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ネコマタの居る生活 第一話

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 ネズミを模したのだろうか、体長4m以上のそれは、醜悪で、同時に圧倒的な力その物の具現化だった。
「ヘキレキ……とか言ったにゃ」
 外部スピーカーを通しての物だったが、その声は紛れもない、テッソ族の戦士の声だった。
「そんな……あのアカネコさんの一撃を顔に受けたのに?」
 透の声も拾えるのか、その巨大な獣は、機械の動作音を響かせながら透に向き直った。
「ふん、十全なあの女の一撃なら、例え肘打ちでも、今頃首と胴が泣き別れしていただろうがな、気を殆ど失っていたアイツの一撃では、私を一時気絶させるのがやっとだったのさ」
 余裕に満ちた声と共に、その巨大ネズミは二本の足で立ち上がった。
「少々予定より早いが、お披露目しよう。貴様らネコマタをこの世界から駆逐する為に我等が開発した神機よ」
「おいこら、ちょっとまちゃーがれ、お馬鹿なあちきも知ってるぞ、呪力増幅装置と、呪言結印が可能なアームを搭載した兵器は協定違反じゃにゃーか」
 ミーオの声に、ヘキレキは心底楽しそうな声を返した。
「兵器だと?これは土木作業用のアームと悪路移動用の足を備えた建機に過ぎん、ちゃんと協定監視神の承認も通っている」
「農作業用トラクターだと言い張って戦車作った連中再び……」
 透の低いぼやきは誰にも聞こえなかったらしい……歴史は悪い形で繰り返す。
「詐欺そのものじゃにゃーかーっ!あちきらの神力を担保にして結んだ協定がんなザルなのかよーーーっ!」
「ふははははは、この世は常に法の抜け穴を目敏く見つける者が勝利するのだ……死ね馬鹿猫め」
 その声と共に、両手から、それまでのヘキレキのそれとは比較にならない雷撃が無差別に放たれる。
「風塵掌……竜鱗!」
 ミーオは残るエネルギーを放つように、透と自分の周囲に壁を作るように竜巻を巻き上げた。
「ミーオさん!」
「……だぁってろ……気が……散」
 圧倒的なヘキレキの力に抗するように、ミーオが力を集中する。
 だが、その力の差は歴然としていた。
「わりー、兄ちゃん」
「……え?」
「こりゃ、あかんわ……」
 妙に静かなミーオの声が透の耳に届くと同時に、二人を守っていた暴風の壁が消し飛び、二つの荒れ狂っていた力の反発力が二人の体を地面の上に転がす。
「うにゃっ」
「あわぁっ!」
 ゴロゴロと転がされた透が、起きあがろうとして付いた左手に鋭い痛みが走る。
(折れては居ないみたいだけど……ヒビでも入った……かな)
 余りの痛みに、呼吸が苦しい。
 涙目になって、思わず横を向いた透の眼に、赤いズタズタの布が見えた。
 そして、その真紅と対照的な白い肌と黒髪。
「あか……ネコさん」
 ひゅー……
 空気が漏れるような音が、透の耳に微かに聞こえた。
「とーる……どの」
 苦しそうな……だが紛れもない彼女の声。
「ぶじ……か?」
「……なんで?」
 痛みも忘れて、透は身を起こした。
 ズタズタの着物は乱れ、右腕は巨獣ー鉄鼠ーに跳ね飛ばされそうになった時にやられたか、殆ど潰れている……凄惨な姿で横たわるアカネコの姿がそこにあった。
 アームに備えられたかぎ爪の傷か、二筋の傷がその身を深く抉り、そこからあふれ出した鮮血が、草むらを濡らしていた。
 目も、開いては居るが、殆ど見えていないんだろう……虚ろな視線が宙を彷徨う。
「なんで……貴女はそんな状況でっ!」
 なんで、僕の事なんかを。
 仕事なのかもしれないけど……なんで。
