁るんじゃない。手帳を取り返す、別にたいした事は書いてないけど。

 取り上げた手帳の代わりに疑問を私は投げかける。

「どういうこと? 犯人なんでしょ? なんとかしなくてもいいの?」

「そういうわけじゃない……そうだな、孤都は使い魔って知ってるか?」

 机を物色することをやめたレオは私の顔を見ながら言った。

「んーなんとなくなら」

 使い魔……それが正しくどんな定義のものを指すのかは知らないが、なんとなくどういうものかはわかる。

 私が今読んでいる本にもそれらしき存在は登場している。そこでは主人公の勇者が道中に出遭った魔物の犬と契約を結んで共に戦う……といった具合だ。この物語では裏切るらしいけど。

 ペット……ではないけれど。主がなにかの代償に、他の生物を自分の僕として使役する。その使役される生物の事を使い魔というらしい。

「そうか、なら説明はいいか。それでその使い魔だが、その使い魔こそが、今回魔力を人から奪っている張本人で間違いない」

「それで……それがいっぱい?」

「そして市内全域に無数に」

 うわぁ……。でも私もそれなりにこの一週間この街を見てきたがそんなような存在は見なかったような。レオが見てるものは私とは違うのだろうか。

「俺だってただ置物してたわけじゃないからな。この数日色々調べてたんだよ、お前とは違う見方でな。それで本当に使い魔が動いているならばその使役者をなんとかすればいいというわけだ」

 聞けばレオも私のように舞樫駅周辺を中心に調査を行っていたらしい。それも私のようにただ周っていたわけではなく、ある程度アタリ(・・・)をつけてそれに沿って行っていたという。

「事前情報があるなら私にも教えてくれててもよかったんじゃない?」

 ほうれんそうは基本だよ?

「その情報というか前知識が多すぎるんだ。下手な事言って混乱させてもかわいそうだからな。千歳も大体の予想はついてるみたいだったしな」

「なんだか仲間はずれにされたみたいな気分なんだけど……」

「まあそう言うな。できることならお前をあまり巻き込みたくないんだよ千歳は」

 大切に思われてるってことなのだろうか。その気持ちはまあ私でもわかる。

「それで、その使い魔が原因ってんならこれからどうするの?」

「今のところはどうもしない。いくつか方法はあるが、まあやるとしても千歳が帰ってきてからだな」

 そういえばそろそろ帰ってくる頃か、結局何処に何しに行ったのかもわからないが、レオの口ぶりを聞く限りは相当遠いところであるようだった。

「ちなみにさ、その使い魔ってどんなのなの? 私にも見える?」

「ああ、見えるとも、こんな姿だ」

「どんなさ?」

「だからこんなさ」

 私の目には机の上で行儀良く座って不気味に笑う猫(置物)しか見えない。それはつまり、そういうことなのか。

「…………猫?」

「そういうわけだ。おそらく犬や鳥も」

 何を言っているんだこの猫(仮)は。そんなこと言ってしまったら嫌な事を想像してしまうじゃないか。

「つまり……? 舞樫市全域に畜生型使い魔がめちゃくちゃいるってこと?」

「畜生……他にいいようがあるだろ……しかしまあ端的に言えばそういうことだ。動物型の使い魔はそう珍しいものじゃないんだがな。だがそれにしても数が多すぎるってことで俺はそれについて調べてたってわけだ」

 だからそんな格好なのか。確かに服を着ていないと一目には人形だとは気がつかない。

「それで今日大体の事に調べがついたんでな。だからとりあえずこうして一応お前にも知らせておこうと思って来たんだよ」

 それはご苦労なことだ。ではさっそく聞かせてもらうとしようか。あ、でも。

「だったら所長も一緒に聞いたほうが一石二鳥じゃない? まだ時間もそんなに遅くないし、電話してみようか?」

「あーそうだな。確かに聞けるならそのほうがいいだろう」

 というわけで私は所長の携帯にコールすることにした。ベッドの隅の充電器から自分の携帯を取り外しているところでレオが話しかけてくる。

「あ、でも俺この体で電話なんてしたことないな。構造的に」

 ボタン押しずらそうだもんね。スマホなら反応さえしないだろうね。

 私はベッドから降りて机の前の椅子に座り、所長の携帯に発信したことを確認したところで通話をスピーカーモードにする。これで耳に携帯を当てなくて少し離れた場所でも対話ができる。

 コール音が四回、五回と鳴っていく。六回目のコールの途中で音が途切れ『もしもし? どうしたの?』と、どこか懐かしいような声が聞こえてくる。まだ一週間も経ってないというのに。

「いえ、なんといいますか中間報告です」

 私はそう言ってレオに視線を向ける。と、同時にレオもこっちを向く。目と目が合う。

「ほら、レオから言いなさいよ!」

「え、これ声届くのか?」

「私の声が聞こえてるんだからそうでしょ、ほら」

 前にお母さんとも同じようなやり取りをしたなあ……。

『レオもそこにいるの? 今事務所にいるの?』

「いえ、今は私の部屋です。家族も今日はいないです」

『そう、それで報告だったね。レオもそこにいるようだけど何かわかったの?』

 レオは少し不安げに携帯に顔を近づけて話し始めた。そんな近づかなくてもいいのよ。

「あ、ああ。大体は予想通りだった。市内全域に結界が張ってあった」

 ――結界。レオがいうには市内を囲うように結界が張ってあり、その結界はその中にいる生物を操ることができるようになるという効力を持つものだったという。
作品名:千歳の魔導事務所 作家名:こでみや