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千歳の魔導事務所

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 また涙目になったミキをあやしながら私達は店を出た。

「さて、次はどこ行く……? ん? 何まだ拗ねてんの? 半分は自業自得でしょー。ホラー苦手なのに怖いもの見たさで観るからー」

「……別に苦手じゃないもん。ちょっと今日のはレベルが高かっただけだもん……」

 流石は全米を泣かせた映画だ。クライマックスなんてリアル悲鳴がそこかしこから挙がってまさに阿鼻叫喚の地獄絵図のようだった。

 私はホラーはそれなりに耐性がある可愛げのない性格をしていたので平気だったが、感受性の高いミキは見てるこっちがかわいそうになるくらい怯えていたのだった。

 結局その後ミキの機嫌は『強化週間が終わったら泊まって一緒に全シリーズを観ること』と引き換えになんとか直ったようだ。

 ただ単に次に遊ぶ約束をしただけのようだがそれはお互いに言わずともわかっていることだろう。

 私達はそれから適当に遊んで、適当に喋って、適当に帰路に着いた。お互い自宅からの最寄り駅は舞樫駅だったが、ミキはそこからバス、私は徒歩なので駅で別れた。

 駅から自宅までの帰り道の途中、私は乙女チックに今日あった楽しい事や、今度起きる楽しい事に思いを馳せたりするのだった。一抹の不安を隅の方で抱えながら。

 ミキは結局、強化週間に参加することさえもなかったのだが、私がそれを知るのはもう少し後の話だ。








「こんにちわー。ミキー、いるー?」

 しかしそこにいた人物はミキではなく。将来は淑女と呼ぶに相応しい女性になるであろう雰囲気を纏った、見るからにお淑やかなお嬢様だった。

 それこそ休日は必ずお屋敷のお庭でティータイムでも嗜んであそばせられるような。

 昼食中のようであまり似合わない小さめのお弁当箱はこれまた意外にもかわいらしい色どりをしていたが、それを口に運ぶ動作はお嬢様のそれだった。

 だがその指は所々鈍く汚れている。せっかく綺麗な手なのにもったいないと思ったのが私の第一印象だった事を思い出す。

 その人物は私を見てメガネの奥の切れ目を少し見開いて言った。

「ああ、久しぶりじゃないか。ミキなら飯買いに行くって言って出てったよ。そろそろ帰ってくると思うけど、多分そこのマックュだから」

 あちゃ、入れ違いだったか。

 金曜日。(だったか? 夏休みは曜日感覚が狂う)ミキと遊んでから二日後のお昼時の時間。私は自身の通う学校の、ガラクタ同好会の部室でもある技術室に訪れていた。

 学校に用があり、そのついでに同同好会部長である櫻井祥子(さくらいしょうこ)さんを訪ねてきたのだ。同好会なのに部長とはこれいかに。まあ正式には部なのだから正しいのだけれども。ちなみに二年生。

 とにかく。櫻井部長とは面識がある。というのも私自身この同好会にはそれなりに出入りしていて他の部員との親交もあった。

 いつもは部長やミキほか数人が各々の担当を黙々と、時に和気合い合いと作業をこなしていたりするのだが今日は部長と、今昼食を買いに外に出ているミキ以外には部員はいないようだった。

 技術室の一番後ろの多人数作業用の机、それの櫻井部長の正面に座る私に彼女は親しげに話しかける。

「今日はどうした? ミキと遊びに行く感じか? あ、もしかしてまた手伝いにきてくれたのか? だが今は特に手伝ってもらう作業もないぞ」

 時々遊びに来る関係で手伝ったりすることもある。

「いやちょっと様子見に寄っただけです。別で学校に用事もあったもんで」

 そうか、と櫻井部長はお淑やかに食事を続ける。私も極力食事の邪魔にならないように、それでいてきまずくならない程度に取り留めの無い話をしたりしていた。

 それにしても――。

『相変わらず細いなお前は。……にしても少し細すぎないか? ちゃんと食ってるのか? 夏だからって抜いてないか? ほら卵焼き食いなさい。ほらほら』

『暑いな。ちょっと窓開けるか。――いや自分でやるからいい、お前は座ってろ。ついでに扇風機もつけるか、うんそうしよう』

『もう宿題終わったか? あんなのは八月になる前に終わらせられるものだからな、さっさとやってしまえ、なんなら私が見てやってもいいぞ』

 相変わらずの世話焼きっぷりだった。卵焼きは美味しかった。

 この人はお嬢様なのは見た目だけで、実は中身はちょっと口の悪く面倒見のいいお姉さんなだったりする。あ、でも実際にお家はお金持ちなんだっけ。

 そろそろお弁当を食べ終えるかというところで本題を切り出す。

「そういえば部長、この前なんか変な猫見たらしいじゃないですか。ミキから聞きましたよ」

 私がわざわざここにきた理由はそれだった。ミキはついでに会えれば別にそれはそれで。

「あの猫達か、あれからまた稀に見るぞ、だいたいいつも暗くなってからだけどな、新しく流れ着いた猫もいたな」

「新しい猫? また増えたんですかね……結構いますよねこの学校」

「今は多分七、八匹くらいだな」

 この学校の敷地は無駄に広い。土地が安いからなのか余っているからなのか余っているから安いのか、知らないが。とにかく市の大自然ゾーンに位置するこの学校は動物達にとっては過ごしやすい環境のようだ。

「変というか……あれはどこか動物離れしてる感じだったな。まるで何か目的があって、そこに向かって歩いているようだった、全然こちらに気づかなかったしな」

 櫻井部長にそこまで聞いて――まさか本当にそうなのかと、期待や焦燥に似た感情が心に浮かぶ。

「あぁでもそういえばその後柏木先生が触ってるの見たな、あの人隠れて餌やってるからあの猫にも、もしかしたらやってるのかもな」

「柏木先生がですか? 意外ですね、結構真面目そうなのに」

 柏木先生――確か下の名前はユキヒコ……だったか。今年からの赴任してきた国語教師で歳も二十代中頃と若く、人のよさそうな雰囲気は一部の女子から人気だったりする。なんでも柏木先生はネコらしい、私にはとてもそうは見えないが。あの人はどちらかといえば子犬だろう。

 と、噂をしている女友達に言ってみたがどうやらそういうことではないらしかった。それ以上は聞き出せなかったが、多分主観の問題なのだろう。

 ご馳走様、と行儀良く手を合わせる櫻井部長。一つ一つの振る舞いからこの人の育ちの良さが伺える。

「さて、では私は作業の続きでもしますかね。それにしてもミキのやつどこまで行ってんだか」

 そういえば遅いなミキ。別に待っているわけでもないけど……ちょっと電話してみようか。

 三回ほどコールの後、携帯の向こうからいつものような明るい声が聞こえてきた。

『やほー! どうしたのー? え、いるの? なんだー早く言ってよー! 今ー? 中庭で猫とご飯食べてるのー! 来る? わかったー! 待ってるー!』

 いいテンションだ。安心。

「ミキ中庭にいるみたいです。ちょっと行ってきますね」

「そうか? ……んーじゃあ私も行こうかな。実は割と暇なんだ」

 というわけで二人で中庭に向かうことにした。

 それにしても柏木先生か……あとで一度、会ってみようか。

 私がわざわざ学校に来た目的の一つが、追加された。



作品名:千歳の魔導事務所 作家名:こでみや