 涙が溢れていた。
 それが、アカネコの上にぽたぽたとこぼれ落ちる。
「なんで……ですか」
 そういう透の声に、アカネコは確かに笑みを浮かべた。
「……さて……な」
 アカネコは、見えない目を、それでも月に向けた。
「とーるどの……よい春の宵じゃったな」
「なんで……」
 そんなに優しい声で喋れるんですか。
「……共に月を愛でる事が出来た人を守れたなら……我が生には……」
 こほっ……
 口の端を血が伝うが、アカネコはそれでも口を開いた。
 守った人に、泣かれたくは無かったから。
 笑いながら、口を開いた。
「意味が、あったのじゃ」
 虚ろだった目が静かに閉じた。
「あか……ねこ?」
 透の涙が、彼女の首の上でひしゃげた銀の鈴の上で、散った。
 
「見たか、この神機、鉄鼠が力、剣聖とて、この力の前では敵では無かろう」
「ひでーネーミング……まんまじゃにゃーか、完全にセンスがマイナス領域だじぇ」
 この期に及んでも、ミーオの不遜にして不羈の精神に屈服の二文字は無い。
「第一よー、どーせ師匠があの姿だから吹かしてんだろ、んな不細工な機械で剣聖の力に勝てるとか頭湧いてんじゃにゃーか」
「……貴様……楽に死なせんぞ」
「最初からそんな気はにゃーだろ、てめーらに優しさだとか、品だとか、高潔さとか、公平さとか、風流さとか、そーーーいう一切の事ぁ、期待なんざしてにゃーわ、ドブネズミ」
 ヘキレキを挑発しながら、ミーオは感覚を鋭く研ぎ澄まし、自分とは別の方向に弾き飛ばされた透の行方を追っていた。
(どこに飛ばされたんだよ、つか、はよ逃げろよにゃー……)
 散々ヘキレキが喚いていた事だが、今夜の襲撃の目標は透の殺害である。
 それが、アカネコを倒したことで、ヘキレキの頭からは一時的かも知れないが、その事がすっかり抜け落ちている。
 つまり、今の内に透を逃がしてしまえば、この勝負はミーオやアカネコの勝ちだとも言える。
(師匠の死は無駄にゃーしねー)
 自分たちは勝つ、最後には、このネズミに吠え面をかかせてやる。
「やかましいっ、ネコマタ風情がっ!」
 雷撃がミーオの周囲で弾ける。
「なぶり殺しにして、師匠の元に送ってやる……最初にその尻尾でも焼いてやろうか?」
「へっ、最初に封じたいのはこの口じゃにゃーのかよ?」
 両手で口の端を一杯にひっぱり、いーっ、という形を作ってみせる。
 挑発を繰り返しながらも、ミーオは右手に力を集めていた。
 ただで死ぬ趣味はない。
 狙うのは……呪印を結ぶ、アームのどちらか。
 アレをつぶせれば、少なくとも、この圧倒的な呪力は封じられる。
「では……望み通り、その口を雷で焼いてやる……ついでに顔が無くなるかもしれんがな!」
 来るか……。
 ミーオの前で呪印を結んだら、あのアームの指一本でも良い、あれに散華を叩き付けてやる。
 自分はやられるかも知れないが……それでも。
(風塵掌……竜気導引)
 静かに、静かに息を凝らす。
 鉄鼠のアームが持ち上がり、呪印を結ぶ。
 もう少しだ……術を解き放つ、その瞬間の一番の無防備な瞬間を狙って……。
「はははっ、その手に乗るか、馬鹿猫め」
 ミーオが一歩踏み込もうとした……その瞬間、巨体に似合わぬ身軽さで鉄鼠が後に飛んだ。
「ちっ!」
 舌打ちするミーオに、鉄鼠に搭載された外部スピーカーからヘキレキの嘲笑が浴びせられる。
「貴様の呪力や動きを見ていれば、何をしようとしているか位お見通しだ、貴様とは戦いの年季が違う!」
 鉄鼠の前に雷球が発生する。
 高温のプラズマ溶鉱炉。
「これで、丸焼きにしてやる、ネコマタの黒焼きなら、さぞ高値で売れるだろう」
 効能は媚薬か?
 そうヘキレキは薄く笑った。